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よろしくお願いします。
並走するルナが突然声を上げた。
「ゾイド男爵様、前方で戦闘が行われていると思われます!」
「なんじゃと?」
ルナは兎獣人であることから耳が非常に良い。それを聞いたじいさんの決断も早い。
「護衛団の6名は先行し状況に応じて援護しろ。1名は状況報告の為に確認後すぐに戻れ」
「はっ!」
護衛団の6名は素早く列を抜けだし走り出した。
馬車での移動中は基本的に男爵と執事以外は戦闘服を着用している。残りの人間は万が一に備えていつでも戦闘に移行できるように準備しているのだ。街に到着すると宿に泊まり身支度を整えて先方を訪ねるのが礼儀だ。余程の事がない限りそのまま相手先(この場合は格上の人間)を訪ねる事はしない。
しばらくすると前方に土煙が見えてくる。その中から1名が飛び出してきてこちらへと近づいてくる。
「報告します!魔物に商隊が襲われています!相手はゴブリンとオークの混合、オークは少なくとも5体!」
「ゴブリンとオークが一緒に居るじゃと?そんな事があるのか、、、とにかく全隊急いて援護に向かえ!」
「はっ!!」
「男爵様、我らも援護に向かいます!」
「うむ、行け!」
暁の砂嵐も飛び出した。
俺は掛けてあるコートにそでを通しながら言う。
「到着してもじいさんは念のため馬車から出ないでくれ。セバスさんとローズ、リリーは馬車回りの警戒を頼む。向こうの馬車が動けるようならこちらへと逃がすから受入れを頼む。俺とクロは状況を見て加勢することにする」
「うむ、オークの戦闘力はゴブリンとは比較にならん。くれぐれも用心せよ」
「ああ、油断はしないさ」
土煙が徐々に近づいてくる。流石にここまで近づくと俺にも音が聞こえだす。
「護衛団と暁の砂嵐は突っ込んだようだな...」
「セバス、馬車はここで停車せよ」
「クロ、周りに敵の気配はあるか?」
「いえ、前方に集中しているようですね」
「よし、ではさっきの手はず通り頼む。俺たちは予備のホスドラゴンで急行する」
「あぁ、気を付けるんじゃぞ!」
俺とクロは予備で連れてきているホスドラゴン4体の内2体を操り現場へと急ぐ。因みに馬が襲われたとか急死したとかのアクシデントに対応するため、予備の馬を連れてくるのはこの世界の特権階級や富裕層では常識らしい。当然こういう事態も想定しての事だ。
馬車を背にしてコビーたちが散開している。数体のオークが馬車を襲っておりコビー達が突っ込んだ事により分断された形だ。コビー達は馬車側のオークを、護衛たちは反対側のオークに備えている。
周りには多数の死傷者が居る事がすぐに分かる状況だ。
馬車の護衛も奮闘しているようだが、少し遅かったらどうなっていたか分からんな。馬車は2台あるが損害が酷い。
オークがコビー達に向かっている隙をついて俺は馬車のドアを開け中を伺う。
「ヒッ!ヒイイイ!」
中には女性たちが数名固まっている。商人の会長に見える人物もいる。
「落ち着け、向こうの馬車にも人が乗っているのか?」
「いいいいい、命ばかりはお助け下さい!向こうの馬車にも商人や女子供が乗っております。何卒、命ばかりは...」
「ん?何を言っている?」
そこで俺は気づいた。あ、この仮面のせいかと。しかしここで説明する余裕もあるはずもなく。
「ああ、命は助けてやる。クロ、御者に言ってじいさんの所まで馬車を下げるように言ってくれ。俺は向こうの馬車の様子を見てくる」
幸運な事に御者は無事だ。
「承知致しました」
俺は次の馬車へと移動してドアを開ける。
「キャアアアアアアアアアア!!!」
やはり叫ばれた。俺は同じことを言い、やって来たクロに同じことをお願いした。馬車が動き出すことを確認して俺はコビーたちの様子をもう一度見る。
「コビー!」
「はい!」
「この商隊の護衛の人間は一度こっちに下がらせろ!ルナ!ここで治療をしてやってくれ!ロングフォード家の護衛の3名もルナと共にここまで下がれ!治療中にルナ達が襲われないようゴブリンを警戒しろ!」
「はっ!」
「残りの7名は1組になりオーク1体を相手するんだ。無理をするな!ダメなら逃げて体勢を整えろ!コビー!お前はダン、ロビン、シンディでオーク2体を相手しろ!1体を攻撃している間、ダンはもう1体の攻撃を凌げ!ダン!出来るか!」
「お任せ下さい!」
「残りの3体はこっちに任せろ。すぐに応援に行く!」
「了解!!」
「ブモオオオオオオオ!」
オークは俺を見て突進してくる。身長は2.5m程か?かなり高くみえる。横幅もあるから余計にそう感じるのだろうか?手には斧と棍棒を持っている。
屈強そうな腕から振り下ろされる攻撃は破壊力はありそうだ。だが...
「遅い」
俺は軽く避けてガラ空きの膝へと偃月刀を振り下ろす。ザシュ!と音がしてオークは崩れる。膝裏の筋を切ったからな。立てないだろう。そのまま斧を持つ手を弾き飛ばして首を切る。一丁上がりだ。
クロも大体同じ攻撃だ。躱して膝裏へ仕込み刃での蹴りを放ち、バランスを崩したところの喉元へクローを突き立てる。俺より速いんじゃないか?
「クロ、こっちはやるからシンディの援護へ行け」
「承知しました」
残り一体もあっけなく倒してそこらのゴブリンも殺す。自慢じゃないがオーク如きに遅れはとらん。
ゴブリンはオークがやられても逃げないんだな? と思っているとあるモノが目に入った。
「これはどこかで...」
俺はひとしきり頭を整理したあとコビーたちへの方へと歩いていく。
遠目にみてもダンの動きは良くなった。ダンの新たな装備。それは両肩の大盾と両手のバックラーだ。盾は魔獣のアルマジイロンの外殻をベースにした長い円錐状の形で先は鋭くなっている。外殻の特性上、可動式だ。バックラーは円形で周りは刃となっており、バックラーを横向きにすると打撃もできる。受け、流し、攻撃がスムーズに行うことが出来るようになっている。バックラーを手首側へ巻いて両肩の盾先にあるハンドルに手を掛けることで攻撃を効率よく受け止めることも可能だ。そのまま鋭い先端で突く事も出来る。
だが、悲しいかな彼らの剣では容易にオークへ傷をつけることが出来ていない。オークの皮膚はゴブリンとは比べて相当厚く、そして硬い。しかし、連携していることにより上手く死角へと回り込みヒットアンドアウェイを繰り返している。ロビンの魔法が随所に放たれる事により上手くオークの追撃を防いでいるようだ。
連携の強みを上手く生かせている。そして遂にオークは膝をつきコビーがとどめを刺す。オーク2対を相手にして完封勝利だ。暁の砂嵐もやるじゃないか。
警備の方も上手く躱しているが致命傷を与えるには至らない。クロが横から蹴りつけてあっという間に無力化した。護衛団からは歓声が上がっている。
「終わったようだな?」
俺たちは全員の無事を確認し男爵の元へと戻った。
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