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よろしくお願い致します。

 店の奥の一室。工房を抜けた先にその部屋はある。


 社長室だ。


 ドアには『社長室』のプレートが貼られている。部屋に入るとまず右斜め前には応接セットがある。

4人掛けのソファと2人掛けのソファが四角くレイアウトされており、中心にはガラスのテーブルがある。壁際にはキャビネットが据え付けられ、色々な種類の酒がグラスと共に並べられている。

その横のスペースには羊皮紙か何かに大きく世界地図が描かれ、奇麗な額縁に入れられている。


 ソファの奥には少し離して俺の机が配置されている。机に行くまでの空間、その両側には暖炉が設置され冬場にはこの部屋を暖めてくれる。奇麗な彫刻を施された暖炉は、オフシーズンの間でも調度品として十分その役割を果たしている。


 机の大きさは横幅2mくらいあるだろう。机脇のサイドテーブルには季節の花がきれいな花瓶に入れられている。これは2~3日に一度メイドによって新しくされている。机の後ろ側の壁には同じく羊皮紙にかかれたセリジア大陸の地図が額縁に入れられている。その中でアルガスの街に旗が立っている描写がある。それはここ、Nameless(名無しの店)だ。


 壁際には本棚が置かれ様々な本が並んでいる。窓の外には裏庭が見えて隣の建物が目に入らないように上手く窓の配置と庭の手入れがなされている。木々の隙間から木漏れ日が差し、窓からはレースを揺らしながら心地よい風が流れ込んでくる。


 俺からすれば十分なスペースだが、じいさんからは狭すぎやしないかと言われた。いや、十分だから。貧乏性の俺には慣れるのに相当苦労したぜ。


 商売の方は一応順調だ。大お得意先(ギルド)が居るからな。毒消しポーションも順調な売れ行きを見せている。


 男爵家には毎月の売上からロイヤリティとして売上の1%を支払っている。じいさんはそんなもん要らんと言うのだが、これは俺のケジメでもある。お世話になった恩は返さなければならない。例え少しずつでもな。


 だが、ギルド以外にも売り先を見つけないとな。まぁ、それは追々考えるとしよう。


----------------------------------------------------------------


 そんな俺は今机に座り薬瓶とにらめっこしている。


 毒消しポーションに続く、次の商品だ。しかしこれが成功したとしても店頭に置く訳にはいくまい。問題はこの効果を調べることが出来ない事だ。この商品の名前はスィートメモリーズ、滋養強壮の薬だ。はっきり言って夜のお薬だ。


 最近薬草は従業員が集めてきてくれる。必要な分しか取らないぞ、乱獲しても意味がない。


 ポーション作る際に入れる甘味を付けるための葉っぱ。ポーションはヤモギ100%では苦くてとても飲めたものではない。それを和らげてくれるのがこのジキョウ草と呼ばれる葉っぱと言う訳だ。


 ジキョウ草は甘みを引き出す葉っぱ以外は普段廃却されている。だが俺は廃却されている茎の方に滋養強壮に効果のある成分が含まれているを発見した。(鑑定でだが)


 ジキョウ草の真の役割を引き出せたとしたらどうする?アレの元気は心の元気にもつながると俺は思っている。ここ一番で中折れしようものなら、そのショックは計り知れない。年齢を重ねることに直面するこの大きな問題を何とかクリアできないか。この薬を何とかして世界の悩める子羊たちに与えることはできないか。


 俺は成し遂げた。俺はそれを成し遂げたのだ!


 と偉そうに言っているが、ジキョウ草とレッドスライムを煮たら出来た。『鑑定』上は滋養強壮薬と出ている。勃起不全治療薬とも記載されていた。


 だが...


 こんなもん、店頭に並べて売っても誰も買いに来んわ! そら中には買っていく猛者もいるだろう。

しかし...


 逆に売れまくっても店の品位を落としかねん。クソッ、どうすりゃいいんだ。


 おまけに効果を確かめる必要もある。


 臨床試験を誰に試させるか...



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「やぁ、ロビン君!よく来たね!」


「アニキ!アニキに言われたらいつでもどこでも駆け付けますよ!」


 彼は黒いマントをはためかせやって来た。ロビンはあの日から俺の事をアニキと呼んでいる。突然言われ始めて最初俺に言われているのか分からなかったぞ。前から呼ばれて、後ろを振り向いてしまった。


 まぁ、慕ってくれて悪い気はしない。彼自身も中々の好青年だ。


「今日はどうしたんで?」


「その、、話もあるんだがね、近況を聞こうと思って。まぁ掛けてよ」


 俺は机の前のソファに彼を座らせた。話の内容が内容なので、メイドではなくお茶の準備はクロードに頼んでいる。彼もこの薬を知っているが、臨床試験については拒否られてしまった。しかし、効果については気になる様子でロビンに話をしようかと相談した時には『いい考えですね』と即答した。少し悪い笑い方をしていたぞ。


 しばらく世間話をした後に俺は切り出した。


「で、ロビン。君はそのなんだ、特定の彼女はいるのかね?」


「いえ、特定と言うのはいませんね」


「そうか、なかなかモテるように見えるが...それじゃなんだ、夜の方はどうしているのかね?」


 なんか、俺の口の利き方がどっかの部長さんみたいだ。


「はい、それは、あれですよ。もっぱら色町ですかねぇ?」


「ほう!そういう場所があるのかね!」


「えぇ、ありますよ。値段もそこそこで結構サービスも良いです。どうですか今度一緒に?」


「う、うむ、魅力的な提案だが、生憎と中々時間が取れなくてね」


「まぁ、そうでしょうね。アニキは忙しいから」


「それで、夜の方は元気にやれてるのかね?」


「そりゃもう、まだまだ若いですから」


「そうか、、、、そうだよね」


「あれ?どうしたんです?」


「いや、我が社の新薬品なんだが、そういう夜の方に自信がない人に使えるかもしれないんだ。もしかしてロビンが夜にはっちゃけて居るタイプなら一度試してほしいなと思ってたんだが。若けりゃ必要ないよね」


「自分で言うのもなんですが、僕ではあまり役に立たないかと思いますね...」


「チッ」


 あ、クロ。今舌打ちしたよね?久しぶりに聞いたよ。俺にしか聞こえない絶妙の舌打ちだった。




お読み頂きありがとうございます。

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