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二,「カゲカタナ」




ーー暗いところには気をつけろ


どういう意味だろうか?


そして、あの黒い少女は何者なのだろうか?


少年・小泉 光〈こいずみ ひかり〉はこの言葉と少女の事をずっと考えていつの間にか放課後を向かえていた。


今は鞄をエコバッグがわりに軽い買い物を済ませて帰宅中である。


その感も考えることは、あの黒い少女と少女の言葉。暗闇の夢ばかりだ。


友人・夏目 陽介〈なつめ ようすけ〉からは


「妄想の翼が広がり過ぎたんだろ」


と、言われたが、光は確かに少女がそこにいたことを確信していた。


あの長い髪からくすぐった香りがあの場に残っていたのだ、つまりは少なくとも少女は確かにその場にいたのだ。妄想ではない現実だと。


あの髪も、瞳も、セーラー服も


全て本物だ。







では、少女はなぜあの時、消えたのだろう。











考えて答えが出る問題では無いのだろう。

光はそのまま考えがなにも進展することなく家路に着いてしまった。



「ただいま」


誰もいない玄関に帰宅を告げた。

いつもなら、祖父・宗次〈そうじ〉が仕事場から

「お帰り」をいってくれるが、今日から一週間ほど旅行で留守にしている。しばらくは光ひとりなのだ。


だが、光は明日も

「おはよう」と

「ただいま」は言ってしまうだろう。長年の週間と、今の自分の不安な心の常態から。



買い物を鞄から冷蔵庫へと入れ替え、軽くなった鞄を部屋に置いてから光はテレビのスイッチを入れた。


静かだと落ち着かないらしい。


それからテレビを見るでもなく着替えを済ました。





光は祖父の仕事場へと向かった。

あそこにまだ整理していない道具と消耗品が作業台に置かれたままとなっている。それをまだ日のあるうちに片付けておこうと思ったのだ。

幸い今は夏場。日が落ちるまではまだ時間があった。




「えーと、ベビーサンダーが一丁に薄刃砥石の100が四十枚入り十箱・・・・」



光は手際よく道具を棚へと整理していく。時々道具整理は手伝っているもう馴れたものだった。




「よし、こんなものかな」


祖父の道具整理が終わった。もう日暮れまで時間がないくらいに没頭してしまったようだ。


つい、他の道具の手入れまでしてしまったのが原因であろう。


「うわ〜、また着替えないと」


おかげで光の衣服は気をつけてはいたが多少汚れてしまっていた。



もう外は暗くなりはじめている。


「急ごう」


なんだか寒気がして光は中へと入った。




中に入ると光はすぐに着替えようと洗面所へと向かった。


(あれ?)


が、すぐに立ち止まる。何か家の中に違和感がある。


・・・・・・・・静かすぎる。


確か自分はテレビを点けてから仕事場にいったはずだ・・・・・・・・。


音をそれほど大きくしていないにしても、全く音が聴こえないのはおかしすぎる。



光は着替えるのをやめ、居間へと移動した。



「・・・・消えてる?」


居間に入ると点けてあるはずのテレビは消えていた。


何もついていない部屋の中は薄暗く不気味に感じた。


光は急いで蛍光灯の灯りを点けた。


「・・・・・・・・!?」


灯りが・・・・点かない。

二度、三度と紐を引っ張る。だが点かない。

台所や廊下の点灯スイッチも押してみた。


・・・・・・・・点かない。


(停電?)


いや、隣家の電気は点き始めている。


光の家だけの明かりが点いていないのだ。


(ヒューズが跳んだ?)


いや、そんなのではない。


なぜか、暗く感じる。ここだけが他と違う。


ずっと、ずっと早く、暗くなって来ている。



「!!?」



ゾッとした。

寒気が走った。


誰かが光をジッと見ている。



そう感じる。


(ここは、ここはダメだ!?)



直感が感じた。すぐに夢の映像が思い出される。

あの少女の言葉が甦る。



(どこか、どこか明るい所に!)


瞬時に、ここで一番明るい場所を思い出す。


「向かいのコンビニ。おじいちゃんの自転車なら!」


五分もあれば!



光は一気に玄関へと駆け出した。


玄関が開く。


重いナニカを後ろに感じた。



全力で祖父の仕事場の脇にある。自転車に跨がった。


鍵は掛かってない。

今回ばかりは光はこの事に感謝した。



そして、全力で自転車を漕いだ。




光は背中に感じるナニかを振り払うようにコンビニへと向かった。




(ここだ、ここを曲がれば!)


コンビニだ!



足をブレーキ代わりに曲がり角を光は曲がる。







「え・・・・なん、で」


光は確かに曲がり角を曲がった。すぐそこにコンビニがあるはずだ。

二十四時間営業の明るいコンビニが



あるはずだった。



「うそ、でしょ」



だが、そこにコンビニとおぼしき建物は無かった。


遠く見える明かり。あれがコンビニらしかった。


(!!!?)



