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よろしくお願いします。

『サティ親衛隊』


 強種を除くそれ以外の種族、つまり通常種をベースとした獣人女性が多数在籍する集団の総称である。(強種が居ない訳ではない)


 いつこの会が発足したかについて詳しく知る者はいない。

 ある者はその強さに。

 ある者はその優しさに。

 ある者はその美しさに。

 ある者は命を助けられ。

 ある者は憧れを抱いた。


 そう言う人間がいつしか集まり一つの目的を持った集団となる。


『麗しいサティ様を愚かなオス共から守らなくてはならない』


 元来サティ自身が近寄るオス共に失望し羽虫同然の扱いをしていることは周知の事実だ。だが汚い手を使ってサティを貶める輩がいないとも限らない。


 そういう下衆共を常に監視しサティには純潔を守ってもらわなくてはならない。そうした有志が集まり巨大化、遂には一つの軍団とも言える組織が結成されることになる。それがサティ親衛隊である。


 とは言え、大々的に喧伝する訳もいかず、あくまで非公式に活動を続けなければならない。サティが迷惑と思ってしまうと話にならないからだ。彼女たちは定期的に集会を開きその結束力を高めていった。メンバーは未婚の獣人女性に限られ、またサティの純潔と幸せを願うものだけに限られている。そして各々の地域や在籍年数、役割に応じて幹部が選出されるようになる。


 歴代の隊長は結婚と共に名誉あるサティ親衛隊隊長の任を解かれ、その任は次期メンバーへと引き継がれていく。そして現在、栄えある隊長の称号を持っているのはこの獣人。


 兎獣人のルナである。


「それでは、報告をお願いします。アンジーさんどうぞ」


「はい、本日ヒロシ様が私の部屋に来た際に例のギルドでの一件を確認致しました」


「助かるわ。私の話だけだと他の幹部たちも半信半疑なのよ」


「ええ、無理からぬ事かと。なにせ相手はジャングルポッケのアッガスさんですからね」


「で、どうなのよ?」


「早く言いなさいよ」


 他の幹部たちがアンジーの言葉を待っている。


「本人の口から証言が取れました。辛勝であったが事実だそうです」


「本当なの? 本当だったの? アッガスって本国のドルスカーナではロイヤルジャック(ドルスカーナの守護神)に入ってるほどの豪傑よ? それをあの『毛なし猿』が一騎打ち(タイマン)で破るなんて...」


「幹部の皆さまがそう思われるかと思い、今夜は母のシンディにも来てもらっている訳です。幼少より私の母親代わりをしてもらい命の恩人でもあります」


「ただの飲み会かと思って来てみたら『サティ親衛隊』の幹部会と聞いて驚いているのですが...良いのでしょうか? 私がこのままここに座ってて?」


「あなたがシンディさん? 噂は聞いてます。あなたは獣人女性の誇りです。だが、それとこれとは話は別。あなたの証言内容は非常に我々にとって重要な事です。それを理解されているでしょうか?」


「ええ、今までの流れでそれなりに理解しております。内容を聞くに、私とてサティさんには憧れを頂いておりますので。基本的に皆さまのお考えには賛成の立場です。ただヒロシ様の事を『毛なし猿』と言うのは言い過ぎでは?」


「それを聞けて良かったわ。あと、悪いけど『毛なし猿』を訂正するかどうかはあの男の今後の行動次第ね。あの男についての審議が終わるまでは心を許す訳にはいかないわ」


「そうですか...分かりました。私はルナさんと共にギルドにて戦闘の一部始終を見たひとりです」


「「なんですって?あなたもその現場にいたのね?」」


「はい。未熟者の私に彼らの戦いを理解すること叶わず、結果だけをお伝えすることになりますが、勝負は間違いなくヒロシ様の勝利にて決着しております」


「そうなのね。ルナ隊長、どうお考えですか?」


「ええ、まずこの幹部会に参席頂いている皆様には今回の噂が本当であったことを他のメンバーに徹底させて下さい。変な噂でサティお姉さまが迷惑をしては本末転倒です」


「「分かりました」」


「次は剣を捧げたと言う件についてですが、新たな証言も入っております。続けてシンディさんお願いします」


「はい、ルナさんから既にお聞きの通り、剣を捧げているという事に関しても前回の模擬戦の後、アッガスさんとエレナさんからその旨発言があり、それをサティさんは否定しておりません。また、私自身、サティさんがヒロシ様へしっぽでマーキングを行っていた事を目撃している点についても併せて報告致します」


