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よろしくお願い致します。
しばらくついていくと、小さい小屋にたどり着いた。
「カールおにーちゃーん! アンジーおねーちゃーん!」
「どうしたシャロン? 何かあったのか?」
「お客さんを連れてきたの」
シャロンという名前だったようだ。彼女は後ろの俺たちを指さして答えた。
「やぁ、こんにちは。俺はヒロシ、こっちはクロードと言う。よろしく」
「あぁ、何の用だい?」
「いや、そこでシャロンちゃんと会ってね。ここで店を開いているって聞いて寄ってみたんだ」
「......」
カールと言われたお兄さんは明らかに警戒している目つきで俺たちを見てる。そうだろうな。俺たちの服装は聊かこの場所では場違いにも見える。奴隷商か何かと勘違いしているかも知れない。
「俺たちはちゃんと金を払ってるだろ。今月分はまだ先のはずだ」
おっと、借金取りの方だったか。
「いや、借金取りじゃないよ。お店に来ただけさ。何を作ってるのかなと思って」
「そうか...すみませんでした。良かったらご覧下さい」
カール君は素直に謝って俺たちを商品がある方へと促した。語弊があるかもしれないがこの境遇でも素直でいれるというのは良い事だ。あと、この2人はシャロンちゃんと比べて幾分大きいな15歳くらいだろうか?
「ありがとう、じゃぁ見せてもらうね」
そして商品に目を向けたのだが正直驚いた。木で出来たアクセサリーが殆どだが、恐ろしく精密だ。デザインも素晴らしい。花瓶とか額縁とか色々なものに彫刻が施してある。
「これ凄いね。全部カール君が作ったのかい?」
「うん、まあ。でも作ったのは俺だけど、デザインはアンジーだ」
「アンジーさんは絵を描くのが好きなのかな?」
「絵を描くのも上手だよ。な? アンジー?」
「絵を描くのは好きですが、上手いかどうかまでは...」
「いや、2人とも大したもんだよ。正直驚いたよ。この一輪挿しかな? これはいくらだい?」
「それは...銅貨5枚で良いです」
安い。安すぎるだろ。木で出来ているとは言え、100倍出して売っていいと思うのは俺だけか?
「え? 本当にいいの?」
「売れないよりマシですから」
「ここではいつから働いているのかな?」
「もうそろそろ3年になります。それまではウエストアデルに居ました。アルガスには両親と来るはずだったのですが、途中で盗賊に襲われて...その時に両親は死にました」
「そうか、辛い話をさせて悪かった」
「いや、良いんです。その時護衛してくれてたシンディさんが僕たちを守ってくれてアルガスまで連れてきてくれたんです」
「そうだったのか。シンディさんは冒険者かい?」
「そう。僕たちの親代わりになってくれて、頑張ってくれてたんだ。でも盗賊に受けた傷が良くならなくて、体を悪くして引退したんだ。それで...」
「ギルドへは相談に行ったのかい?」
「行きました。でもギルドからもらったお金だけじゃ、とても母さんの医療費は払えなくて」
そうか。不幸ってのは続くなホント。何も悪くないのにどうしてこういう人たちが割を食う事になってしまうのか。
「クロ、買いましょうか」
「はい、ヒロシ様。それではここにあるもの全て頂こうか」
クロはポケットから銀貨を数枚出してきた。多いだろう...けどまぁ良いか。
「いや、こんなに頂けません」
「気にするな。ご主人様が良いと言うなら良いのだ」
「あ、ありがとうございます」
「君たちは月に幾らくらい稼いでいるんだい?」
「どうして、そんなことを聞くのさ? まぁ、良いけど。月に銀貨15枚位さ。それで借金を返済するともう何も残らないんだ」
「治療費が高いのかい?」
「何の病気かは知らないけど、ポーションを買う時にお金が掛かるんだ」
「こんなことを急に言うと怪しまれるかとは思うけど、一度お母さんに会わせてくれないかな?」
「いいけど...何故?」
「いや、純粋に君たち家族に興味が湧いたのさ。是非一度お母さんともお会いしたい。クロも良いか?」
「それはヒロシ様がそう言うのであれば問題ありません」
「じゃ、決まりだな。カール君もすぐ行けるかな?」
「ええ、お陰様で売るものもなくなりましたので」
「じゃぁ行こうか」
そして俺たち5人はカール兄妹の家に向かった。しばらくすると古い家屋、小屋と言った方が良いのか、小さい家が見えてきた。このあたりは木を張り合わせたような家、失礼な言い方をすればあばら家みたいな家が多い。スラムの住人は何人位いるだろうか?
と近づいていくと何やら家の中が騒がしい。その様を見てカールが飛び出した。
「あ、あいつら! お母さん!」
続いてアンジーとシャロンも追いかけていく。俺たちも続いて中に入るとカールが一人の男に飛びかかっているところだった。
「このヤロウ、母さんから離れろ!」
母親と思われる女性の上に人が跨り乱暴しようとしているところだった。その脇には3人ほど立っており、飛びついてきたカールを蹴飛ばした。
「ガキはすっこんでろ!」
「おいおい、しっかり見張っとけよ。おい姉ちゃん、じっとしてろよ、すぐ済むからよぉ」
女性は体を動かして逃れようとするが、男に押さえつけられて思うように動けないようだ。
「やめろ、おい!金は払ってんだろう! 約束が違うぞ!」
「約束ぅ? その約束がまた変わったんだよ。今日まとめて金貨50枚返してもらうぜ。払えないっつうんなら、お前ら全員色町か奴隷商に売り払ってやる」
女性が声を上げる。
「やめろ、子供たちには手を出すな...これで全て終わらすと言うのなら...私を好きにするがいい。だから子供たちを巻き込まないでくれ」
「おい坊主、聞いたか? お前、邪魔なんだよ、じゃーま」
「うるせぇ、お母さんに触るな!」
『ゴス!』
と音がしてカールが吹っ飛ばされた。
「カール!貴様、よくもゴホゴホッ、クソ」
「お前はだまって股開いてりゃいいんだよ、そしたら今日の所は帰ってやるよ。借金の事は次回またゆっくり話そうや。ゲヘヘ」
「やはり借金帳消しなど嘘か、人間はやはりクソだな」
「テメェはそのクソから金借りてんだろうが! 誇りじゃ飯は食えねぇぞ? さあさっさと股開けやぁ! それとも何か、口でまず奇麗にしてくれんのか? あ? 別にいいんぜぇ。ギャハハ」
2人の子供は怖くて端の方で震えている。カールはようやく立ち上がり、『やめろ!』と叫んでいるが他の男に羽交い絞めにされている。
おっと、見てばかりじゃダメだ。そろそろ行かないとな。
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