47 ~暁の砂嵐6~
今日も2話更新します。
ただストックが切れてきまして毎日更新が難しくなりそうです。
「あなた、剣を抜いたわね。それがどういう意味か分かってるのかしら?」
「あぁん? 決闘にすりゃぁ文句ねぇんだろうが? ここに居る奴らが証人だ! 俺が選ぶのは決闘だ! 負けて文句言うんじゃねぇぞ! キッチリ躾てやるからよぉ!」
「もう後戻りできないわよ?」
「後戻りできねぇのはお前の方だろうが! 今すぐヤってやるからかかってこ...あ?」
剣を振り上げた手がポロリと落ちた。
いつ抜いたのだろうか?サティさんの手には剣が握られている。
「グァッ、ガアアアア!?」
男は慌てて血が噴き出す腕をを押さえようとして、今度はその腕が落ちた。
「ギャアアアアア!」
男は転げ回っている。
「あら、汚れるから動かないでくれるかしら?」
サティさんは男を蹴りつけた後、剣を男の胸当ての隙間からゆっくりと差し込んで行く。
「や、や、やめやめやめろ! おい、やめろ! やめて下さい! お願いします、やめてください!」
「ダメよ。あなた決闘を申し込んだのよ? 何度もチャンスをあげたにも関わらず」
「ゆゆゆ許してゆる」
「ダメよ。」
剣はそのまま差し込まれ男は息絶えた。
「オマエェェ!」
「次はどちらの殿方が相手をしてくれるのかしら?」
「こ、こんな事して許されると思ってんのか? たかが女に絡んだ位でよ?」
「許すも何も決闘を申し込んだのはあなた達じゃない。私は何度も言ったはず。帰ってくれと。警備を呼ぶわよ、と。それを全部無視してあろうことかギルド内で剣を抜き、決闘まで。正気の沙汰とは思えないわ。許されないのはあなた達よ。それこそ皆が証人になるわ」
「...チッ、分かった...俺達の負けだ。これで良いだろうがよ」
「ダメよ。」
「なに?」
「ホントにバカなのね。決闘のルールは大陸で共通よ。セリジアホールデム。そしてDead or Alive『生死問わず』よ? 結末は勝者だけが決められる。許してほしいなら勝たなくちゃね? 可笑しな話ね、勝って許しを乞うなんて」
そう言いながらサティさんは横で気を失っている冒険者の頭に剣を突き立てた。男は変な声を上げて、ビクンッと数回その体を震わすと動かなくなった。
「あああ、勘弁してくれ、なっ、この通りだ。金なら少しはあるんだ。それで勘弁してくれ」
「ダメよ。」
次の瞬間、男の胸元に剣が突き立てられていた。
私なんかでは全く目で追えない。男の目は刺さった剣とサティさんを何度か往復させた後崩れ落ちた。自分がいつ刺されたのかすら分からなかったのだろう。
「最後はあなたね。でも、そうね。あなたには色々聞きたいこともあるからこの場では生かしておいてあげる。誰か警備を呼んでちょうだい。あと、コロナ? 他の皆さんとここを片付けてくれるかしら? 皆さんも手伝ってくれると助かるわ」
「はい、分かりました」
「いいぜ、手伝うよ。しかしこのヤロウ達も馬鹿だよな」
コロナと言われた受付嬢と数名が片づけを始めた。男は震えながらサティさんに訴えかけている。
「あぁ、何でも話すからよぉ、助けてくれ、な、頼むよ、な!」
「ええ、、、そうね」
サティさんは軽く微笑むと踵を返して私の方に向き直った。そして、その口から漏れ出た言葉は、私にははっきりと聞こえた。
「ダメよ。」
私はその格好良さに、そのスマートさにドキドキしてしまった。何だろうこの感情は。
「あなた、ルナって子よね?大変だったわね、大丈夫?」
サティさんは優しく私の頬のあたりを撫でてくれる。ドキドキする、私の顔は今真っ赤だろう。
「は、はひ、大丈夫です、あのあのあのありがとうございます。でもどうして私の名前を?」
噛んだ。でも、私の名前を知ってくれている。嬉しい。
「それはもちろんよ。頑張っている可愛い冒険者が居るってことは当然知っているわ」
か、可愛いなんて...嬉し恥かしで死にそうだ。
それから私はサティさんの大ファンとなり、その姿を見つけると積極的に話しかけた。少し大胆かしらと思いながらも私は自分の気持ちを制御できなかった。彼女と話すだけで幸せな気持ちになれた。何度か食事に誘ってもらい、何度か家に誘ってもらい...そして私は彼女に身を捧げた。
その日は私にとって最高の日だった。
------------------------------------------------
彼女が模擬戦で負けたと言う噂が流れているのは知っている。だけどそんなものは信じない。サティお姉さまが負ける事なんて絶対にありえない。でも、何故だろう、私からその真相を直接彼女に確かめることはできなかった。
そしてそんな噂も聞かなくなった頃、私たちはある護衛の依頼を引き受けた。男爵家の積荷を守る護衛だ。その道中、私たちは狂犬という盗賊に襲われた。50人以上いると思われる盗賊団だが、依頼を放棄して逃げるなんて選択肢はない。隣のコビーとダンの顔にもその決意が見て取れた。ロビンは盗賊団に潜入捜査みたいな事をやっていたようだ。あとから事情は聞くとする。
兎に角、その時に扉を開けて出てきたのは3人組だった。積み荷と思ってたら、中に人が入っていたようだ。だから食事や就寝時に馬車を私たちから離していたのだろう。
その中にサティお姉さまもいた。場違いではあるが、こんな所でお会いできるなんて嬉しい。
サティお姉さまと一緒に戦いたかったが留守番を言いつけれられた。残念だがお姉さまがそう言うのなら仕方ない。
溜息を吐きつつ私はその後姿を見送って気づいた。気づいてしまった。サティお姉さまのしっぽが黒い男のお尻の辺りをポンポンと叩いているのを。
お読み頂きありがとうございます。
評価ブクマは本当に励みになります。
お手数をお掛けしますがよろしくお願いします。