悪寒が走った。


来る。何かが来る。光に向かってくる。

(クッ!?)



光りは無我夢中で自転車を漕いだ。コンビニを目指した。



立ち止まっては駄目だ。


立ち止まったら・・・・・・・・。



近づく気配を背に光は気を保って前へと進む。



(なんで・・・・)


しかし


(なんで!?)


光の自転車は


(なんで!!?)


「コンビニに着かないんだよおっ!!?」



目的地には着かない。


悲痛な叫びが暗闇に響く。


近づいても、近づいても、 引き剥がされるようにどんどん遠くなっていく。



それどころか、周りはじわじわと暗闇に閉ざされていく。


自転車は光の知らない場所へと運んでいく。


「ど・・・・どこだよここ」



やがて光は完全な闇に閉ざされた。


「どこなんだよっ!!!?」


不気味な工事現場へと到着した。



こんなところでジッとしてはいられない。 どこか、人のいる場所へ、明るい所へ。



光は再び自転車のペダルを踏み、ここからUターンしようとする。



ガチャンと音がした。


「え?」


自転車のチェーンが外れていた。


「なんで、こんなときに!?」



ガチャガチャとペダルを焦って動かす。

だが、チェーンが戻る気配はない。




ジトッ・・・・・・・・と、絡み付くような気配が



「!!!?」


今までにない感覚で、直接、光の体を絡めとるように向かってきた。



「アアアアァァッッ!!!?」




光の今まで保ってきた理性が崩壊した。


自転車を放り出し、絶叫を挙げて無我夢中で走り出した。


ーー誰か、だれか!!?


絡み付く気配は


離れない。ピタリと追ってくる。


ーーだれか!!?


光を開放してはくれない。



「だれかあああぁぁぁぁっ!!!?」


ただ空しく光の叫びが闇に木霊するだけ。




助けなどは・・・・・・・・来ない。




「きみ、こんなところで何をしているんだい?」


だが、人はいた。


「!!?」


その人は警官らしい。光はやっと見つけた人間に無我夢中で駆け寄った。




「助け、助けて! 何かが、何かが僕を!!?」


「ちょっと、ちょっと落ち着きなさい」


気持ちの悪い恐怖に、狂ったように警官の肩を掴み揺すった。

そんな光に警官は落ち着くように諭した。


「で、きみはこんなところでなにを?」

警官は落ち着いた様子で再び光に尋ねた。


光はこの場に置いてこんなにも落ち着いている警官に不気味さを感じつつも後ろからの気配から保護して貰おうと慌てて信じてもらえるか解らない事情を説明した。




「不気味な気配ね」

「嘘じゃない! 本当になにかいるんだおまわりさん!!」


顔色ひとつ変えない警官に光は殴りかかるような勢いでもう一度説明を


「ああ、そんなことより」


警官は手で抑えた。

自分の必死な主張をそんなことで片付けられ光はさすがにカチンときてなにか言おうとした。


「きみはいまいくつ?」


が、真顔で突拍子も無いことを言う警官に光は面食らいながらも

「十六、十七になりますけど」

警官の質問に嫌々ながらも答えた。


「そうか、それはよかった」


それを聞いた警官は訳の解らない事を口走った。


「ちょうど、そのくらいの年齢が欲しかった」


(!!!?)


光はゾクリとした。

警官の不気味に歪んだ笑みを見せた。


気配が変わった。いや、隠していた気配を解放した。



このゾクリとする気配。光はそれをさっきまで


「あ、ぁ、ああ」



背中で感じていたのだ。



「その心を喰われ、その身体を・・・・よこせ」



警官の影が膨れてナニカが、飛び出してきた。




「ウアアアアアアァァッ!!!?」


絶叫して、尻餅を付いた光をそれは身をろすように眺めて・・・・いや



目の前の異形に目などありはしなかった。黒く塗りつぶされたようにそこには何も無い。



その姿はオオサンショウウオのような外観。

蜘蛛のように細長く不気味な足が六本。その腕は鋭利なナイフのようであり、杭のようであった。



そして、



全身が影のように真っ黒なのだ。


「は、は、あ・・・・あ」


光は後でに下がろうとした。


だが


(あ、あしが)



足が動かなかった。目の前の怪異に恐怖し、半身が反応をしめさない。


そんな光を嘲笑うように怪異の隣に並び立つ警官が口を開く。


「お前はコレになる」



「え・・・・あ・・・・あぁ」


「心配しなくてもいい。死ぬわけじゃない。心が消えるだけ」


警官の手が光に伸びる。

「ヒッ!!?」


声にならない声を漏らして光は

心の中で叫んだ。



ーーいやだ! 助けて!!



