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見直しに時間が掛かってしまいました。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
「という事だったんだよね」
俺とクロは今男爵家にいる。ソニアさんとちびっこ2人も来ているが今は別室でおばあちゃんと談笑中。俺達はじいさんと薬の販売方法と臨床試験について相談中だ。
「うーむ、そうじゃな欲しがるものは多いだろう。しかし店に嬉々として買いに来るかと言えばどうかのう。その手の薬は未だかつて見たことがない。効果があれば間違いなく売れるじゃろう」
「そうなんだよな、できれば大々的に売り出すのではなくて、『秘薬』枠で売り出したい」
「そうじゃな、手に入り難いと言えばプレミアが付く。そして効果はあると知ればリピーターも着くであろう。一般消費者向けではなく特権階級に上手く売ればよいかも知れんな」
「それが出来れば最高だなぁ。でもその前に臨床試験だよなぁ。人体に悪影響が出ないことは調査済みなんだよな。(鑑定でだけど)」
「それについては、心当たりが一人いる。秘匿するにも信用できる人物じゃ」
「マジか!流石じいさんだぜ!」
「ふっふっふ、もっと褒めても良いぞ?セバス!」
「お呼びでしょうか旦那様」
セバスさんが速攻で入ってきた。絶対話聞いてたろ?
「セバス、実はな...」
「スイートメモリーズでございますね?」
「流石セバスは話が早いのう!」
いや、絶対聞いてたから。聞いてただろ!他の部屋は普通なのにどうしてここの扉だけが薄いんだ?と言うか、セバスさんの待機場所ってどこよ?
「ヒロシよ、こう見えてセバスは3人の妻を娶っておっての。まだまだ頑張らんといかん訳だ」
「なるほど、セバスさんやりますね...」
白髪とカイゼル髭に騙されそうになるが、見た目以上に若いのかも知れん。種族では人間であるけれどスキルやら能力やらあるから実の所はわかりませんけど。
「話は掴めております。あとは臨床試験とその結果がお知りになりたいと。ヒロシ様のお手伝いができるならこのセバスチャン、死をも恐れぬ覚悟でございます」
「いや、死にはしないと思うんだけどね」
「適任じゃろう?」
「お任せ下さい」
「セバスさん、こちらとしても大変助かります。是非よろしくお願い致します。それで、その例の薬はこちらになりましてですね...」
俺はカバンからスイートメモリーズを1瓶出した。色は薄い赤色をしている。レッドスライムの体色の名残である。
因みにポーション、毒消しポーション、このスイートメモリーズの成分については特許がないこの国では一発でパクられると思うだろう? なにせ生産方法が簡単すぎる。そこはじいさんの作ってくれた機密保持契約書を信じるしかない。鑑定では名前とクラスしか出ないのだ。鑑定で成分までは分からないと思う。少々楽観的とは思うが俺よりレベルの高い鑑定を持たない限り大丈夫だろうと思っている。
おっと、話が逸れたな。
「ほほう、これがスイートメモリーズですか...どのように服用すれば良いのでしょうか?」
「これはベッドに入る前に服用するくらいのタイミングで大丈夫です。副作用はありません。味も主成分がジオウキョ草なんで甘いです。検証して欲しいのは、もちろん致すことが出来るか?が一つ。二つ目は持続性。三つ目が実は俺が一番期待したい部分、興奮度の継続です」
「三つめは仰る通りでございますな、ヒロシ様」
「そうでしょう?男は1回山を登ってしまうと、どんなに元気でも次の山に直ぐに登りたく無いものです。それを休む間もなくそびえ立つ山々の制覇へ歩を進めることが出来るかが、今回のポイントです」
「まさに、私が求めていたそのものですな」
俺はセバスさんと固く握手を交わし、男爵家を後にした。
その際にソニアさんから新商品の説明をせがまれたが、臨床試験が必要という事と、男爵家から今の所は秘匿するように指示が出ていると言いながら誤魔化した。
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そして数日後。
俺とクロは再び男爵家を訪れていた。前回同じくソニアさんと子供たちは別室で遊んでいるぞ。
前にはじいさんとセバスさん。
「では、早速ですが効果の程と、ご自身の体調等々について教えて頂けますか?」
「ヒロシ様、、、、これは大変素晴らしい商品です」
「「「おお!」」」
じいさんだけでなくクロともハモってしまった。やっぱりお前結果が気になってたんだな。
「あれ程、充実した、いや至福の時を感じたのは果たしていつ以来だったか」
セバスさんが満足そうに窓の外を見ている。続きはよ!
「まず、固さ。自慢ではありませんが小生はまだ現役です。が、その固さに磨きをかけたようですな。鋼の鎧を纏ったようでございました。若干大きさ変化したように思います。その鋼っぷりから現役はもちろん、もう退役している人にでも十分効果があるかと思われます。次に持続性ですが、そうですな、なんと言うか、魔弾は何発でも装填可能です。これは興奮度にも関係するのかも知れませんが、登頂した後も、また次の山へすぐに向かいたくなります。もちろん、相手あってこそではございますが、山が呼べは直ぐに応えることが可能です。服用後も副作用と思われる症状もなく全く問題ございません。お年を召した方ならポーションを後から服用すれば良いでしょう。ただこれは副作用ではなくスポーツの後の体力回復の意味合いです」
「なんと、それほどまでか...」
じいさんが絶句している。俺とクロも驚きだ。
「そうですか、スイートメモリーズはどうやら成功のようだな」
「はい、大変良いものを開発して頂きました。販売がスタートしましたら是非お声掛けを。このセバスチャン、ダースで購入することも考えております故」
「なんと、それほどまでか...」
じいさんのコメントが適当になってきたような気がするが、本当に驚いているのだろう。今、頭の中では紹介する人がリストアップされていってるはずだ。
「セバスさん、これは今回の臨床試験を受けて頂いたお礼です」
俺はそっとカバンからスイートメモリーズを3本出して机の上に置いた。
「ヒロシ様、よろしいのですか?」
「もちろんですよ」
「ワシにも一本くれ」
じいさんがしれっとおねだりしてきたぞ。俺は黙ってじいさんにも一本差し出した。誰に使うかなど聞くまい。男は黙ってなんとやらだ。
そして俺は再びセバスさんと固く握手を交わして男爵家を後にした。俺は今馬車の中で皆とお茶を飲んでいる。
「ヒロシ君、セバスたちと山登りしてるの?」
「ブフォ! ななな何のことでしょうかね?」
俺はダラダラと口からお茶を垂れ流しながら答えた。
「部屋の前を歩いたら偶々聞こえてきたの。偶々よ?」
なにが偶々だ。『扉の前で聞いてた』の間違いじゃないのか? ホントあの扉はびっくりするほど薄いんだよ! 知られてはいけない訳じゃない、ただちょっと恥ずかしいだけだ。
「山に登って魔弾を撃ちたいな、と。そんな話です」
「あら、狩りの話だったのね?近くにピクニックがてら行きたいわね」
「そうですよね、カリの話ですよ。外でカリを出すのも興奮するでしょうねぇ」
ゴホゴホゴホッ!クロが隣でむせ返っている。
「『狩りを出す』んじゃなくて『狩りをする』よ? 言葉の使い方おかしいわよ?」
「はっはっは、そうでした。外で狩りをするんでした」
「でも、狩りは興奮するかもね?」
「えぇ、何せ昼間っから外でカリですからね。興奮しない訳ありませんよ」
「ちょっとヒロシ様、、、その辺で」
クロに窘められながら帰る、楽しい馬車の中のひと時であった。
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