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お待たせ致しました。
よろしくお願いします。
「その話は本当か?」
王都アデリーゼ、リンクルアデル王城の謁見の間にて2人の男が話している。
「はっ、『アデリーゼの光』ギルド長からの封印付きの書簡です。間違いありません」
「しかし、どうにも信じられぬ。一介の商人がドルスカーナの英雄と言ってもよい獣人に勝つなどと。お主、余をからかっておるわけではあるまいな?」
「いえ、そのような事は決してございません!」
「ふむ、だがお主が言うその商人の情報もほとんど書かれては無いではないか?なんじゃ、この『解読不能』やら『文字化け』か?意味がよく分からん」
「それは私にもよく分からない所ではあります。過去の例を見てもそのような事はないと」
「ますます信じられぬなぁ...一度こちらに呼んでみるか? いや、もし仮にこの話が本当であるとするならば、やはり呼ぶ前に誰かに接触させた方が良いやもしれぬな。危険人物かどうかを見極める必要もあろう。ふむ...」
「如何なされましたか?」
「この者は今どこで何をしておる?」
「今はアルガスのゾイド男爵が身元引受人となっており、アルガスの街ロングフォードで商人をやっているようです。その商売の才は中々のもので、『Nameless』これが彼の商店の名前ですが、そこから売り出す薬品は各商店やギルドに、装飾品においては特権階級や富裕層に人気があるそうです」
「最近よく耳にする商店だな」
「はっ、ゾイド男爵はもちろん冒険者ギルド、商業ギルドにも既に懇意になっているようで実績も積み重ねてきており、その実力はかなり大きくなっている様子です」
「ロングフォードか...ちと遠いのう」
「この商人についてはアルガス領主のローランド伯爵に尋ねたところ、同じく興味を示しているようで、ゾイド男爵宛に一度訪ねてくるように使者を出していると聞いております」
「ローランドか。ならここからそんなに遠くはないの。いつ来るのだ?」
「はっ、今より1ヶ月ごと聞いております」
「ふむ、ではお主、それに合わせてローランド伯爵家を訪ねよ」
「はっ」
「良いな? お主自身がその眼で見てくるのだ。それでお主が見て確かな人物であると思うのであれば、余の前にそのまま連れて参れ。時期はいつでも構わん。都合は付ける」
「畏まりました」
「うむ、では下がって良い」
「はっ」
リンクルアデルの軍務卿であるレイヴン侯爵は一礼をすると謁見の場を後にした。
「ヒロシか。商人でありながらその戦闘能力はロイヤルジャックの暴虐の王を凌駕すると。リンクルアデルの吉となる人物であると良いが」
リンクルアデル国王シュバルツ・フォン・アデル3世は玉座にもたれ呟いた。
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「最近魔物や魔獣の数が多いんですって」
「へー」
いつもの夕食。俺達はダイニングで食卓を囲み話をしている。今日はエビと貝のスープ、サラダ、チキンの蒸し焼き、魚の姿揚げにライスだ。後からデザートが出てくるだろう。ウチのメイド衆は優秀だなぁ。
「アリス、今日も美味しいな」
「お褒めに預かり光栄です、旦那様。シェフも喜びます」
「で、さっきの話だけど魔獣が増える原因ってあるの?」
「うーん、おじいちゃんの話ではそれはなんとも。でも領地境では警備が強化されているらしいわよ」
「あと1ヶ月ほどで落ち着くかな? いや、じいさんが領主の元までは10日くらい掛かるって言ってたからならぁ。半月ほどか...無理かもな」
「距離的には遠くないはずなんだけど、どうしても森を抜けることになるから足が遅くなるのよ。でも森の中には魔獣もいるだろうから心配だわ」
「おと...ヒロ兄ちゃんは行かないとダメなの?」
「おと...ヒロ兄ちゃんは行かなくても良いと思う」
最近子供二人の発言が怖くてたまらない。その横で目をクワッと開いているソニアさんも怖くてたまらない。クロは執事なので同じ席で食事はとらずにテーブルの横で佇んでいる。最近クロも流すことを覚えたようだ。変に爆弾を投下されるより良いか。分かってないだけと言う可能性も否定できないが。
そうして日は流れ出発1週間前のある日。俺は彫刻課に来ていた。
「社長、できました。今僕達に出来る最高傑作です」
「そうか、本当にありがとう」
「お礼なんて。僕はコレを作る事が出来て本当に嬉しく思います」
「私も同じ気持ちです」
「カール、アンジーありがとう。ただでさえ忙しいのに無理を言ってすまないな」
「だからよして下さい。あ、入れ物も作っておきました。こっちは温かみがあった方が良いと思って木箱です。ここに蝶番を付けてまして、パカッと開くようになってます。それで、これをここに...よいしょ。どうです?いい感じでしょう?」
「このデザインも私が考えました。少し曲線が多いのですがカールなら大丈夫だと思って」
「ああ、ああ。素晴らしいよ。最高の仕事だ」
「社長、で、いつでしたっけ?明後日ですよね?」
「ん?ああ。その予定だ」
「海辺のレストランですよね?」
「ああ、そうだ。まだ誘ってないんだがな。心配になってきた。大丈夫か俺...」
「なに言ってるんですか? 大丈夫ですよ! お姉さゴホン大丈夫です!」
「今何か言ったよね?」
「言ってませんケド?」
「そう? ま、いいか。じゃ、俺はちょっとギルドへ寄って帰るよ」
「「はい、お気をつけて」」
「上手くいくよな?」
「当然でしょ? あ、私も今日は帰るから」
「あ、そうなの?お疲れ!」
アンジーは走って出て行った。
緊急幹部会開催の為に。
お読み頂きありがとうございす。