と。



「うるさい」


警官が呟くと光の眼鏡が弾け飛んだ。



光は心を絶望で塗りつぶされる。



(もう、僕は)


あの化け物に。



「大人しくしてればすぐにすむのだ。人の箍から外れ、素晴らしい存在へとなるのだ」


再び警官の手が光に伸びる。


光はもうなにも、考えられなくない。


終わるのだ。小泉 光という存在が







だがしかし


「勝手なことを言うもんだ」


「な、に!?」



絶望の中から



「そんなもんは、素晴らしくもなんともねえっ!!」



救いは現れる。




光の目の前に、警官を吹き飛ばす。存在が写り込む。


その存在を主張するものは怪異と同じ




「黒」



否、同じではない。この

「黒」は心強き

「黒」



「ふん、実体がありゃ簡単に吹っ飛ぶもんだな」



夜の闇にも溶け込まない際立つ

「白」を持つ

「黒」


「お前、平気か?」

光の目に大きめな黒い瞳と白い肌。そして、硯に擦った墨のような黒さのポニーテールが写り込む。

絶望の中から光が灯る。


(ああ・・・・君は)



「黒の女の子」




「実体? あれば? なら無ければ無意味! 背を向けるバカは消えるのだ!」


警官の叫びと共に怪異が黒い少女に向かってその腕を降り下ろす!



「うるせぇな」


少女がめんどくさそうに呟き、自信のポニーテールを片手で振り払う。


その行動と降り下ろされた腕がぶつかるのは同時のこと。



「!!!?」


その出来事に警官と光は目を疑った。


怪異の腕が空中で止まっている。


否、少女が受け止めた。


黒い少女の手には逆手に握られた得物がひとつ。それは


ーーーー

「影のように黒い刃の刀」



それだけで少女は何倍もある怪異の腕を軽々と受け止めた。

「そ、それは、貴様は、まさか!!?」

警官は驚愕の声を挙げてその一部始終を見た。



「甘えよ」



黒い少女が逆手をまるでペンを転がすように返し、怪異の腕をついでの行動だと言うように切断した。


怪異はのけ反り、その切断された腕はまるで霧のように消失した。


黒い少女は気だるそうにその黒い肩に担いで警官と怪異を見る。


「貴様は? は、俺か、俺はな」


黒い少女は男性のような言葉遣いでユラリと何も持たない片腕を挙げ、トンと自信の胸を親指で指す。「影見 ツカサ〈かげみ つかさ〉だ」

「カゲミ、だと!!」


「そして」


影見 ツカサと名乗った少女は黒い刀を自信の目線に合わせ、睨みつける。


「〈カゲカタナ〉だ」










「かげ、かた、な?」


光はいま、自分の目の前で起きた出来事が信じられず。やっと絞り出した言葉がそれだった。


(この娘は、いったい)



自分を見つめる光の視線に少女は気だるそうな半目で応え、左腕の指と指を合わせて光の目の前に突き出す。


「ここからは見ないほうがいいぜ」


瞬間、指を縦にキンと鳴らした。普通の指では鳴らない音が響き


「あ・・・・」


光は気を失った。



「さて、あとは」


ツカサは再び黒い刀を肩に担ぎ警官と怪異に言う。


「おい、一瞬で消えるのとじっくりと殺されるのどっちがいい?」


この挑発的な言葉に警官は笑う。


「ハハハ、大した自信だなカゲミのカゲカタナ。やれるものならやってみるがいい」


「へぇ、わかった。一瞬がお望みだな」

ツカサは肩に担いだ刀を横に構える。


「親父の命令だ。あんたは無事に帰すぜ」


横目で気を失っている光を見つめてから怪異へと目を向ける。


「ーーせ。ーーサキ!!」



ツカサの叫びと同時に闇の世界に暴風の一閃が巻き起こった。










「ん・・・・あ、あれ?」


朝の陽射しに、光は目を覚ます。


先程までの場所ではない。光は布団を掛けて眠っていたのだ。辺りを見回すとそこは自宅の居間だった。


「あ、着替えるの忘れて寝ちゃったのかな?」


パジャマを着ていない汚れた衣服はのままだ。


「イッテテテ」


起き上がると何故か体が痛かった。

まるで筋肉痛のような痛みだ。


光は無理矢理に体を起こし、伸びをした。


(あれは、夢だったのかな?)


あの現実離れした出来事は。


「でも、いままでの夢よりよかったな」

化け物から自分を助けに現れる少女。


まるで漫画のような話。




「とりあえず、朝御飯でも」


だが、


「・・・・・・・・え?」


襖を開けるとあの夢が現実のことだとわかる。


「な・・・・・・・・えぇ!!」



廊下で少女が壁を背にして寝息を起てている。


「朝」初めて出会った少女。


「夢」の中で助けられた少女。


「黒」という色がとても栄える美しい少女。



「影見 ツカサ」が、そこにいた。

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