63 ~シンディ男爵家に立つ2~
今日はもう1話投稿できるように頑張ります。(`・ω・´)
玄関口に男が2人立っている。
一人はどうやら私と同じ狼獣人のようだ。もう一人は声を発した人物でどこか飄々としていて商人のように見える。
仲間ではないだろう、警備を呼ぶぞと言われグスタフ家のゴロツキが3人向かっていった。グスタフ家はこの辺りでは有名だ。腕っぷしも強いので誰も近寄らない。商人の男は殴られている。あぁ、関係のない人を巻き込んでしまったのか。
と思ったらその男はドアを突き破って放り出された。ドアが壊れた。まぁそれはいい。よく見えなかったが狼獣人がやったようだ。その後もう一人も床に頭から突っ込んで止まった。もう一人が喚いているが、商人の方はこちらへ近づいてくる。残ったその一人も狼獣人にあっという間に無力化されてしまった。
商人が前に立つとその瞬間グスタフは壁に頭から突っ込んでいき半分ほど過ぎた辺りで止まった。何が起こったのだろうか。側に狼獣人が控えていたので彼が何かしたのか?いやそれしか考えられない。流石にこの商人が男を吹き飛ばすなど無理だろう。この狼獣人は執事のような恰好をしているがよほど名のある武人に違いない。
この人たちは何だろうか。助けてくれたのか? よく考えがまとまらないままでいると、カールが説明してくれた。この人たちは私に会いに来たのだと。なぜ?
すると今度は警備の人が入ってきた。逃げた方が良い。グスタフにあることないこと言われてしまう。案の定意識の戻ったグスタフはこの2人に襲われたと証言している。違う、襲われたのは私だ。
警備も狼獣人にひどく怒っているが、彼が懐から取り出した何かを見てその態度は急変した。なんだろう、メダルのようなものだ。
どうやら彼の名前はクロード、商人風の男はヒロシと言うらしい。いや呼び捨てにしてはいけない、どうやらヒロシ様は男爵家の賓客のようだ。直立不動の姿勢で警備の隊長は説明を受け、グスタフは連れて行かれた。
ヒロシ様はやはり商人だったようで、また賓客であるのも間違いなかった。そのまま話の流れで私たちはヒロシ様のお店に移動することになった。
なんだろう、私たち家族が知らないところで何かが動き始めているような気がした。少し話した後、私たちは馬車に乗せられスラム街を後にした。
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想像していたより遥かに大きな商店だった。流石男爵家の賓客。よく見ると男爵家御用達の看板まで掛かっている。なんだこの店は。
裏口に回ると言ったが、こっちが玄関なのだろう。住居も兼ねていると言ってたのは覚えている。この大きな宿屋の隣って確かここは男爵家の別邸だったんじゃないのか?
ヒロシ様が降りるとアリスと言うメイドがあれこれ指示を受けている。しばらく別行動らしい。子供たちは浴室へと連れて行かれるようだ。
私は部屋で服を着替えさせてもらい身体を拭かせてもらった。このような上等な衣服を着ても良いのだろうか。しばらくして子供たちも帰って来た。皆嬉しそうだが緊張しているのが分かる。カールから話を聞こうとしていたらドアが開いてヒロシ様達が入ってきた。
メイドとは別の女性も居るなと思っていたら、なんと男爵家のご令嬢だった。粗相があれば我ら家族はここで死ぬ。私の緊張は極限に達していた。
ヒロシ様が診察をするといいながら足を触りに来た。避けてはいけない、これ位なんてことはないと思ったらソニア様に叩かれていた。サティという人に言いつけると言われていた。ヒロシ様と懇意にしている貴族の方だろうか?
兎に角、この行為は別にやましい事では無いようで診察とのことだった。そして私の膝下あたりを叩き始めた。なにをしているのだろうか?
何度か首を傾げたあとクロード様を座らせ同じように叩いたかと思ったら、蹴られていた。反射とか言うらしく、健康な人間はここを叩かれると足が上がるらしい。
面白い。と思っていたらシャロンがベッドに飛び乗ってきた。緊張どころか余りの驚きで意識が飛びそうになった。シャロン...なんてことを。カールとアンジーは口を両手で塞いで叫びたいのを堪えているようだ。私もそうだ。最悪ここで人生の幕引きの可能性がある。なんとか許しをと思っていたらヒロシ様は笑ってシャロンにも試してくれた。本当にお優しい方のようだ。しかも2人にも診察をしてくれた。意外にも最後にソニア様も受診されて勝手に上がる足を見て笑っていた。
それからヒロシ様は今後の話をしてくれた。カールとアンジーは商店で雇ってくれるとのこと。こんなに嬉しいことはない。私も同じで身体が良くなったら冒険者として復帰し商店のために働いて欲しいと。夢のようだ。もちろん死ぬ気でやるさ。受けた恩を返さないなど狼族の誇りが許さぬ。頑張って治そう。そしてサティという人に訓練をしてもらうのだ。
先ほどから聞くサティという人について尋ねたら、まさかの狐炎のサティさんだった。大陸でも上から数えた方が早い程強い武人ではないか。もうそこらのオスでは相手にもならず、ドラゴンと番になるしかないと言われているような人だ。ヒロシ様はそんな人とも繋がりを持っているのかと感心したが、二つ名の事も知らないように見えるので恐らく顔見知り程度の事だろうと推察した。
とか思っているとソニア様がサティさんがヒロシ様に剣を捧げたと言いだした。もう少しでアゴが外れる所だった。到底信じられない。大陸中の女性冒険者の敵になるぞ。まさか惚れ薬でも使ったのかと思ったが、流石にそれは不敬であろうと反省した。恐らくはこのヒロシ様の優しさと寛大さに惚れたのだろうと自分を納得させた。
しかし優しさだけでは女性冒険者たち、特に獣人女性は納得しないだろう。女性獣人にとっては強さは群れの地位を表す最も重要な部分だ。それが自分より下のオスの群れに入るなど本来なら絶対にありえない。私ですらサティさんは強い殿方と結ばれるべきだと思っている。こんなに良くしてもらっているヒロシ様に対しては大変申し訳ないが、群れを作る本能を持つ獣人女性のわがままだと許してほしい。
クロード様ほどの実力を持っていればあるいは...この人...カッコいいのだ。
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