 シンディは目線で次の言葉を繋ぐようにルナへ促す。


「皆さん、これでお分かりの通り、サティお姉さまはあの『毛なし猿』の男に剣を捧げたという事実を受け止めなくてはなりません」


「「ううう、お姉さまが、人族の男に...」」


「皆さん、悲しい事は私とて同じこと...グス。だけどこれを受け入れ共に喜べるようになるのも我々親衛隊の役目ではないでしょうか」


「「その通りです」」


「こちらからも情報があります」


「なにかしら、コロナさん」


 猫獣人のコロナ。ギルドに勤めている。


「先日の模擬戦の後ですが、何度かヒロシ様がギルドへ来られた際に多くの女性獣人がマーキングを試みています」


「な、なんですって!?」


「信じられないわ!」


「行動が早いわね!」


「すれ違いざまにしっぽで一撫で、また肩を軽くぶつけるなどの行為が見られます。酷いのに至っては背中に顔を擦り付けていく猛者もいます。情報に聡い子は既に各々行動に出ているようですね」


「なるほど、その時あの『毛なし猿』はどのような様子なの?まさか鼻の下を伸ばしてるんじゃないでしょうね?」


「今日聞いた話ではヒロシさんは嫉妬で獣人から嫌がらせを受けているのかと落ち込んでました」


「アンジーありがとう、コロナそれで?」


「私が見た感じでは獣人のルールに疎いのか、『?』という感じですね。またギルド長に以前聞いた話によると数年前にこの街に来た時に初めて獣人を見たというような事を聞いたことがあります」


「「そうなの?」」


「ええ、私も初めて会った時にはしっぽや耳をジロジロと見られました」


「なに赤くなってんのよ?ダメよ、優先権はお姉さまにあるのよ」


「わ、分かってますよ」


「でも、あの噂を聞いたことと獣人の本能を考えたら彼女たちの行動について文句は言えないわ。ただ、問題はもしあの男がお姉さまを裏切るようなことがあった場合...私は刺し違えてもあの男の息の根を止めることを誓いましょう」


「「私もです」」


「「私もです」」


 次々とルナに賛成の意を投げかける幹部の者達。


「シンディ、あなたはあの狼獣人と番になりたいと言うのは分かりますが、引き続きこちらへの幹部会にもゲストとして出席して頂き何か異常があれば報告して頂けますか?」


「ク、クロードさんとはそういう仲ではありません。ととと、突然何言ってるんですか」


「ふっふっふ、私の目は節穴ではありませんよ?クロードさんが強者であることは知っております。ただ彼はそういう事に疎いような気がしますのでしっかり捕まえておかなくてはいけないでしょう。親衛隊に引き続き協力してくれると言うならば、我々としてもその助力を惜しみません」


「え、お母さん、そうなの?」


「あ、いや、その」


「アンジー。お母さんと言っても私と年齢も変わらないのよ?未婚なんだから当然でしょ?」


「あ、ルナさん。そうですよね。そうなんですけどビックリして」


「ここで話される内容はその一切を秘匿することがルールよ。あの執事に関しても例外ではありません。アンジーも忘れてはいけませんよ」


「もちろんです、隊長。この件についても他言致しません。でも、お母さんそんな素振りちっとも見せないわよね?」


「アンジーはまだ若いから恋を分かってないのよ。シンディとクロード。純情派と鈍感系が交わる可能性ははかなり低いわ。シンディ、ああ言うバカには押し倒すくらいの気概で行かないと成就しないわよ? あと、あの狼物件は間違いなく買いよ! これから競争率も高くなると思うから早めに動かないと他の狼獣人に横からかっ攫われるわよ」


「バカかどうかは別として中々攻めあぐねていると言うのも否定できないですね。私自身のルールもあると言うのもあります。競争率が高くなるのは予見はしているのですが...」


「そうね、強種と言われるあなた達ならではの矜持もあるでしょうけど。応援はするわ」


「ありがとうございます」


「それでは、親衛隊の幹部会としての話はここまでとして......飲みましょっか」


「「はーい」」



--------------------------------



「ただいまぁ」


 母さんがアンジーを背負って帰ってきた。


「なんだよ、遅かったね今日は。あ、母さん、飲んでるな?」


「まぁね。シャロンはもう寝た?」


「さっき寝たよ。2人で飲んでたの?」


「秘密よ、秘密。女子会の内容を聞くんりゃないわよ。水ちょうらい水」


 アンジー起きたのか、あ、またぐったりした。なんか、ウーウー唸ってるぞ。飲み過ぎなんだよ。母さんは優しくアンジーをソファへと寝かせた、あ、落ちた。


「はいはい、すみませんでした。アンジー結構飲んでるなぁ」


「そうなのよ、大丈夫とか言ってたけどね。こうなっちゃったの」


「私はお母さんを応援してるかりゃね!」


「こらこら、今はその話はいいでしょう。はいお水」


「母さんの応援ってなんだよ?」


「カールは知らなくていい事なのりょ!うっしゃいわよ!」


「はいはい、アンジー様、すみませんね。スカートまくり上がってますよ」


 カールはソファの下ででひっくり返っているアンジーに毛布を掛けてやるのだった。



お読み頂きありがとうございます。

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