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よろしくお願いします。

 俺は今サティと別れの挨拶をしている。


「ヒロくん、死んじゃダメよ?」


「死にませんよ」


「ご飯食べなくちゃダメよ?」


「食べますよ」


「他の女に手を出したら怒るかも?」


「ナニも致しません...」


 とまぁ色々と注意を受けているのだ。


「サティ、知っているかと思うが森の様子が少しおかしいらしい。留守中すまないが家と商会を頼む」


「任しといて」


「側にいてやれなくて済まない」


「い、良いのよ、全然良いのよ。気を付けていってらっしゃい」


「ああ」


「ルナ!」


「はい、お姉さま。」


「分かってるわね?」


「もちろんです」


 にこやかにサティと話したルナはクルっと振り返って俺の方に歩いてくる。俺を見るルナの目はいつも据わっているが今日は眉間に皺を寄せて下唇を噛んでいるぞ。芸達者なやつだ。


「あなた...もしお姉さまを悲しませるような行動をほんの僅かでもしたら有ること無い事報告するからそのつもりでいる事ね!」


「せめて有る事だけにしてくれませんか...」


「ルナ?」


「大丈夫ですぅ。ヒロシ様と打合せですぅ」


「そうなの?いい子ね」


 ルナはいつものようにサティに抱きついて胸に顔を埋めている。俺より別れの挨拶が濃いとはどう言う事なんだ。


「じゃあ、行ってくる」


 俺はサティと軽くキスをして馬車に乗り込んだ。



---------------------------


 窓から見える街並みは流れるように過ぎていく。馬車を引くのはホスドラゴンだ。普通の馬より耐久性に優れ持久性もある。ただ、少し足が遅い。しかし長距離を走る必要がある時は頼りになる魔獣だ。


 暁の砂嵐のメンバーは護衛と言う事で当然馬車には乗らずホスドラゴンに騎乗して同走している。今回の護衛のメンバーは男爵家から10人、暁の砂嵐が4人、それとシンディが居る。シンディは暁の砂嵐のメンバーではないがサティが同行を薦めたらしい。


 シャロンはカールとアンジーが居るから問題ないようだ。


 シンディはまだパーティーを組んではいないが日々の鍛錬と元々の経験値もあり単騎では暁の砂嵐のメンバーより強い。クロのように単騎でパーティーを破るまでには至ってないがこれは仕方ない。


 でも、『単騎ではパーティーに勝てない』それは弱いと言う事ではない。むしろ普通なのだ。如何に強種といえどもそれだけで実績のあるパーティーを破れるかと言えば世の中そんなに甘くはない。足りない部分を補う事でその力を何倍にもできるのがパーティーだ。いつか言ったかもしれないが、極端な話ソロのレベルは全員CでもパーティーのランクはBになると言う事は往々にしてあるのだ。逆に如何にソロでBクラスの人間だろうと連携の取れないパーティーはCクラスになる。上記の二組がパーティーとして戦えば前者が勝つのだ。


 ダンは装備を変えて鍛錬中との事だが順調に調整は進んでいるらしい。やはり思った通り武器を変えてよかった。


 森に入っても旅は順調だった。魔獣や魔物もいない。


 3日ほどすると森はどんどん深くなっていく。道はある程度の幅はあるとはいえ当然舗装などされている訳もなく揺れもそれなりにある。正直お尻が痛いんだよ。クッションは敷いてるけどな。


 でも、この馬車は男爵家の馬車だから随分とマシなのだろう。元々の座席にもちゃんとクッションが効いてるからな。俺が据わってるのはいわゆるドーナツクッション。真ん中に穴が開いているやつだ。これはいいぞ。痔にも良いらしい。先人の知恵と言うのは世界を越えても同じだな。


 日が西へと傾き始めると森の夜は早い。鬱蒼とした森の中で回りは闇だけだ。


 俺は焚火を前にして皆と話をしている。一部の護衛は寝るためのテントを張っている。食事は男爵家からメイドが2人ついている。ローズとリリーだ。


 彼女たちは慣れた手つきで夕食準備を進めてくれる。似たような食材が続く中で飽きがこない料理が食べれるのは本当に有り難い。因みに暁の砂嵐や護衛達は自分たちで携帯食を食べたり焚火でベーコンを焼いたりしている。男爵家の人間とは明確な線引きがされており寝食を共にする事はない。


「じいさんは年に一度伯爵家に行くんだろ?道中危ない目に遭ったことはないのか?」


「まぁ、あるな。盗賊の類は殆どないが。魔獣や魔物はどうしてもな」


「そうか。やはり食べ物の臭いにつられて出てくるのかな?」


「何とも言えん、たまたま近くにいたのかも知れんし」


 豚肉を煮込んだスープを食べながらそんな話をする。護衛や暁の砂嵐のメンバーは少し離れた所で俺たちを囲むようにして食べている。食事の時はもちろん、寝る時も交代で見張りをして警戒態勢を常に敷いている。


「ふーん。でローズもそうだけどリリーも戦闘ができるのかい?」


「い、いえ、私共は...」


「ヒロシ様には隠し事はできませんな。彼女たちは戦闘もこなせます」


「セバスさんゴメン、言っちゃいけなかったのかな?」


「今更ヒロシ様に隠すこともありますまい」


「ありがとう、じゃ、今回の男爵家の護衛としてはかなり強力だな?クロもいるし」


「ワシもおるしの」


 忘れてた。じいさんはでっかいこん棒を振り回せるんだった。


 まぁ、こういうテンプレ的な会話をするとやはり魔物が現れる。はずなのだが、その夜はゴブリンとフォレストウルフが出てきただけで護衛と暁のメンバーで何なく撃破した。



 しかし本当の問題は8日目の午後に起こったのだった。



ご覧頂きありがとうございます。

よろしければ下部にある評価など頂ければ嬉しいです。

引き続きよろしくお願いします。

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