62 ~シンディ男爵家に立つ1~
ここから3話ほど閑話です。
今日中に最後まで行けたら良いなと思います。
私はシンディ、ウエストアデルの元冒険者だ。
8年前だったか、私は仲間と護衛の依頼を受けアルガスへと向かった。アライグマ獣人の親子を送り届ける仕事だ。ところが道のりを半分ほど来たところで盗賊に襲われた。
仲間が何とか食い止めている間に私は子供3人を馬に括りつけるようにして乗せその尻を叩いて走らせた。両親と仲間は私にも逃げろと促し、またどうか子供を頼むと叫びながら殺された。私は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にし何とかアルガスまでたどり着いた。
『アルガスの盾』というギルドへ行き、事の顛末を報告した後で小さな宿屋を借りた。子供たちをどうにかしなくてはならない。幼い子供に与えたショックは大きく理解もできていない。一番下の子供に至ってはまだ1歳ほどだ。どうすれば良いのか。でも、私はあの両親が叫ぶ姿が頭から離れなかった。結局私は彼らを孤児院に預けないで子供の世話することに決めた。
上の子2人はもうすぐ10歳になろうという年齢で末娘の世話を見てくれた。当然依頼のため家を空けることもあった。帰ると喜んでくれる子供たちであったが、時折心配そうに私を見る姿に捨てられはしないのかと内心怯えていた事は感じられた。だから私は彼らが独り立ちできるまで母さんになってやると話してやった。2人の子供は泣きながら抱きついてきた。私は頑張らないとなと決意を新たにした。
それから5年ほどは何とか家族4人暮らしていけた。パーティを組んで遠征に出かける訳にもいかないのでソロでの活動がメインだった。それ自体は別に構わなかった。危険な依頼を受けるのは避けたかったのもある。
大きな理由は実は古傷が完治しないことだった。生活費を稼ぐのに無理をしたのかも知れないが、3年ほど前から体が思うように動かなくなった。その時は栄養というものが足りていないことが原因だとは思いもしなかった。そして、ソロでの依頼を受けていた時にしくじった。依頼のゴブリン討伐を終えた後にフォレストウルフに襲われた。群れで襲ってくる魔獣で一人では分が悪い。ましてや最近体の調子も良くない。私はケガを負いながらも何とか逃げ切り依頼自体は達成したもののしばらく依頼を受けれるような状態ではなくなってしまった。
ポーションを何度か飲んだことで体の傷は癒えたのだが、思うように体を動かすことがほとんどできなくなってしまった。これでは依頼など到底受けることはできない。幼い子供たちに理由を話したら3人で今度は私を支えてくれるという。私は嬉しくて、また自分が情けなくて泣いてしまった。
それから金が尽きた私たちは宿屋を出ることになり、その内にスラム街へと流れて行った。その頃から借金の額は少しずつ膨れていったがギルドからの引退時の慰労金などを切り崩し何とか日々命を繋いだ。せめて子供たちが独り立ちできるまではと思ったが、今の私などただのお荷物でしかない。元々の種族の影響もあるのか子供たちは非常に器用だ。売上は大したことないのか知れないが、毎日少しでもお金を持って帰ってくる。
私を置いてスラムから出て行けと何度も諭したが、頑として首を縦に振ることはなかった。私は情けなくて毎日泣いていた。自分自身もう死んでしまっても良いのではないかと考えた。
そして、その日はやって来た。
グスタフ家が突然家にやって来たのだ。彼らは金貸しで私たちにお金を貸してくれたりポーションを売ってくれたりした。しかし私は知らなかったのだ。その借りた金が知らぬ間に金貨50枚になっていることなど。借りた金は銀貨数十枚だったと言うのに。騙された私が悪いのか、それとも元々そのような話だったのか。それは今となってはもう確かめようのない事だった。
だがそれでも支払いは少しずつだが返済している。一体何の用かと聞いた所、借金を今すぐ返せと言い出した。返せないのなら私の体で返せと言うのだ。働ける状態ではないことを話したがどうやらそういう事ではないらしい。ようするに私を慰み者にしようと来たのだ。
覆いかぶさってくるグスタフを払いのけようとしたが、最早その力もない。かつての私ならこんなブタの一匹や二匹どうにでも出来たものを。私はこのままこの男に嬲られてしまうのだな。もう何もかも疲れてしまった。
その時カールが男に飛びかかってきた。『やめろ、やめろ!』と言いながら。
どうしてカールがここに居るのか? まだアンジーと外で働いている時間ではないのか? カールは周りの男から殴られても蹴られても向かっていく。もう見てられない。私は懇願した。止めてくれと。私を好きにしてくれと。それでもカールは向かっていく。私は涙が止まらなかった。
その時玄関の方で声がした。
「すみません、ちょっと良いですか?」
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