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よろしくお願いします。
と言うようなことがあった後、俺たちは今大きな談話室の中にいる。
伯爵と面談する公の場と言うのもあるが、今回は伯爵家三女も絡んでいる事なのでこの部屋になっている。
「ゾイド男爵、わざわざ遠方よりお越し頂き痛み入る。長旅お疲れだったな」
「いえ、ローランド伯爵、どうかお気になさらず」
「そうか、またローラの件では本当にお世話になった。もしそなたらが来なければどうなっていたか分からん。惜しくも戦闘で亡くなった者達も丁重に埋葬してくれたと聞く。本当にありがとう」
「お役に立てたのであればこれ程嬉しいことはございません。また、亡くなった人たちは本当に残念です。馬車も相当な被害を被っており、兵士たちはそれこそ命を賭してローラ様を守り抜いたのです。彼らが頑張ってくれなかったらとても間に合っていたとは思いません」
「そうか、そう言ってくれたら死んでいった者達も浮かばれると言うもの。彼らの身内にはそれ相応の恩賞を与えようと思っておる。また、持ち帰ってくれた従属の首輪に関しては早速然るべきところで調査が始まっておる。もちろんデルモント商会も含め全ての可能性を当らせているところだ。デルモント、お主には悪いが必要に応じて話をしてやってくれ」
「はっ、伯爵様。心得てございます」
「あと、暁の砂嵐よ。そなたらの活躍も聞いておる。よくぞ馬車を守り抜いてくれた。後ほど褒美を取らせる」
「はっ、大変恐縮でございます。ありがとうございます」
「さて、問題...ではないがお主がNamelessのヒロシか?」
「はい。ヒロシと申します。ローランド伯爵様にはお会いできて光栄でございます」
「お主、エミリアから聞いたがお前一人でオーク二体とゴブリン数体を微塵切りにしたそうだな。お主の執事も相当な腕利きと聞いた。Namelessとは商会の名前ではないのか? 冒険者パーティーの名前か?」
「いえ、私は商人でございます...本当ですよ?」
「ゾイドよ、本当か?」
「まぁ色々あるんじゃが、本当じゃよ」
この辺りからアルバレス伯爵とゾイド男爵は普段の話し方に変わっていった。元々行き来は少ないとは言え親交はあるのだからな。
「ふむ。中々珍妙な商品を売っておるようだな?」
「は、アルバレス様にはいくつかお土産としてお持ちしておりますので後で紹介させて頂きます」
「そうか、それは楽しみだ。で、お前は何を望む? もちろん暁の砂嵐と同様に褒美を出すが、儲かってる商会と聞く。金は別に要らんのではないか?」
「流石アルバレス様、お話が早い。もし可能であればお話させて頂きたい事がございます」
「なんだ?申してみよ」
「この街にNamelessの商店を開く許可と店を紹介して頂きたく」
「Namelessはロングフォードにあるんだろう?」
「はい、私が考えているのはNamelessのアルバレス支店を作る事です」
「支店とな?」
「はい、ロングフォードから毎日こちらへモノを運ぶと時間もかかりますし足りないモノも出てきます。ここにNamelessアルバレス店を立ち上げることにより必要なモノはここで生産できますし運ぶ時間も短縮できます」
「ふむ、他には?」
流石伯爵だな、これだけではウンとは言わないか。口を利いてもらうためにはそれ相応のリターンが必要だ。今の話だけだと、アルバレスの商店群や市場のバランスを崩すだけと言う可能性もあるからな。
いくら褒美とは言えおいそれと許可は出せないだろう。ここからだ、頑張れオレ。
「商売の話となりますので、できれば人払いをして頂ければ...」
「デルモント、席をはずせ」
伯爵は即座にデルモントへ言葉を投げた。つまり興味はあると言う事だ。それもかなりな。デルモントさんは一礼して部屋を後にする。
「もちろん、アルバレスの街にもプラスに働くと考えております。一つは伯爵家のアルガス領における納税額が増えます。それとは別に口利きのお礼として一定額のロイヤリティをアルバレス様ご自身へお支払い致します。また商店を開いたり工場を開くことで雇用の促進が期待できます。雇用する従業員は全てNamelessで管理致しますので、伯爵家にお手間を取らせるような事は致しません。もちろん商業を独占しないよう配慮も致します」
「ロイヤリティの金額は?」
「毎月の売上の1%を考えております。ロングフォードでの月々の売上は金貨で申しますと約2千枚。もちろん売上によりますが、アルバレスでは王都にも近いと言う事もあり金貨5千枚を見込んでおります。計算上での話となりますが、そうなった場合、毎月金貨50枚を直接アルバレス様へ献上することが可能です」
「ゾイド、これ本当か? お前、毎月金貨20枚ももらってるのか?」
「じゃから優秀な商人じゃと毎年言うておろうが」
「お前の個人資産って俺より多いんじゃないのか?」
「正直、ここに支店を出されたらロングフォードの売上が落ちるかもしれんからワシは反対じゃがの」
ナイスだ、じいさん。これは予めじいさんと打つ合わせした流れである。元々ロイヤリティなど必要ないと言っていただけに快く承諾してくれた。もちろんロングフォードの売り上げを落とす気はないがな。
「そうか、それは愉快だな。よし、ヒロシ。許可を出そう。ロイヤリティは1%で良い。商業ギルドの方は任せておけ。明日にでも伯爵家より通達を出す。あと、商店が出来てお前がアルバレスに来る時には必ず伯爵家に顔を出せ。よいな?」
「ありがとうございます。大変有難く存じます」
「しかし、あれだな。そうなるとお主は色々目を付けられておる可能性があるな」
「はい、え?どう言う事でしょうか?」
「ゾイドにも言えてなかったんだがな。いや、聞いたのがつい3日ほど前なんだ。実はアデリーゼからレイヴン様がお越しになるらしい」
「レイヴン様が?」
「ああ、突然だ」
「理由は?」
「分からんのだ。ただ文書には一言」
そこでアルバレスさんは俺を見ていった。
「ヒロシが来たら報告せよ、だ」
「えーと、レイブン様とはどなたでしょうか?」
「この国リンクルアデルの軍務卿、レイブン・ステイツ侯爵閣下。国王の側近だ」
「そ、それはまた何故でしょうかね?」
「知らんよ、お前何かしたのか?」
俺はなぜこんなことになっているのか必死で頭を回転させるのだった。
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