44 ~暁の砂嵐3~
今日はこれで最後です。
次の日、俺は依頼書をもってメンバーの待つ酒場へと行った。メンバーはこの依頼を最初は渋ったものの最終的に受けることにした。報酬も金貨40枚だからな。だが俺の心は全く晴れない。これは犯罪行為であり、メンバーに対する対応もどういうものか知らないからだ。それを話したかったが言う訳にはいかない。
もし、ギルドから何もコンタクトが無いようであれば、俺は依頼当日に無理やりでもキャンセルして奴らに会いに行くことにしていた。その時に俺がどうなるかは分からないが...
俺は直ぐにメンバーと別れてギルドへと向かった。ギルドで依頼表を出すとコロナさんから奥の部屋に来るように言われた。
メッセージを見てくれたんだな。俺はそう思い、後をついて行った。
部屋に通され正面のソファへと座る。奥からギルド長のケビンさんが出てきたがその直後俺は絶句した。続いて出てきたのが男爵のゾイド様だったからだ。
「この紙を出したのは貴様か?」
男爵は冷め切った声で言った。その眼には殺意が浮かんでいるように見える。
「う、う、うぁ」
繋がっていたか、男爵家とギルドは。俺は消されるのかここで。いやだ、この場から逃げてメンバーに話をして俺はこの街から去ろう。それしかない。俺は飛び跳ねるように立ち上がった。
「ギ、ギルドとも繋がってたんだな!」
「ん?何を言っている?少し落ち着け。この紙を出したのは貴様かと聞いている」
ダメだ、この場にいちゃダメだ。逃げろ、逃げろ、逃げろ、俺の頭の中で逃走の2文字が駆け巡る。
俺は入ってきた扉へと体を向けると扉の前には黒髪の男が立っている。誰だ、こいつは? いつからいた? 黒いコートを着て顔には目から下を覆う鬼のような仮面を付けている。どっからどう見ても悪党だ。後ろから俺を襲うつもりだったのか? 残念だったな、俺はお前をぶん殴ってでもそこの扉から出させてもらう。
「とにかく落ち着け、ロビン。少し確認をしたいだけだ」
ケビンさんが言うがそんなこと信じられるわけがねぇ。俺は両手に魔力を込めると入口へと放つ準備をした。
「ど、どけぇ、ぶっ放すぞ!」
男はじっとこちらを見るだけで何も言わない。
「ロビン、落ち着くんだ!やめろっ。事情を聴きたいだけだ!」
「うるせぇ、犯罪者の言う事なんか信じられるか!おい、テメェ脅しじゃねぇぞ!どかないと扉ごとぶっ飛ばすからな!」
言い終わると同時に扉へと駆け出した俺は、魔法を発動した。確実に当たるはずのファイアフレイムは...男の前で霧散した。
「は?」
その瞬間に俺の意識は飛んだ。
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気が付いた俺はソファで寝かされていた。
「気が付いたか?」
正面には男爵とケビンさん、その右側のソファにはさっきの黒髪の男が座っている。顔の左側半分に全く感覚がない。首も少し痛む。
「くそっ、俺をどうする気だ?」
「まぁ、落ち着け。この紙の内容について聞きたいだけだ。誰から頼まれたか、そいつらはどこにいるのか、どんな連中なのか、あと、男爵家はお前の思っているような犯罪には一切加担していない」
「そ、そうなのか?」
「こちらの事情を話す前に、今回お前が密告してくれた理由と、お前自身の本心を聞いておく必要がある。嘘偽りなく話すと言うなら、こちらも誠意を見せよう」
俺は話すことにした。顔の左側に感覚がないので口が思うように動かなかったが。
「そうか、よく話してくれた。どう思うヒロシ?」
黒い男はヒロシと言う名前みたいだ。
「あぁ、嘘は言ってないように思う。信用しても良いんじゃないだろうか。ロビンと言ったな。お前の借金に関してはお前自身の責任だ。だがよく踏みとどまって自身を正したもんだ。お前を思う仲間のお陰だ。感謝するんだな」
「は、はい」
そしてその後の言葉に俺は戦慄した。
