74 模擬戦(4)
今日あと1話更新できたらなと思ってます。
よろしくお願いします。
そして、ヒロシ様が戻ってきた。
黒のコート。その深さは漆黒の闇のようだ。腰元がタイトに絞られたコートは奇麗な曲線を描きながらそのラインをふくらはぎの方までまで届かせている。前はボタンではなく、チェーンのようなもので緩く留められている。コートを縫う糸は濃い赤色でステッチされ、それが何かの模様を描いているようにも見える。襟は大きめ、肩口はプロテクターで覆われそのラインは袖口までシャープに絞られている。コートの下も黒でコーディネートされており、タイトな革のパンツそして足元は膝までのブーツを装着している。上着はシャツと言って良いのか、厚めの生地であることが見て取れる。全身黒1色だが赤いステッチが良いコントラストを生み出している。
そして口元。口元全体を覆い隠すのは鬼が笑うような異様な仮面。その仮面は目から下、つまり鼻の部分や頬骨までを隠している。
そしてその手に携えるのは大きなグレイブのような武器。その名は青龍偃月刀。だがヒロシ様は特別な名前はないと言っていた。薙刀や戟、グレイブでも構わないと。しかし出来上がって見た時のイメージが青龍偃月刀に一番近いらしい。
その佇む姿、いつかの盗賊が死神と称したのはその通りだと思う。
「待たせたな」
「それがお前の戦闘衣装と言う訳か。フフ、俺が感じているのは衣装の禍々しさからではない、その体から漏れ出るオーラ、いや闘気と言った方が良いか。それでは参ろうか」
「ああ」
2人は闘技場の中心へと歩いていく。
アッガスさんの戦闘衣装はハーフメイルだ。素早い動きに対応できるようフルプレートではないが守備力を疎かにせず攻守にバランスが取れた装備だろう。
武器は背中に背負っているメイスだろう。腰元にはナイフが何本か差してある。体の大きさはヒロシ様より3回りくらい大きいだろうか。数多もの獣人族の中で間違いなく最強種族の一角と言われる虎獣人。アッガスさんはその中でもサティさんと同等かそれ以上と言われている実力者だ。正直どうなるか分からない。
「すみません、ガイアスさん」
「なんだコビー、これからいいとこなんだからよ」
「すみません、でも悔しいけど僕ではこの戦いを目で捉えれるのか自信がありません。すみませんが、分かる範囲で結構なんで説明してもらえませんか」
「かっ、分かる範囲だと? 言うじゃねぇか! 良いだろう説明してやるがな、それならサティに言えば良いじゃねぇかよ。おいサティ、サティ、聞いてん...」
「ガイアス...次に話しかけたら殺すわよ?」
「うおっ! 分かった、分かったよ、おっかねーなおい。」
「邪魔したらぶっ飛ばされますよ...久しぶりのヒロシさんの本気モードに興奮しているんですかね?」
サティのしっぽは大きく膨らんだりピーンと立ったり忙しなく動いている。
「マジか...じゃぁサティの剣の捧げた相手がいるってヒロシさんの事か? そんな相手がいるわけねぇと思ってたが...噂は本当だったってか」
「そんな噂が...まぁ相手がヒロシ様なら有りえますね。あ、すみません、っと、ルナ! こっち来いよ!」
「ううう、お姉さまが...あの男の応援を...グス...ウッウッ」
「なに泣いてんのさ? 兎に角今はあそこにいたらダメだろう。応援の邪魔しちゃ怒られるよ。あ、剣を捧げた話ってルナも知らなかったの?」
「知ってたわよ! 知ってたけどぉ...ウウウウウウ...フェェェ...」
「ま、まぁお前らの事情はよく分からんがサティが今使い物にならんことはよく分かった。フィル、クロードお前らも手伝え。皆で見た方が確実だ」
「「いいですよ」」
「あと、あ、ロビン、ダン、シンディ!こっち来いよ!ガイアスさんが解説してくれるぞ!」
「「「わかった!」」」
他2名の『天空の剣』のメンバーも合流し、結局僕たちは闘技場の観客席で纏まって観ることになったわけだが、そこに一つのパーティーが近づいてきた。
『ジャングルポッケ』の皆さんだ。
「私も隣で一緒に観ても良いかしら?」
エレナさんたちがやって来た。このパーティーは全員が虎獣人だ。戦士がアッガスさんにアタッカーが二人、タンクが一人。典型的なファイター集団で回復は各々が適時ポーションを使用する。パーティーとしての実力はAクラスらしい。アルガスの盾が誇る有名なパーティーだ。ちなみにアッガスさんとエレナさんは夫婦らしい。他の2人も群れに入りたいらしいが詳しい事は知らない。
「旦那が毎日言ってたのが彼ね。あの長い槍もどきでアッガスとホントに戦えるのかい?」
あっ、サティさんの右耳がこっちにピクッっと動いたぞ。
「戦えるに決まってるでしょ?久しぶりね、エレナ」
「あら、サティじゃない。みんな、悪いけど私はサティと見るわ」
エレナさんはサティさんの方に行ってしまった。サティさんは特に嫌がることもなくエレナさんを迎えている。
「えーと、ガイアスさんと対応に差がみられるのですが...」
「けっ、良いんだよ。あのエレナにしても実力はバケモンだぜ。サティとバケモン同士仲良くやればいいんだよ」
「「聞こえてるわよ?」」
「うお! お、俺たちは少し向こうに移動するぜ。じゃぁな」
僕たちは身の危険を感じて少し2人と距離を置いて観戦することにした。ウルサイとか言われたら怖いからね。しかし、エレナさんもサティさんと同レベルか。獣人は自分より強い相手と番になりたがるらしいけど、そうなるとアッガスさんの実力は相当高い事になるな。
そうして周りの雑音が徐々に小さくなり皆が中央の2人に注目した時。
「はじめ!」
ケビンさんの声が闘技場に響いた。
お読み頂きありがとうございます。