46 ~暁の砂嵐5~
今日はこれで最後です。
お付き合い頂きありがとうございます。
私はルナ、冒険者パーティー『暁の砂嵐』の紅一点よ。
私は幼い頃をバルボアで過ごした。
バルボアは獣人に対して嫌悪感を抱く人間が多いのか、その差別は辛辣を極めた。あらゆる問題事は全て獣人に擦り付けられ、時には無実の罪で奴隷に落とされる同胞も居た。家族が何故バルボアで住んでいたのかは知らない。ただとうとう耐え切れなくなった私たちは持つ物も持たず夜逃げ同然で街を出た。逃げ出したのだ。
目指したのはアルガスだ。獣人擁護派と聞いていたが実際は知らない。バルボアとアルガスには領地境に深淵の森と言う非常に大きな森があり、それを真っすぐに抜けるには最短でも1ヵ月は掛かる道のりだそうだ。もちろん非常に危険な地域で様々な魔獣が生息している。それ故か互いの領地の情報も少なく領地同士の関係も希薄であるらしい。
最低限の準備で森に飛び込んだ私たちが4ヶ月以上を掛けて無事に森を抜けれたことは奇跡に等しい。大きく迂回して安全だと思われる道を選んだことが功を奏したのか。いや、私はアザベル様のお導きだと本当に信じている。もしその時に私に治癒のスキルが発現しなければ父は魔獣に襲われて間違いなく死んでいたのだから。
今、両親は街で小さな屋台を出し毎日を精一杯暮らしている。あのバルボアで過ごした屈辱的な日々を思えばここは天国みたいな場所だ。
15歳で成人し、冒険者として生計を立てていこうと思ったその日から、私はヒーラーとしてずっと修行してきた。父と母も私を応援してくれた。育ててくれた父や母にも早くすごい冒険者になって楽をさせてやりたい。その一心で無我夢中で修行に励み、ソロとして実績を積んでいった。
パーティーを組んだのは同じ頃に新米冒険者として出会った3人組だった。獣人に対して忌避感もなく同じ冒険者として接してくれた彼らを信用した。
そんな時、私はギルドで冒険者に絡まれた。バルボアから偶々やってきた冒険者だった事は後からの話で明らかになった。
獣人がまともに働けている環境が気に入らなかったのだろうか?理由はよく聞かされていないが、彼らは私を見るなり罵り始めた。
その時他の冒険者も止めに入ってくれたが、彼らは聞く耳を持たなかった。腕にも覚えがあるようで、止めに入ってくれた冒険者もその迫力に押されていたようだった。当然パーティーを組んだばかりの私も大した実力もない訳で凄んでくる相手にどうしたら良いのか全く分からなかった。怖い、でも泣く訳には行かない、狼狽えもしない。私は毅然とした態度でその冒険者たちに対峙した。
それが余計に気に入らなかったのだろう、彼らが私の耳を掴み引きずり倒そうとした時だった。
突然その男が吹っ飛ばされた。
「あなた達、ここがアルガスの盾って分かってるの?ギルド内での乱闘はご法度よ?」
スラリと伸びた手足、均整の取れた体、ピンと立った耳、自信に満ちた瞳。アルガスの盾でトップランカーと呼ばれるサティさんだった。
「てめぇ、何しやがる!ただで済むと思ってんのか!」
「それはこっちのセリフよ。ギルド内で乱闘騒ぎなんて起こしてタダで済むと思ってるのかしら?」
サティさんは虫でも見るような目つきで彼らを見ている。吹っ飛ばされた男は白目をむいて倒れている。
「このクソ獣人がぁ、獣人はおとなしくチ〇ポでも咥えてりゃいいんだよ!ぶち殺されてぇか!」
「何言ってるのかしら?あなた、この街の人間ではないようね?」
「あぁ?俺たちはバルボアから来た『龍の咆哮』だ!てめぇ、今なら土下座して謝るなら許してやらんこともねぇぞ?もちろんその後はきっちりその体に教育してやるがなぁ!」
「ゲヘヘヘ、中々いい体をしてるじゃねぇか、奉仕の心ってやつを教えてやるぜぇ」
「おい、いつまで寝てんだよ!早く起きろ、今日はもう宿に帰るぜ、この獣人となぁ!」
なんて事を言うのか。同じ国の人間で領地を跨ぐだけでここまで違いが出るものだろうか。しかしどの街、どの国にも一定数こういう輩は居るのだ。残念ながらアルガスも例外ではない。
「あなた達、何しに来たの?ギルドに用がないのなら帰ってくれないかしら?あなた達のような人間と話をするのも疲れるわ。バルボアの人間は皆こうなのかしら?」
サティさんはそんな男達の言葉など気にする素振りも見せずに答えた。流石ギルド長の秘書も努める人だ。
「な、なんだと!このアマァ!。獣人の分際で人間様に楯突く気かぁ?奴隷にして売り払っちまうぞコラァ!」
いつの間にか周りには人が集まりだしている。男達は注目を浴びて居心地が悪くなったのだろうか、私の方を見て言った。
「まぁ、良い。今日はこのしょんべん臭せぇ兎のガキで我慢してやるよ。オラッ! こっち来いや!」
男が私に手を伸ばしてくる瞬間サティさんが割って入った。
「いい加減にしなさい。度重なる獣人への侮辱と暴行未遂。警備を呼ぶわよ?」
「ハッハッハ、本当に腰抜けばかりなんだなぁ。警備を呼ぶだと? テメェではどうにもできねぇってかぁ! アルガスの冒険者は腰抜けばかりってことかよぉ。誰も助けにも来てくれやしねぇなぁ」
「えぇ、そうかもね。でももしかして誰もあなたのようなクズとは関わりたくないのかも知れないわね。さぁ、自分で出て行くか警備を呼ばれるか選びなさい」
「この女ぁ、気に入らねぇなぁ...そのすました顔をぐちゃぐちゃにして、嬲ってやるよ。前から後ろからなぁ!」
「それは楽しみね。1人伸びてるけど3人でいいのかしら? 皆で楽しみたいんでしょ、私と」
「はっ、4人に決まってんだろうが! そのお高くとまった顔が気に入らねぇが、すぐに命乞いさせてやるぜ!」
そう言うと男は剣を抜いた。
この男はギルドで剣を抜くと言う意味も分からないのだろうか?
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