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ショートショート5月~

グミの木

作者: たかさば

小学生の頃、通学班の待ち合わせ場所にグミの木が生えていた。

少し大きなレンガの塀の上からのぞく、グミの木。


夏休み前になると、この木にグミの実が付く。

赤いグミの実は、宝石のようで、とても魅力があった。

しかし、知らない人の家に生っているもの。

採るわけには、行かない。


夏休みの、出校日。


「ねえねえ、あなたたち、これいらない?」


グミの実のおうちの人が、ざるいっぱいのグミをくれた。

初めて食べる、赤い宝石。


すっぱくて、渋みがあるけれど、甘くてびっくりした。

登校してきたみんなと一緒に分けあって食べた。


グミの木は、その年を最後に切られてしまった。


あの時の味が忘れられず、ずいぶん年を重ねた。


庭のある家に越してきたとき、私はグミの木を一本、植えた。

ずっと、あの日の味を忘れられない私の、たっての希望。


植えて三年目、一粒だけ実が付いた。


赤い宝石のようなグミの実は、知らないうちに鳥が食べてしまった。


何年たっても実が付かず、どうしたことかと思ったらなんと別のグミの木を近くに植えないといけないらしい。なんてこった。


苗を買おう買おうと思っているうちに、タイミングを逃し、結局実の付かない大きなグミの木が我が家の庭を占領している。


グミの木は、鳥たちに非常に好評だ。

とげが多く、外敵から身を守れるうえに内部は意外とすかすかしており巣が作りやすい。

さらに番犬がいるので、野良猫が侵入する心配もない。

鳥に大人気の無料アパートみたいなもんである。


毎朝鳥たちが騒がしく朝を知らせる。

天然の目覚まし時計。


狭い庭が、グミの木でどんどん占領されていく。

ついに、道路にまで進出を果たし、いよいよ規模の縮小を迫られた。


「すみませんが、退去をお願いします。」


前日までに、言葉の通じぬ鳥の皆さんに通告した。


グミの木の枝を外側から切り落としていく。

中の方に、明らかに巣がある。

これを、撤去する勇気はないぞ…。


仕方がないので、中の方は残して、二回りほど小さな木に整えた。

切り落とした枝が、小さな庭を占領している。

一気にゴミ捨て場に持っていけないので、後日クリーンセンターにもっていこうと計画した。


切り落とした木の枝をクリーンセンターに運ぼうとしたら、枝の中に鳥たちがいるのを見つけてしまった。グミの木から退去した皆さんが、新しい住みかとして、認定してしまったようだった。


とても、撤去する気になれない。


かくして、庭の枝は、そのまま置かれることとなった。


「という、悲しいいきさつがあってですね!!!」

「剪定さぼってただけじゃん!!ごみ捨てやめただけじゃん!!」


おおう、娘がカンカンだ。


「もうちょっとホントひどいよ?!この庭足の踏み場ないじゃん!」

「踏み越えればいいじゃん…。」

「だめだろ!!!」


地域のクリーン運動というものがあってですね、草を刈ったり、ゴミを拾ったりするんですけれども、うちの庭がね、結構ひどいことになってるんでね、目立っててですね、うん、ほんとごめん。


「どうしよう、もうどうにもできない。」

「できないじゃない!どうにかするんだってばあ!!」


クリーン運動は朝八時スタートの九時終了。

全然終わらず、今夕方四時だよ!!!


言い訳ばかりして、やることやらないのはいけませんなあ。


反省した私はとげだらけの枯れ枝をせっせとまとめる。

せっせとまとめてはいるけれど。全然、終わらん!!


逃げ出そうにも、娘の目が光り…。


さぼれないさぼりたがりの私は、ただただ、黙って、枝を片付けている。


はあー。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 思い出→現実→台無し。素晴らしい流れでした。この黄金パターンは真似したいところ。 [気になる点] グミの木、どんな味なんだろうか [一言] 鳥さんには恵みのアパートですね。フンがたくさん散…
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