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よろしくお願いします。
俺はいまエミリアさんの案内の元、商業ギルドへと向かっている。
護衛にはクロとシンディがいるので馬車を少し遠めで降りて歩いていくことにした。街中を歩くのは好きだ。色々な情報も拾えるし、美味いものも食べれる。なによりこの活気だ。この雰囲気が俺は大好きなのだ。
「次はこれを食べよう」
「ヒロシ様、食べすぎですよ」
「大丈夫だ、全部は食べないから。皆で分けようぜ」
「それなら、こっちも食べてみたいですね」
「最近クロも言うようになったんで俺は嬉しいよ」
「ヒロシ様、よろしいのですか?自分の分はちゃんと私が自分で...」
「良いんだよシンディ。クロがいっぱい持ってるから。と言う訳で支払いよろしく」
「はいはい、分かりました」
「エミリアさんも食べるよね?」
「い、いえ、私は...やっぱりちょっともらおうかしら?」
「ここは周りが森と山に囲まれているから海産物が少ないんだね?」
「ええ、そうです。ロングフォードから商人が買い付けたいのですが片道10日程掛かるので輸送中にダメになるんです。ですので、森や山で採れる魚が主ですね。海もありますが漁獲量は多くないのです。」
「ふーん」
「どうかしましたか?」
「いえ、川魚も美味しいですよ。焼いて塩か醤油でパリッと。そう言えば醤油とか胡椒とか香味や調味料ってどこに行っても沢山ありますよね?」
「はい、ありますよ?どうかしましたか?」
「いえ、テンプレ的には醤油を作れば大儲けが出来る筈なんですけどね...」
「テンプレの意味がよく分かりませんが、醤油で大儲けですか? 醤油を作っている商会ではそれなりに利益があるかと思いますが、一般的に流通しておりますから大儲けまで行くかどうかは分かりません」
「あと、これを聞くのは失礼になるのかな? トイレの事情なんですよ。あ、すみません。やっぱり失礼でしたよね、忘れて下さい。すみません、本当にすみません」
「ヒロシ様ってたまにぶっ飛んだ質問しますよね。超ヤベェっすよ」
「冷静に言うなや」
「うふふ、超ヤベェって言うんですか?」
「シンディは真似しちゃいけません」
と言いながらもクロと楽しそうに話すシンディを見ていると、感化されるのにそれほど時間はかからないだろうなと思うのだった。そんな話をしているといよいよ商業ギルドへと到着した。
「失礼します」
エミリアさんが受付で話をはじめた。
「昨日アルバレス伯爵より書簡が届いているかと思いますが、その内容について商業ギルドよりお話を頂きたく参りました。ギルド長にお取次ぎ願えますか?」
「は、はい。ただいま少々お待ちください」
と受付は出て行ったかと思えば、中年の男を連れてすぐに帰ってきた。
「お待たせいたしました、ギルド長のトーマスと言います。あ、エミリア様でございますか。書簡は受け取っております。それでこちらが申請の許可証となります。既にヒロシ様の名前で登録させてもらっておりますので、今日からでも商売可能でございます」
早いなおい。
話を聞くも何ももう出来てんのか。流石伯爵効果、ハンパねぇな。っとクロになってしまった。まぁ、ロングフォードでもそうだったが、伯爵家の通達を無視すれば下手すりゃ首が飛ぶだろうからな。物理的に。ちょっと特権階級に乗っかって裏技みたいなことをよく使っている気がするが、気にしないことにする。気にしないったら気にしない。運が良い。これも一つの実力だという認識だからな。
「ありがとうございます。それで商会の店となる場所もご紹介頂けると伺いましたが?」
「はい、もちろんでございます。ただそちらの方についてはNamelessさんがどの程度の規模、場所、時期等を詳しく聞いてからと考えており決定はしておりません。候補地のピックアップを済ませている状態です」
「ありがとうございます、十分です。夕方から約束がありますので時期を改めてという事でもよろしいでしょうか?」
「あ、そうでございますか。当方としては問題ありません」
「了解しました、本当にお世話になります。これからよろしくお願い致します。あと、折角ですのでロングフォードのお土産を持参してきました。よろしければ皆さまでお楽しみ下さい」
クロが脇に抱えていたお土産をトーマスへと渡す。日持ちがしないので大層なものは持って来れないがこういうのは気持ちが大事だ。あと、置物などはやめておいた。こういうのは趣味が違うと邪魔にしかならないからな。食べてなくなるものが一番良いのだ。
「やっこれはわざわざありがとうございます。Namelessのお噂はここアルバレスにも響いております。こちらこそこれからはよろしくお願いしますぞ。次回お越しの際はこのトーマスを直接指名下さい。私が責任もをもって対応させて頂きます」
「恐れ入ります。それでは今日はこの辺で。またよろしくお願い致します」
伯爵との話はまだ続くが、目的とした商売拡販については大方目的を達したと言っても良いだろう。俺はクロと目を合わせて笑ったのだった。
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