「もし、お前が告白していなかった場合、つまりお前の仲間の誰が奴らとつながっているのか確認が取れなかった場合だ。その時は奴ら共々皆殺しにしていた可能性もある。男爵家はこの件について一切妥協しない。後の憂いを断つためにそれくらいの覚悟で動いている」
俺の心の中まで覗き込むようなその黒い瞳に、その全てを見透かすような瞳に俺は恐怖した。そして彼から漏れ出ている何か黒いものが俺を包んでいるような錯覚。俺も冒険者の端くれだ。それくらい分かる。これが絶対的強者の気ということに、そして彼が絶対的上位の存在であることに。
「先ほども言ったが、よく自身を正したもんだ。お前は人生最大のファインプレーをしたんだ」
「あ、えぇ、はい。今回の依頼料が入ったら借金を全て返して一から頑張るつもりです。あ、依頼料は、その、頂けるんでしょうか?」
「それについては心配はいらん」
男爵様だ。
「今回の作戦は何も知らずに行動していると思わせなければならない。お前は護衛と言うより向こうの作戦が上手くいっているという事を怪しまれないための『演技』が絶対必要じゃ」
「はい」
「向こうが怪しまないよう、お前は仲間にもその時まで黙っておいてもらわねばならんしの。今まで通り、金に困り、切羽詰まった雰囲気の中で生活しているように思わせてくれ」
ケビン様が続く。
「分かったな? よし。それでは、概要と作戦をお前に話す。書面では残さんので絶対に忘れるな。あと一つ、お前を信頼している。が、ここの話を漏らす可能性が無いとは言えない。しばらくお前には男爵家からお目付け役が張り付くことになる」
「お、俺はそんなこと...」
「分かっている。疑っていたらこんなことお前に話さんよ。形式的なものだ。万が一の護衛程度だと思っていればいい」
「はい」
その後俺は説明を聞いた。奴らが狂犬と呼ばれる盗賊集団であること。活動拠点をアルガスに移していること。男爵家の関係する人間に被害が出ている事。そして罠を張ったこと。
「ほかに何か質問は?」
「いえ、特に。俺、絶対にやり遂げます。そしてこれで借金を返して、また一から頑張ります」
ここで仮面を外しながらヒロシさんが言う。
「あぁ、頑張ってくれ。成功するかどうかはお前の演技力次第だ。くれぐれも慎重にな。あと、借金は返す必要はないぞ?」
「え?どうしてですか?」
「そりゃ、全員死ぬからな。返す先がないだろう?どっちみち違法にできた借金だ。気にする必要なんてないだろう?」
事も無げにこの人は言うが、相手は50人以上いると言う話だったぞ?しかも戦闘を行うのはヒロシさんとサティさん、あとクロードと言うヒロシさんお付の執事(まぁ戦闘もこなせるだろうが)だけという事だ。
「でも、本当に大丈夫ですか?俺、ボスと呼ばれる男と会いましたがレベルも結構高そうに感じました。それに人数も多いですけど...」
「ロビン、彼は少々特殊でな。戦闘に関しては全く心配していない。俺達が心配しているのはその当日にその場所に連れて来れるかどうかだけだ。それ以上の詮索はご公儀の秘密だぞ。そうだろゾイド?」
「まぁ、そうじゃの。彼のことは秘匿するほどでもないが自ら公にするつもりもない。つまり、、、分かるな?」
「はい、詮索は致しません」
「それでよい」
「まぁ、そんな大げさなもんじゃないよ。ただ心配している事は本当だ。わざわざ呼び出すのにも色々と理由もあるが一番の理由は逃がさない事だ。おびき出す必要があるのさ」
そう言いながら話すヒロシさん。黒装束を身に纏い、イカした仮面をつけている。更に男爵様とギルド長からの絶大なる信頼を受け、しかもその実力は未知数。間違いなく強い方での未知数だ。
格好良い。
今は情けない恰好しか見せれてないけど、この人に認められたい。初めてだ、人に認められたいなんて感じたのは。
俺もいつか強くなって、その時には黒い仮面を着けよう。
引き続きよろしくお願いします。