48 ~暁の砂嵐7~
今日はこれで最後です。
いつもありがとうございます。
なんてことだ。
思わず2度見してしまった。
男は手でしっぽを払っているがサティお姉さまは微笑みながら叩き続けている。大事なことなのでもう一度言う。
なんてことだ。
獣人族にある特徴のひとつ、それはマーキングだ。縄張りとかに関するマーキング意識は進化と共に希薄になり頻繁にすることはないが、親愛や求愛に関する点においてそれは現在においても確かに存在する。
尻尾の長い獣人は、そのしっぽで相手を叩いたり撫でたり、あるいは絡ませたりするのだ。それは求愛の意味もあるし、親愛の行動でもあるし、または単純なスキンシップの表れでもある。ちなみに尻尾が短い種族は自分の体のどこか一部を相手に擦り付ける。
更に言えば男性の獣人はしないが女性は強い男性にマーキングすることにより他の女性に対して牽制を行い、一番最初に強いオスと結ばれるようにする。この点は縄張りと言う括りに属するかも知れない。それは群れを成した際、つまり男が数人の獣人あるいは人間を娶った際に高位に位置する為だ。だから一旦番になれば男が他の女性と行為に及んでも許容できると言う側面も併せ持つ。獣人の女性にとって種の保存と群れの中での序列は大きな意味を持つ。群れは大きければ大きいほど獣人族にとっては誉れだ。
どうもあの黒い男はその意味を理解していないようだが、そんな事は今はどうでも良い。問題はサティお姉さまがあの男に発情ゴホン、もとい好意を抱いているという点だ。
許すまじ。
あの真っ黒けの男のどこが良いのか。あのような竹やりもどきで戦うことが出来るのか?
だが、そう言う懸念を一発で吹き飛ばす程に男の戦闘力は高かった。何をしているのか全く理解が追いつかず敵が次々に屠られていく。名前はヒロシ様と言うらしい。
中々やるではないか。
この男がお姉さまにふさわしい男性か見極める必要がある。と同時に、お姉さまに本心を尋ねる必要がある。
私は戦いの中で実はそんなことを考えていた。そして戦闘の後、私はヒロシ様に直接お姉さまとの仲について問い質そうとしたが、お姉さまに止められてしまった。お姉さまがダメと言うならダメだ、仕方ない。だけど私はお姉さまの胸の辺りに顔をこすりつけてヒロシ様に見せつけてやった。が、あまり気にしている様子はない。
余裕なのか?
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それからしばらくして今日ヒロシ様たちと模擬戦を行う事になった。私は直ぐにでも行きたかったのだが、コビーが訓練して少しでも実力を上げてから戦いたいと言うので仕方ない。コビーはまっすぐな人間で熱血タイプの人間だ。少々暑苦しく感じる時もあるがリーダーとして私たちを上手くまとめてくれている。私もお姉さまに無様な醜態をさらしたくないのでまじめに訓練した。
当日ふざけたパンツ姿のヒロシ様に負け、執事のクロードさんにも負けた。クロードさんの体術は凄まじく捉える事などできやしなかった。コビーの剣は空を切り、ダンのシールドバッシュは去なされ、ロビンの魔法は躱され、私は簡単に無力化された。実力が違い過ぎる。
ため息をついて落ち込む私に、お姉さまが『今夜食事に行かない?』と声を掛けてくれた。
行くに決まっている。コビーから酒場で反省会をすると聞いていたが、そんなものはいつでも良い。かと言って無視するわけにもいかないので理由を話すと、『じゃぁ、ご一緒したいな』とか言いだすからついてくるなと言っておいた。
そして今、私はお姉さまと二人きりで仲良くお話し中だ。
「お姉さまはヒロシ様の事をお慕いしているのですか?」
「えぇ、そうよ。剣を捧げたわ。でも彼ったら全く返事をくれないのよ?」
「なんてヤツ、お姉さまからの好意を無碍にするなんて...」
「いいのよ、私は待つから。いつまででもね」
「お姉さまは、ヒロシ様と番になられたら私なんかとはもう...」
「ばかね、そんな訳ないでしょ。それとも私の事が嫌になった?」
「そ、そんな訳ないです」
「うふふ、かわいい子ね。あなたもヒロシ様を見て、獣人の本能が刺激されたんじゃないかしら?」
「そ、そんなこと」
「うふふ、ほら、正直に言ってごらんなさい?」
そうして、長い夜は更けていく。
私は今日も幸せでした。
私は兎獣人のルナ。お姉さまに夢中の冒険者よ。
暁の砂嵐はこれで一旦終了です。
最初の絡みがサティさんになるとは作者も思ってませんでした。
これ位なら運営さんも許してくれるかと思ってますが、、、ダメでした。編集しました!
明日以降はまた本編に戻ります。
お付き合い頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願い致します。