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感想頂きました!ありがとうございます。
引き続き楽しんで頂ければ幸いです。
タネになりそうな薬草とかは簡単に選別できた。ありがとう、鑑定スキル。もう感謝しかない。
まずキンコン。これはキンカンのような果実で何しろ栄養価が高い。各種ビタミンが豊富だ。次にアサリン。小さい貝で鉄分、亜鉛、カリウム、タウリンが豊富だ。更にシサン。小さい魚だ。カルシウム・鉄・ビタミンA・B2・D・Eが豊富だ。あとは黒豆やミツバと言ったのを混ぜる。
これを煮込んで栄養素を抽出すれば出来上がりだ。ポイポイッと具材を鍋の中へ投入する。これは鍋と言うより釜に近いかな? 鍋はコルドロン風で...あれだ例えるなら魔女が使う鍋みたいな形をしているぞ。
そんなことを思いながら試行錯誤を繰り返し煮込んでは捨て煮込んでは捨てを繰り返す。意外にも栄養素が全く残らないのだ。何故だ。しかも眠い、ここ最近寝てないぞ。
これはこんなものなのだろうか? 若干残りはするが...とても栄養ドリンクとは言えない。このまま続けても良いものか?
煮詰める時間が足りないのか? 具材の量が足りないのか?きっとそうだ、そうに違いない。
そう思いながら煮詰め始めてもう何日ほど経っただろうか。朦朧としながらも木のへらでかき回してグツグツ煮込む。
鍋底からは気泡が怪しげな液体を掻き分け浮き上がってくる。それは赤か紫か、不気味な色をした液面で気泡は膨らんでは弾ける。
なんだろうこの鍋で煮込みながら消えていく気泡を見ていると何か不思議な気分になる。
『キイィィヒッヒッヒ』
「なんですか!今の声は!! 社長? うわっ、クッサ、クッサイ! ちょっと社長!」
アリスがドアを蹴り開け、すごい勢いで鼻をつまみながら走ってきた。
「キィイイヒッヒッヒ、あ、なんだアリスか。どうしたんだ血相変えて」
「どうしたんじゃないですよ。凄い臭いですよ、ってまさか今の笑い声は社長だったんですか? な、なにをやってるんですか!」
「え? 俺笑ってたか? 何してるって栄養ドリンクを作ってるんだよ。そんなに臭いこともないだろう。ん? もう鼻がイカレてるって? そうかな? どうだろうか、、、イヒッ」
アリスは俺の方を怪訝な顔をしながら見ている。鼻は摘まんだままだ。なんだその俺を見る奇異な目は!
「まぁちょうどいい所に来た。大方完成に近づいてると思うんだ。いやもう完成したといって良いだろう。そんな気がする。どうだ臨床試験をやってみないか? ん? 飲んでみたいだろう?そうだろう?」
俺は近くの小瓶に栄養ドリンクの試作品を入れてアリスに差し出した。小瓶の中は液体はブクブクと怪しげな気泡を上げている。
「いや...私は...そのぅ、健康なんで効果が分からないと思いますケド?」
「うーむ、それもそうだな。では3日間貫徹している俺が飲んだ方が良いな。ちょっとまて、まだ熱いからな。よーく冷ましてからだ、キヒヒヒ...ど、毒ではないからいいだろう」
そして俺は鑑定もせず小瓶の中身を一気に飲み干した。
ピーーーーーーーー!
