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よろしくお願い致します。
俺はクロと2人で街の外れまで歩いていてきた。近くまでは馬車だぞ。流石に遠いからな。サティとソニアさんは歩いて帰ってもらった。すまない、ありがとう!
ここから先はスラム街ですよってくらいに雰囲気が変わっている。どういう人がここに住み着くようになるのか聞くと、やはり職がない人が多くケガをして収入がなくなった冒険者や、事業に失敗した者など多岐に渡る。娼婦が多いのもこのエリアでいつかロビンが話していた色町ってのもこの奥にあるらしい。もちろん街の方にも酒と女性を楽しめる高級店はあるが。
「しかし、露店も出てるし意外と普通の印象なんだが?」
「露店で稼げてもやはり事情があるのでしょう。借金などに充てるため利益としては余りないとか」
「そうか、そうなると中々難しいんだろうな」
企業では借金があると経営が難しくなる、かと言えば答えはノーだ。明確な事業計画と利益を生み出せる方法が見えていれば銀行は金を出してくれる。借金があるからすぐに潰れるという事はない。
しかし計画が実を結ばず3年ほど赤字になると、銀行からの融資は直ちにストップされ、たちまち経営は立ちいかなくなる。そうなると復活は途端に厳しくなる。
次の手はリストラをはじめとする経費削減なのだが、そういった経費削減は既に3年でやり切っているパターンが多い。すると次は事業売却や譲渡を考えるようになる。株式会社、有限会社など会社の形態で内容は違うが個人事業主であれば全ての責任や負債を背負う事になったのではないか? もちろん保険やら担保である程度緩和されるとは思うが。
まあ俺の知識もプロでは無いがゆえに確実とは言い難いが大筋では間違ってはいないはずだ。
とにかく金がないともうどうしようもない。今度は自己破産に走るようになる。自己破産をすれば負債からは解放されるが社会的信用を失い、債務者からは罵詈雑言を浴びせられ、失踪や自殺に走るものも出てくる。
まあ自殺はともかくとして法治国家では一応の救済の道はできていたような気がするが、こちらの世界ではどうか? そのような法律はないだろう。
結果、少しずつでも負債を返すか、スラムへと逃げ込んでその日暮らしの生活を始めることを余儀なくされる。それでダメなら失踪、自殺、奴隷落ち。どこにいっても変わらない。世知辛い世の中だ。
俺は前世で会社を閉める準備をしていたわけだが、あれは一つの戦略だと考えている。俺の居た会社ではまだ利益を出してはいるが、数年先のビジネスプランを立てるのが厳しいのが理由だ。もちろん合弁先の会社との折衝もある。
利益を出している会社を占めるのは比較的容易い。腹も立つが先を見据えた時に、撤退するなら良いタイミングと言えただろう。会社という生き物からすればまさに戦略的撤退と言える。まぁ、やらされるほうは面白くもなんともないのだが。何故その役割が俺なの?ってな。
とクロに蘊蓄を垂れながら串焼き片手に歩を進めていくと、少女が花をもって近づいてきた。育てられた花ではなく、野原で摘んできたような感じだ。
「あ、あの、お花はいかがですか?」
正直俺はこう言うのにからきし弱い。耐性が無いと言っていい。旅行先でも何度も同じ目に遭ってきた。つい買ってしまうのだ。偽善者と言うがいいさ。でも買ってしまうのだ。
「あ、あの」
話しかけてくる少女に対してクロは固まっている。クロもどうやら俺と同じタイプのようだな。実際クロはある意味孤児院で同じ経験をしているだろうから、俺のような偽善ではなく本当にどうにかしてやりたいと思っているかも知れない。
「お嬢ちゃん、偉いね。いくらかな?」
「えーと、3、いや5本で銅貨1枚です」
「お嬢ちゃんは毎日花を売っているのかな?」
「ううん。あのね、お母さんが病気で働けないから、お兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に働いてるの」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんもお花を売ってるのかな?」
「2人はその先でアクセサリーを売ってるの」
「お父さんは?」
「お父さんもお母さんも死んじゃった...」
「あぁ、ごめんね。変な事を聞いちゃったね。ん? お母さんは病気じゃなかったっけ?」
「今のお母さんは、お父さんとお母さんが死んじゃった時に、私たちを守ってくれたの。それから新しいお母さんなの。でも今は病気なの」
ふむ、なにやら事情があるんだな。しかしこの状況で子供を引き取るなんて中々出来る事じゃない。大したもんだ。
「じゃぁ、クロ買ってあげようか」
「はい、ヒロシ様。お嬢さん、全部買わせてもらおうかな」
決断が速いぞクロ。しかも全部買っちゃいますか。
「えぇ! 全部! ありがとう、犬のお兄ちゃん!」
おおおおおい! 違うぞ! 彼は狼だぞ! あれ? 怒んないぞ?
クロは微笑みながらポケットから銀貨を出している。明らかに多いだろそれは。
「こ、こんなには貰えないよ。お釣りもないし...」
「良いんだ。でもそうだな、それじゃお兄さんのお店に案内してもらえないかな? あと、お兄ちゃんは狼だよ」
お前の懐の深さに涙が出そうだぜ。
クロはご兄弟のお店にもお邪魔したいようだ。まぁ、いいさ。俺も興味がない訳ではない。
「う、うん。こっちだよ。ついてきて!」
少女は走り出した。獣人ではあるが...タヌキかな?
「クロさんや、失礼ですが彼女の種族をお聞きしても?」
「やめて下さいよ茶化すのは! あれは僕にとっても黒歴史なんですから」
「はは、覚えてた?」
「覚えてますよ! でも、黒歴史とは言っても聞くことは本当に必要ですからね?」
「うん、わかった」
「彼女は恐らくアライグマの獣人でしょう。もう少し成長すると毛並みがはっきりするのですが」
「アライグマか。なんだかここには獣人が多い気がするが」
「やはり獣人の地位はまだあまり高くないという事かも知れません」
クロは少し寂しそうな顔をした。
「クロード」
俺は少し真面目な顔をしてにクロの事をみた。
「はい、ヒロシ様」
「俺たちは商人だ。お前が今の現状を憂いているなら、頑張るしかない。頑張って今の会社を大きくして、不憫な獣人を全員雇ってやる位の気概で頑張るんだ」
「ヒロシ様...」
「商人は甘くない。物が売れなくなったら直ぐに潰れる。まぁどんな仕事でも甘いってのはないけどな。でも何事も目標を立てることで目線が変わる。そうすると意識が変わる。そこから何かが変わっていくんだ。少なくとも俺はそう信じている。だから頑張ろうぜ」
「もちろんです、ヒロシ様。このクロード命を懸け...」
「そこまで頑張ったらダメだよぅ」
「意気込みです」
「わかったわかった、ありがとう」
クロードはヒロシを見ながらまた一つこの人の役に立ちたいと決意を新たにするのだった。
出来る限り毎日投稿を続けていきたいと思いますが、そろそろ限界です。(;^_^A
引き続きよろしくお願い致します。