72 模擬戦(2)
よろしくお願いします。
「なに?クロードさんも模擬戦に参加するのか?」
医療室から戻ってきた俺はルナから聞いて驚いた。
「そうよ、コビー。成り行きでそうなったのよ。ガイアスとはヒロシ様が対戦するから相手はフィルだけどね」
「そうか、フィルか。アイツの剣術は中々のモンだからな。でもクロードさんなら。サティさんはどう思いますか?」
「言ったらつまらないでしょ?」
「そうですね、で、ルナ、今クロードさんは?」
「着替えに行ってるわ、あ、来たわよ」
来た。クロードさんの戦闘服姿を見るのは久しぶりだ。相変わらず深い青を基調としたジャケットが良く似合う。超カッコいいぜ。ジャケットのフードをかぶって歩いてくるその様はさながら暗殺者のようだ。
フィルは闘技場の中で既に待機している。全体的に緑を基調にした、動きを阻害し難い装備に見える。緑のマントの後ろには天空の剣の団章が刺繍されている。これもカッコいいな。
今回参加している2組のパーティーはそれなりに知名度もレベルも高い。当然ながら稼ぎも違ってくるのでオリジナルの装備品を付けることが可能になってくる。言いたくはないが金を持ってるやつは装備も良い。良い装備を持てるやつはやはり強くなるのも早い。当たり前だがそれが現実だ。
「あのヤロウ、マントなんか付けやがって。アイツも狙ってんのか?ヒロシ様の隣をよぉ」
いやロビン...お前も最近無駄にはためかせているじゃないか。バッサバッサと。そして2人の男が闘技場の真ん中で対峙した。
「待たせてすまない」
「気にする事はないさ。あとはそうだな、これで語り合うとするか」
そう言って、フィルは腰から剣を抜いた。と同時に、ケビンさんが号令をかける。
「はじめ!」
速い!先に動いたのはフィルだった。フィルは真っ直ぐ突いた剣先を巻き込むようにして横薙ぎへと変化させる。動きは非常に滑らかで正面で切りつけたかと思えば、器用に体を入れ替えて流すように切り付けていく。クロードさんは腕にはめたプロテクターでいなし、または避けて攻撃の機会を伺う。しかし如何せん武器のリーチに差がありすぎる。
横ではガイアスが時間の問題だとか言っているがクロードさんの目は何かこう、隙を伺っているように見える。とその時、剣を突いてきた先を払い除けクロードさんが仕掛ける。体を巻き込むようにして突きを躱し、そのまま回転してフィルの側頭部へと回し蹴りがヒットする。たまらず後ろに下がり態勢を整えようとするがその隙をクロードさんは見逃さない。
飛び込んで顔面にその拳を叩きこむ、が、それをまた避けながら右手に握られた剣を内側から横薙ぎに剣を振るうフィル。払い終わった瞬間を狙い再び踏み込んだクロードさんだが...なに?!
「チッ、双剣だったのか...」
クロードさんは距離を置き、フィルの左手に握られてた剣を見つめる。わき腹からは出血しているが戦闘不能と言う訳ではないようだ。
フィルさんの武器は双剣ではあるが片方の長さは若干短い。恐らく背中側に隠しておいて、予備、あるいは今回のようにして使うのだろう。
「奥の手とまではいかないが、準備しておいてよかったよ」
そう言うとフィルさんは2本の剣を巧みに操りクロードさんへと襲い掛かる。間際に放つ蹴りをフィルさんは腕ではなく剣で受ける。ガキン!と音がしてクロードさんの足が弾かれる。
「プロテクターに刃が仕込んであることは予想できた。恐らく腕にもな。そろそろケリを付けさせてもらうぞ!」
速い、クロードさんは後ろへ避ける、しかし後ろへと避けると先と同じく双剣の餌食となる。もうこれまでか、と思った時、クロードさんは一本目を躱した後にその体を前に詰めた。2本目の剣がクロードさんの体へ食い込む。しかし剣先の根元では本来の切れ味は維持できない。また右手の剣は薙いだ後で切り返しが間に合わない。
クロードさんは右手でフィルの左腕を掴み、左手でガラ空きの右わき腹へ拳を叩きこむ。フィルはここでようやく右手の剣を体に引き寄せ、その剣を立ててでクロードさんの拳を受けようとする。ジャキン!と音がなり左手よりクローが飛び出す。クローは剣の間をすり抜けフィルさんの脇腹へと深く突き刺さった。
「グハァ!!」
口から大量の血を吐き、後ろへと下がるフィルさん。まだ構えを取ろうとして...片膝をついた。
「そこまで!」
ケビンさんが声を上げると、コロナたちギルド職員がフィルさんへと駆け寄り治療を開始する。また、クロードさんも脇腹に裂傷を負っており、同じく治療に入った。タリスマンが作動することはなかったが手合わせとしては十分だろうと判断したのだろう。
中級ポーションを使用したのか、しばらくしてフィルさんがクロードさんの方へとやって来た。
「お見事、やられちまった。クローも仕込んであったんだな」
「奥の手までとは言わないが...フィルと同じさ」
「本当の奥の手も残してそうだが?」
「それはお互い様じゃないのか?」
おぉ、なんかカッコいい会話をしている。俺もこういう戦って分かり合えるように強くなりたい。しかし、クロードさんカッコ良すぎるぜ。
あれだな、ロビンにあれやこれや言ってはいるが、俺も装備を新調しようかな?
「はっ、ペットにしては中々やるじゃねぇか!」
「ガイアス!」
フィルさんがガイアスさんに注意している。その後ガイアスさんは何事かクロードさんに言ってから笑いながら闘技場へと入っていった。俺も少し言いたいことがある、格上だろうがクロードさんをバカにするなど許せん。
「おい、ガイア『まぁまぁ、コビー』」
「あ、ヒロシ様」
「次は俺の番だから下がってろって」
「あ、はい。あれ?ヒロシ様着替えてないんですか?」
「ん?あぁ、まあな」
と言いながら、ヒロシ様は闘技場の中へと入っていった。
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