≪無病息災≫の能力より技術≪毒耐性≫が付与されました。
「ギャアアアアアア!!! 不味い! な、生臭せぇ、アガガァ、目が回る、胸が焼けるようだ! なんだこれは! オエ、オエエエエエェッ!!! 不味い、不味すぎる! オエエエッ、オエエエッ、エロエロエロエロ...」
「キャアアアアアア、吐いた! 吐いたわ! 社長しっかりして下さい! クロードさん! クローーーーードさーーーん!」
「む? その声はアリス! どうした! どこにいる? ここか?」
クロードが颯爽と工房へ入ってきたとたんにぶっ倒れた。
「グオオオオオオオ!!! クッサ!クッサイ!! 鼻が曲がりそうだ!! ウオオオオオォォ...」
のたうち回るクロードと、白目をむきながら辺り一面ゲロまみれにした俺で工房はパニックに陥った。
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「すみませんでした」
「分かれば良いんです。(のよ)」
俺はアリス、クロード、そしてソニア、サティに謝っている。上の階でお茶を楽しんでたソニアとサティが騒ぎを聞きつけて降りてきたらしい。異臭が酷くちょっとどころではない騒ぎになったらしいな、ごめんなさい。ちなみに今もサティとクロはハンカチで鼻を抑えているぞ。
それにしてもサティの目が怖い。
「本当にわかってるのかしら?」
「分かっております」
「毒薬でも作ってたのかしら?見てよこれ。色やら臭いやらもう色んな意味でアウトよ。何してたのよ?」
「栄養ドリンクを作っておりました」
「毒薬ね」
「そ、そんな、あれは栄養価の高いものをちゃんと選定してですね...」
「もう一度飲む?」
「い、いや、それはちょっと...」
何故だ?何故できないのだ。スライムで不純物は全て取り払ったはずだ。なのに何故ゲロマズのドリンクが出来上がってしまうのだ。栄養価もほとんどなくなっている。≪鑑定≫では劇薬指定になっている有様だ。目や鼻にしみるしな。催涙系の武器や護身用に携帯するとかして使えるか?いや、今はそれは置いておこう。
俺はため息と共に壁際に置いてある廃棄物入れに目を向けた。箱からは使用済みのスライムゼリーが溢れだしそうだ。と、その時閃いた。
「あっ」
「どうしたのよ?」
「いや、分かった気がするぞ。絶対そうだ!間違いない!やったぜ俺!」
「ちょっとどこに行くのよ、えー、まだやる気なの?もうやめた方が良いんじゃないの?」
「いやいや、大丈夫だ。これで行けると思う。あと一歩だ!ウヒ、ウヒヒヒ」
「ソニア様サティ様、しゃ、社長がまたおかしな奇声を...」
「アリス、ちょくちょくヒロシ様はああなっちゃうんだ。多分止まらないと思うよ...」
「クロードさん...」
「はぁ、ソニア、放っておいて上でお菓子でもつまみましょう」
「そうね、サティ。クロードも行くわよ。アリス、後よろしくね」
「あ、は、はい」
どういう事かは分からないが...もしスライムゼリーが栄養素を不純物として全て取り除いていたとしたらどうだ? そして残ったもの、栄養素が全て抜かれたものが鍋の中に残っていたとしたら。
そう、つまりだ。廃棄しているスライムゼリーの中に、栄養が全て取り込まれているとしたら。俺はスライムゼリーを破り、中身を容器に開けて小瓶へ移す。
ここからだ。俺はスライムゼリーが混入しないように注意しながら作業を行う。くそ、上手くいかない。スライムゼリーが残っていると鑑定をしても栄養ドリンクの表示はでない。
≪鑑定≫
液体:果実や薬草の混合液 スライムゼリー入り
とか言う中途半端な結果となる。俺の勘が外れているのか? いや、そんなはずはない。あれだけの栄養素がどこへ消えるというのだ。
どうせならと時間をかけて厳選素材を用いてドリンクの元も作り直した。上手くいった場合にレシピとして残していると次が楽だからな。前回は途中から意識朦朧としてその辺りの対応が雑だった。ここは反省だ。
様々なチューブや濾過装置を使用して丁寧にスライムゼリーから中の溶液を取り出す。そして遂にゼリーを全て取り除くことに成功した。
ここまで10日間位かかっただろうか。ソニアさんとサティさんは連日女子会を開いているようだがまぁいい。時折クロやアリスが様子を見に来て話をしてくれてるから寂しくなんかないぞ。ただ様子を見ると言うより監視っぽいのが気になるが...まぁ良い。
早速試作品の鑑定結果を見ようじゃないか。
≪鑑定≫
エナジーポーション 栄養満点 体調不良等の状態に服用すると効果的 1瓶で3000mの全力疾走が可能
出来てしまったようだな。というか、出来てたんだな、知らぬ間に。もっと早く気づいていればと悔やまれるが仕方ない。
「アリス!」
「はい!」
「今度こそ完成だ!どうだ、飲んでみろ!」
「え?ええっ!い、いや...あの、それは...」
「どうした? 遠慮することはない! さぁ! さぁさぁさぁ!」
「いえ、ちょ、ちょっと、さ、さ、サティ様ぁ!!」
「イヒ!イヒヒヒッ! 叫んだ所でだぁれも来てくれやしな、、、グボァ!」
「何やってるのよ?」
「ぐぉぉぉ、ちょっとした冗談なんです。」
「可哀そうなアリス。こんなに怯えて。」
「いやいや、そんなつもりは。」
「何が『イヒヒ』よ」
「あれは、その...シチュエーションに酔ったというかだな。」
「お仕置きが必要ね。」
「勘弁してくれませんか?」
「ダメよ」
「ですよね」
俺はサティの説教を正座しながら有難く頂戴したのだった。
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