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お待たせしました。
よろしくお願いします。
アッガスやガイアスとの模擬戦から1ヵ月が過ぎた。
あれから変わったことと言えばやはりジャングルポッケや天空の剣との距離が近くなったことだろう。暁の砂嵐は天空の剣の訓練に参加させてもらったりしているらしい。あと、天空の剣のフィルとクロの仲が良くなった。フィルは元々礼儀正しい好青年でクロードとの戦闘を経て何か通ずるものでもあったのかな?
そんな事を考えながら俺はデザイン課の課長室に入っていった。
「おはよー」
「あ、社長、おはようございます」
「悪いな、アンジー。ちょっと休憩させてよ」
「良いですよー、ゆっくりしていって下さい」
課員が飲み物を運んできてくれる。悪いね、いつも。新設した彫刻部の仕事は日を追うごとに忙しくなってきている。ロードリング商会だけではなく、他に契約した商店からの引き合いも多い。
問題なのはデザインと彫刻が出来る人間が2人しかいない事だった。当然分かってはいた事だけどな。
デザインの方はアンジーが書いたラフを課員が筆入れをして仕上げまでを行う作業。マンガ家のアシスタントが沢山いると思ってくれれば良い。だが、ラフだけで良いと言っても元ネタを書くのは当然アンジーなので忙しいのだ。
次にカールだが彼の場合はもっと大変だ。彼の技術についていけるものが居ない。これは仕方ない。カールには何名か面接と実技の試験を受けさせて課員を増やすように言っておいた。人間も数名いたがやはりアライグマ獣人が多かったな。まぁ、希少品としての価値が大事という事もあり量産する気は今の所ない。出来るものをできた分だけ出せばいいのだ。
いい加減な品を特権階級や富裕層に売りつけても何の得にもならない。たとえ数ヶ月待たすことになっても、その期間がまたその価値を一つ高く押し上げる。
『このオーダーメイドの指輪を手に入れるのに3ヶ月待ったわ。』
と誰かが言えば、待つ事もまた一つのプレミアムスタンダードとなるのだ。もちろんそこには結果にコミットできる確かな実力がなければならない。
結論から言うと、カールとアンジー、頑張ってね。と言う事だった。
「カールも忙しそうだな」
「はい、お陰様で毎日忙しくさせてもらってますよ」
「無理な残業までする必要はないぞ?休みもしっかりとってるか?」
「はい、まぁやれる所までってのはありますが、その辺りはレイナ統括とも相談してます」
「そうか、ならいい」
「それより、聞きましたよ?ギルドでの模擬戦とサティさんとの噂。あれ本当なんですよね?」
「何で知ってんのさ?」
「獣人族ネットワークとでも言いましょうか? 結構噂になってますよ? サティさんに剣を捧げられたんですか?」
俺の頭の中に一人の女性兎獣人の姿が浮かんだ。アイツか。アイツだろうな。『時間の問題』とか言ってたがあいつ自身が時限爆弾だったとは考えなかった。
「なんだ、知ってんのか。けど噂になってんだったらギルドに行き難いなぁ」
「どうしてですか?」
「ギルドに行った時に獣人女性とすれ違うと、やたらしっぽやら肩やらをぶつけてくるんだよ」
「ほほう」
「これはあれか。サティと噂になってるから、嫌がらせを受けているのか。食堂でもジロジロ見られているような気がするし」
「それはアレですね。一つはヒロシ様への嫉妬の視線。サティさんは大人気ですからね。あともう一つは模擬戦の結果を知ってヒロシ様を狙っている獣人が沢山出てきたと言う事かも知れません」
「商人相手に闇討ちとかそんなことするかね?」
「闇討ちじゃないですよ。実際に見た訳ではないが信頼できる筋からの情報。これはツバを付けとかないとな。って所でしょうか」
「ツバってなんだよ」
「それを女性に聞いちゃダメですよ」
「ス、スマン、デリカシーに欠けた質問だったか。謝る」
「ジャングルポッケのアッガスさんに模擬戦で勝利したって言うのも本当なのですか?」
「え?ああ、本当っちゃ本当だけどな。辛勝だよ?あの場にいた連中は皆知ってるけど」
『本当かどうかって所が大事でなんです』
「何か言った?」
「いえ、何も」
あの模擬戦を思い出すと本当に紙一重だった。アッガスが倒れる際に言った言葉を俺は確かに聞いた。
『獣人化だけでは足りぬか』
この言葉の意味をどう捉えるか。それ以上があるのか? それともないのか? あったら俺はでどこまで戦う事ができたのか? 俺の悪い癖かなのかね、もうやらないって言ったから気にする必要もないんだけどね。
「社長?」
「お、悪い少し考え事してた。じゃ、クロと一緒に外回りに行ってくるから」
「はい、いってらっしゃいませ」
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その夜。
カランカラン
先ほどから一人、また一人と一軒の店に集まってくる者達がいる。どこか人目を避けるようにしているのは気のせいだろうか?
「アンジーこっちよ」
「あ、みんなもう来てたのね。私が最後ですか、すみません遅くなりました」
「仕方ないわ。今をトキめくNamelessの職員だからね。でも先に始めてるわよ?」
「もちろん結構ですよ。私もビール頂こうかしら」
やって来たビールを片手に乾杯をすませ、ひとしきり世間話をした後、
この会の主催者と思われる人物が声を上げた。
「それでは、『サティ親衛隊』定例幹部会を始めます」
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