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よろしくお願いします。

 その後、俺たちは色々な話をしながら夕食を楽しんだ。明後日の朝は早く出てそのままリンクルアデル城に入城するとの事だ。


 シャワーを浴びた後、俺はクロと軽くお酒を飲んでいる。ウイスキーっぽいな。氷を入れて意味もなくグラスをクルクルと回転させてみたりする。そんな俺『カッコいい』と思ったりしたことあるだろ? 俺はある、今まさにその真っ最中だ。


「クロちゃんよ」


「はい、旦那様」


「俺、帰りたいんだけど」


「それは勘弁して下さい」


「嫌だ、面倒くさい。会う理由がない」


「わがまま言わないで下さいよ」


「行きたくない」


「ダメです!」


「ひどいね、クロちゃんは」


「サティさんやソニアさんに怒られますよ?」


「それも困る」


「じゃぁ仕方ないですよね」


「うーん、でも陛下用のお土産って持ってきてないよね?」


「それも仕方がないですよ」


「そうだよな...顔を見てすぐ帰ろう」


「そうしましょう」


 そうして、次の日は街中を散歩したりローラ様とお話したり。伯爵と今後の仕事について話をしたりした。ローラ様はシェリーとロイに会いたがっていた。近くで同じ年代の友達が居ないのだそうだ。


 なので、次回は是非ロングフォードに来て下さいと伯爵に伝えておいた。ローラ様も伯爵におねだりしていたのでそう遠くない間に遊びに来るだろう。バタバタしているが伯爵は本当に良く俺たちを気に掛けてくれている。何度も言うようだが、俺も周りは本当にいい人ばかりだ。


 極端なんだよな。メチャクチャいい人か、盗賊やなんかで死ぬしかない奴。この世界にはこの2種類しかいないのか。


 そして当日。伯爵も護衛を連れて一緒に行くことになっている。俺たちは各々馬車に乗り込み王都アデリーゼへと出発した。


 道行く人はこの大名行列に驚いた様子だ。それはそうだろう。侯爵家、伯爵家、男爵家それぞれが豪奢な馬車と家紋の旗を靡かせている。伯爵家の衛兵と警備が前方の馬車や人を全て脇へと追いやり道路は貸切となっている状態だ。暁の砂嵐もシンディも横を並走しながら緊張した面持ちでいる。伯爵家訪問がわずか数日のうちに目的地がリンクルアデル城になるとは夢にも思ってなかっただろう。俺もそうだしな。


 窓越しにシンディが何か言いたそうにしている。俺はクロに話を聞くように促した。


「シンディさんどうかしましたか?」


「あの、クロードさん、私たちはお城に着いたらどうしたら良いのでしょうか?」


 これは至極真っ当な質問である。門の内側にたとえ一歩でも入る事、それは入城を意味する。本来平民がリンクルアデル城に入城する事など生涯無い。


 許可なく一歩でも中に入った者は問答無用で切り捨てられる。言うなれば国家転覆罪だ。未遂だろうが何だろうが直ちに処罰、執行される。


「私も経験がないのでわかりませんが、恐らく門番に指示を仰ぐ形になるでしょう。そこから先は陛下に選ばれた者だけが入城できる形となるはずです。ですので一旦城壁の前で止まるはずです。必ずそこで止まって下さい。馬車がそのまま入ろうとしても止まって下さい。必ず指示を仰いで下さい。必ずです」


「わ、分かりました。皆にも伝えておきます」


「よろしくお願いします」


 言っておくが、俺も本来城に入れる人間ではない。そもそも元を正せば男爵家すら入れる人間ではないのだ。絶対に勘違いしないように気を付けなくてはならない。


 よくテレビで国王との謁見の場でタメ口で話す主人公がいるが、あんな事をしたらその場で死刑だ。「おい、オッサン来てやったぜ?」などというセリフはおそらく最後まで言えないだろう。その上で一族郎党皆殺しだ。特権階級はそういった不敬を絶対に許さない。


 前にも言ったかも知れないが特権階級とは歴史に刻まれた血によって作られている。それを守るために厳しい制約と誓約を受入れ、そして貴族たる責任を全うしているのだ。その歴史を、階級の重みを軽んじる者は即処罰だ。


 反面、増長し身分や権力を笠にして裏では好き放題する輩も出てくる。当然表に出てしまったら処罰の対象だ。領地差し押さえ、資産の没収、平民への格下げ、下手をすれば死罪だ。何事もバランスが大事ということだな。


 何時間か走ると前方にメチャクチャ大きい建物が見えてきた。あれがリンクルアデル城か。流石国家の中枢を抑える国王が住む城だ。なんと雄大で美しい城だろうか。俺はしばし見惚れてしまった。


 そして城は徐々に近づいてくる。


-----------------------------


 時は遡り昨晩の出来事である。


 コンコンコン!コンコンコン!

