73 模擬戦(3)
今日はこれで最後です。
いつもありがとうございます。
案の定、中ではガイアスが怒っている。まぁ、前みたいにパンツではないにせよ軽装には違いない。
「おい、お前!なんだその格好は?やる気あんのか!」
「あぁ、すまんがあまりやる気はない」
「なんだと!」
「勘違いするな。まぁ何と言うか本気になるまでもないって言うか...だな」
「このヤロウ、タリスマンがあるからって余裕こいてんじゃなぇぞ。殺してやるぜ」
「心配すんな、俺はお前を殺しはしないから」
ヒロシ様の手には鉄パイプが握られている。あれで戦うつもりだろうか。そうなんだろうな。
「ガイアスも馬鹿ね」
「サティさん」
「別に煽らなくてもヒロシなら普通に戦ってくれるわ」
「ガイアスさんは本心で言ってるわけじゃないと?」
「どっちかって言うとガイアスは真面目な方なのよ。戦闘馬鹿だから本気のヒロシと、とか思ったんじゃないのかしら?」
確かにおかしいと言えばおかしい。ガイアスさんって兄貴肌だったもんな。
「煽り方が慣れてないから変なこと言っちゃって。ちょっとヒロシ怒ってるわよ」
「煽りとしては正解なんでは?」
「何と言うか、お仕置きモードね。可哀そうに、ガイアス。死んだ方がマシなんて事にならないと良いけど」
そこまで言うとサティさんは2人に目を向けた。
「はじめ!」
今回も動き出したのは天空の剣がはや、え? と思ったらガイアスさんが壁まで吹っ飛ばされた。
「動きが遅い。立てよ」
「このヤロウ!」
ガイアスさんは剣でヒロシさんに襲いかかる。襲い掛かるとは言ったが、闇雲に突撃しているわけではなくその剣筋はやはり強者のそれだ。外見からは想像できない流れるような剣筋。相当訓練を積んでいるのが分かる。俺では受けるのがやっとだろう。
しかし、ヒロシ様は余裕をもって捌いている。巧みにパイプを操りその剣撃全てを弾き、いなし、払いそして確実にガイアスさんにダメージを与えている。
「おいおい、あれだけ煽っといて拍子抜けだな」
「くそ、マジで強ぇんだな。だけどまだまだぁ!!」
ガイアスさんは剣を振るう。間合いの外からの剣筋にヒロシ様は余裕をもって下がるが、その剣先からは炎が迸る。炎がヒロシ様の衣服に触れ焦げ臭いにおいがここまで届いてくる。
「出し惜しみは無しだ!!」
ガイアスさんは魔法剣士だ。魔法剣から炎をだし、自身の片手からは氷雪系の魔法を繰り出す。加えてこの剣技。ガイアスさんは間違いなく一流の剣士、いや魔法剣士と言えるだろう。だが、その攻撃系魔法は...ヒロシ様には届かないだろう。
ヒロシ様は炎と氷をパイプで払うように掻き消していく。
「このバケモンが!魔法は効かねぇってか!なら物理ならどうだ!」
ガイアスさんは魔法を地面に向かって放つ。魔法は地面を抉り、土煙と石礫を撒き散らす。この切り替えの早さ、対応の早さ、これこそが一流へと駆け上る冒険者達の資質の一つ。天空の剣をBクラスパーティーへ押し上げた事はある。
煙幕のような土煙の中、効かないでも目くらましの為か剣先に炎を纏わせ、ガイアスさんは真っ向からヒロシ様と打ち合いに行く。数度の剣撃が交わる音が聞こえた後ガイアスさんは更に突っ込み渾身の一撃をヒロシ様へと放つ。
しかし、悲しいかなその渾身の一撃は届かず。ガイアスさんの手はパイプで跳ね上げられ、返しの一撃で顔面を強打。そのままガイアスさんは地面に倒れ、土煙が止む頃にはガイアスさんの首筋にパイプを当てるヒロシ様がいた。
「これで終わりだな」
「ホントに強ぇんだな。さぁ、殺しはしないんだろ?制裁を受ける覚悟はできている。好きにしやがれ」
「制裁は初めの一発で終わってるさ。まぁ、あの謝罪が聞こえてなかったら、ちょっと身をもって教えてやるつもりだったが」
「なんだ、聞こえてたのかよ、カッコ悪い」
「お前は声がでかいんだよ」
「はっ、俺のレベルじゃ手も足も出ないってか。そして器もか...負けだ、負け。俺の負けだ」
「そこまで!」
ケビンさんが声をかけたが、決着は本人同士がよく分かっているようだ。ヒロシ様はケビンさんに手を貸し立ち上がらせている。
「まぁ、ガイアスにしてはよく耐えたわね。ヒロシも優しいわ。お仕置きモードかと思ったけど」
「謝罪が聞こえてたって言うから、方向転換したんでしょうね。流石ヒロシ様です。ね、サティさん」
「まぁ、そうね。強くてやさし、ゴホン。次はアッガスね」
何故だろう、ちょっとサティさんの顔が赤いぞ。2人がこっちに戻ってきた。
「フィル、ご覧の通り負けちまった。俺は修業がまだまだ足りねぇわ」
「その割にはスッキリしてますね」
「まぁな。色々と思う所はあるけどアルガスの街にこれだけ強い奴がいるってのはそれだけで自慢だぜ。あと、クロード。さっきは中途半端な謝罪で悪かった。正式に謝罪させてくれ。お前の主と本気でやり合うためとはいえ、言葉が過ぎたのは間違いなく俺が悪かった。この通り謝罪する」
「ガイアスさん、分かってますよ。謝罪は受け取りましたから。旦那様も何も言ってませんし、これでこの話は終わりにしましょう」
「そうか、ありがとうよ。しかし、お前の体術も中々すげぇな。状況次第では俺も危ないぜ」
「いえいえ、そんなことは」
そこへアッガスがやって来た。
「ガイアス、やられたな」
「あぁ、見ての通りだ」
「ヒロシ、次はどうしたら良いかな? 先ほどと同じく2人でも良いし、パーティー戦でもいい。俺としてはソロを望みたいが」
「ソロで良いですよ。僕はパーティーを組んでませんので」
「そうか、冒険者になる予定はないのか?」
「いえ、一応冒険者の登録はしてるんですけどね。基本商人なんで」
「そうか。まぁ、ソロで良いなら俺としては有難い。ただ、お願いがあるのだがな」
「なんですかね?」
「できればベストのヒロシと相対したい。この意味分かってくれるであろうか?」
ヒロシさんはケビンさんの方に向かって言った。
「ケビンさん、今回の模擬戦はこのギルド止まりだよね?」
「ま、善処するさ」
「全く期待できないけど頼むよ? 商売に専念できなくなるのは困るんだ。じゃぁ、アッガスさん、また着替えてくるからちょっと待っててね」
そう言って、ヒロシさんは奥の更衣室の方へと消えていった。
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