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と言う訳で伯爵家は早速王都へと使者を出し、俺が現在アルバレスに滞在中との事を伝えに走った。先方の話では早急にとの事らしいので早ければ明日の夕方にはこちらへ到着するであろうとの事。
エライ事になった。俺何かしたっけ?王都がどこにあるかもわからんと言うのに。知らない間に何か商売上で王都の経済に何か打撃を与えているのか?それくらいしか考えられない。
「クロちゃんよ」
「はい、旦那様」
「俺何か恨まれてるのかな?主にアデリーゼの人に」
「ああ例の事ですか?いえ特に思い当たることはありませんねぇ」
「だよなぁ、、、帰りたいんだけど?」
「それこそ問題になりますよ」
「ですよねぇ、はぁ。俺は気が重いよ」
「ゾイド様も特に何も思い当たることはないと言ってますので気楽に待ちましょう」
「気楽にとはいかないけど待つしかないかぁ」
「気分転換に明日の朝から商会ギルドに行きませんか?エミリアさんが案内してくれるらしいですよ」
「そうだな、俺には気晴らしが必要だ!じゃ、シンディにも声を掛けておいてくれるか」
「畏まりました」
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「どうした、レイヴン。緊急の用とは?」
ここは王都アデリーゼ、リンクルアデル城にある国王の談話室。謁見する必要がない事案。つまり会議などを行う際に使用する部屋である。
「は、お時間を頂きありがとうございます。アルバレスより使者が到着し、現在アルバレス城にロングフォード男爵並びにお話のありましたヒロシなる者が滞在中との事です。明日朝より出発しようと考えております」
「そうか、到着したか。では行って参れ。人となりをよく観察するのだ。問題なければ一度連れてくるのだぞ?」
「承知致しました。人間的に問題なさそうであればいずれにせよ一度連れて参ります」
そこで声を上げたのは内務卿であるゴードンである。
「しかし不敬を承知でお聞きしたいのですが、その者にどのような価値を見ておられるのですか?」
「価値が分からんから困っておるのだ」
「と言いますと?」
「陛下、私の方から説明致しましょう」
「レイヴン、頼む」
「はい、ヒロシなる男は現在ロングフォードにてNamelessと言う商会を立上げ、今順調にその売上、規模を拡大中でありロングフォードではもはやトップクラスと言っていい程の商会になっている。男爵家はもちろん、冒険者ギルド、商会ギルドともパイプを持ち、また商会間でも取引、これは通常の仕入れ目的だけではなく、代理店と言う新しい商法を考え、他の商会の利益増にも貢献しているのだ」
「ほう、中々やり手の商人なんですな。良い事ではないのですか?」
「ああ、良い事だ。良い意味の方で気になる点だ。もう一つは市民パスに書かれている内容。ここからちょっと風向きが変わるんだよ」
「市民パスですか。重犯罪歴でもあったのですか?」
「いえ、犯罪歴ではないんだ。閣下、内容をお見せしても問題ありませんね?分かりました、ではゴードン卿、こちらがそのヒロシの市民パスの内容となります」
「ああ、すまない。ん? 何ですかこれは。殆ど読めないではないですか。ニホンとはどこだろうか? あと...閲覧不可? さっぱり分からりませんね」
「そう、これが懸念事項の一つ目。彼の出生と経歴がよく分からないんですよ。地理院に問い合わせてもニホンと言う国については聞いた事が無いと。しかし、魂歴にそう書いてある以上、どこかにあるとしか...また、閲覧不可についてもそうです。他の文字は読めないものが多い中で、これだけは明確に閲覧不可になっている。これは神が直接制限を掛けていると言う理解が出来る」
「レイヴン卿は彼が神の使者、使徒であると?そう思っているのですか?」
「分かりません。その素性も目的もなにも。まだあります」
「はい」
「アルガスの盾のギルド長であるケビンによれば、ギルド内で行われた一騎打ちの模擬戦で勝利を収め、その戦闘能力の高さを示したそうです」
「戦う商人さんですか、別に悪いことではないでしょう? しかし商人が一騎打ちとか本当ですか?」
「そうです、ただその能力の高さに注目しているのです。対戦相手は誰だと思いますか?」
「いや、さっぱり。アルガスの盾の冒険者なんでしょう? まさかガイアスとか? はっはっは、まさか。」
「天空の剣のガイアスとはその対戦の前に既に勝利を収めているようです」
「はあ? 本当ですか? じゃあ誰なんですか?」
「正確にはアルガスの盾ではありません。ドルスカーナのギルド『灼熱の太陽』の所属です。」
「勿体ぶらずに教えてくれませんか?」
「分かりました、、、ジャングルポッケのアッガスです」
「は?」
「ジャングルポッケのアッガスです」
「一騎打ちで勝ったのですか?」
「そう書いてあります」
「流石にそれは間違いでしょう。アッガスはドルスカーナどころか大陸でも有名な冒険者です。ドルスカーナではロイヤルジャックに入る程の武人だ。レイヴン軍務卿を前にこんな事は言いたくないがドルスカーナと戦争をした場合、アッガスの部隊に真っ向からぶつける戦力は残念ながらリンクルアデルには無い。遠隔攻撃と人海戦術で足止めに徹するしかないんですよ?」
「認めたくはありませんがその通りです。しかし書簡には勝利を収めたとあります」
「だから、間違いなんでしょう。レイヴン卿、冗談にもほどがある。流石に私も怒りますよ? 商人にそれほどの力はありません!」
「実は続きがまだあります」
「まだあるんですか?」
「早朝にロングフォードのギルドから伝書鳩が届きました。その内容とは狐獣人のサティ、ゴードン卿もご存知ですよね? その狐炎のサティとヒロシが結ばれた、結婚したと記載してあります」
「ちょっと、もういい加減にしてください! そのアルガスの盾のケビンはボケてんじゃないのですか? レイヴン卿は行き先をロングフォードに変更して行ってそいつの首をへし折ってきた方が良い」
「まあ落ち着けゴードン。気持ちは分かる」
「はっ、しかし陛下、これはいくらなんでも...」
「それを調べるためにレイヴンにアルバレスへ行ってもらうのだ。そこらの人間では信用ならん。もしこの話が本当であったならどうする?レイヴン、頼む」
「はっ。もしこの話が本当であった場合だ。リンクルアデルは財を生み出す錬金術を持った人間と、対個人とはいえドルスカーナに匹敵するほどの武を一度に手に入れることが出来る」
「確かにそうだが...」
「しかし先ほどの書簡でそれすら猶予が無くなってきたと思われますな。早急に確認を進める必要があります」
「レイヴンよ、それは何故だ?」
「陛下、彼はサティと婚姻を結びました。もし彼がサティのドルスカーナに移住すると言う決断をしたら?」
「「それはまずい」」
「そうです、先ほどの話は全てドルスカーナのモノとなります」
「レイヴン、すぐに向かうのだ」
「はっ!」
「能力の高さは二の次で良い、まずは人物を重視するように。今の段階では悪戯に刺激を与えたくない。くれぐれも慎重にな。それで余の前に連れてくるのだ」
「心得ました」
レイヴンは直ちに退出、身支度を整えるべく急いで戻るのだった。
「しかしゴードン、これらが真実であった場合はどう対応するのが最適と思う?」
「それは...」
ゴードンはまだ見ぬヒロシという男を想像し、リンクルアデルに与える影響はもちろん、そのリスクとリターンについて思考を巡らせるのであった。
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