 

 国王の寝室のドアノッカーを叩くものがいる。時間はもう夜中である。緊急事態か?


「誰だ!何用か!」


「夜分遅くに大変失礼致します。神殿の方で巫女が神託の予兆があると申しております」


 隣に眠る妻を安心させるとドアの方へと歩く。


「予兆とはどういうことだ?神託があったのではないのか?」


「私にも詳細は分かりません。巫女が陛下に至急連絡をと!神託が下る予兆があると申しております!」


「的を射ぬ言葉だ。未だかつて予兆など起こった事などないではないか。ええい、仕方がない。すぐに向かう。支度をせよ!」


「はっ、失礼致します」


 メイド達は慌ただしく国王の身なりを整える。そして先に立ち国王を神殿へと案内する。万が一に備え国王の周りには衛兵が固め一団は神殿へと急ぐ。


 リンクルアデル城の内部には神殿と呼ばれる創造神アザベルを祀る場所がある。礼拝堂も兼ねているこの場所は巫女と呼ばれる者達で管理され城内で運営されている。巫女はスキルを持つ者のみがなれる特殊な職業であり神々の神託を授かることが出来る。男性はなる事ができない。また女性も穢れの無い乙女であることが条件とされているが、過去の歴史を紐解くと既婚者も巫女としての能力を持っていたなどという記述もあり定かではない。


 中でも神子と呼ばれる者が一番位が高くなるのだが神子になるのは年齢や序列ではなく神より直接選ばれる。これは神託を授ける際に一番繋がりやすいのが理由とされている。


 それ以外の巫女は将来の神子となるため、あるいは神子の側仕え、あるいは行事などの祭事に従事する。巫女は神々の意思を繋ぐ重要な役割であり、その能力を政治目的で歪曲して伝える事は禁じられいる。仮に著しく事実と乖離し私利私欲に利用した場合は神罰が下るとされている。神々の怒りに触れた者、その末路がどうなるかは書くまでもない。


 シュバルツが礼拝堂に到着するとそこには多数の巫女が慌ただしく動いている。明らかに状況がいつものそれと違う。


「どうした?何があったのだ?」


「陛下! 夜分お呼び立てする形になり誠に申し訳ございません。御神子様が至急陛下に取り次ぐようにと。私ども巫女には降神の儀の準備を大至急取り進めるよう指示がございました」


「なに! 降神の儀だと? いったい何を考えておる! レイラはどこだ!」


「御神子様は既に神殿の内部にて降神の儀に向けて祈りを捧げております。陛下もこちらへ」


 一団が中へと進もうとした時だった。


空間が捻曲がるように動いたかと思うと礼拝堂入り口の両脇に2つの光が現れる。


「な、なんだこれは、何かしたのか?」


「い、いえ私共はなにも...」


 その二つの光はボンヤリと入口を照らしている。


「ああああ」


 シュバルツは理解が追いつかない。私は一体何を見ているのか??


『これより先は神聖な場所である。兵士やらの類はそこで控えよ』


 声が聞こえているのか、頭の中に響いているのかも分からない。ただ、これが誰か、私が何をするべきかは分かっている。


 これは...神の使いだ。


「衛兵はそこで待て! 平伏して微動だにするな! 無礼は許さぬ! 良いな!」


「はっ!!」


 すぐさま巫女に神子の所へ案内するよう伝える。光を抜け、礼拝堂に入ると両脇には巫女が礼拝堂の先まで並んでおり全員が平伏している。異常だ。何が起こっているというのだ。


 その礼拝堂の一番奥。そこに彼女は立っていた。


「レ、レイラ! いや、御神子様、これは一体...」


「陛下、どうぞこちらへ」


 レイラはそう言うだけでそれ以外の言葉を一切発しない。その後ろ側からは薄ら光のようなものが差しているかのようにも見える。付き添っていた巫女は既に両脇へと場所を移し平伏している。


 シュバルツは恐る恐るその真ん中を歩いていく。


「さあ、こちらへ」


 レイラは陛下を礼拝堂裏にある神殿への入口へと誘う。神殿内部には巫女姫と呼ばれる上位巫女が祭壇を囲むようにしておりその全員が平伏し祈りを捧げている。


「御神子様、降神の儀を進めていると聞いたが」


 先ほどからシュバルツの疑問にレイラは一切答えない。本来不敬であるこの振舞いも今だけは不敬に当たらない。



 なぜなら神儀に携わるその瞬間、神子は神の代弁者となるからだ。




いつもお読み頂きありがとうございます。

よろしければ評価、ブクマを頂けたら嬉しいです。

引き続きよろしくお願いします。

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