43 ~暁の砂嵐2~
よろしくお願いします。
俺はコビー、暁の砂嵐の砂嵐を率いる冒険者パーティーのリーダーだ。そして、いつかアルガスの街一番の冒険者になる男だ。
で、俺達はギルドを後にしてこの酒場に居るわけだ。前置きが長すぎたな。だが仕方ないだろう? 語らせてくれ。
ちなみに俺の事を暑苦しいなどとほざいた女はサティさんと食事だそうだ。来るなとか言われてしまったぜ。チッ。
「いや、しかし強いとは知ってたけど。これ程までとはなぁ」
「あぁ、コビー。でも俺は胸を貸してくれたヒロシ様に感謝している」
「そら俺もそう思ってるよ。ちょっと余りの差の開き方にショックを受けただけさ」
「フッ、だがお前の目は死んでいない。まるで新しいおもちゃを与えられた子供のような目をしている」
おっと、ダンにスイッチが入ったみたいだぞ。語る男、その名はダン。
「俺たちが選んだ道は楽な道ではない。だけどそれが誰かの為になると言うのなら、どんな苦しい事にも耐えられる。そうだろ? 俺たちはようやく登り始めたばかりなんだぜ? この果てしなく長い冒険者坂ってや...」
「おいおい、なにしんみり語ってんだよ。アニキが強ぇってのは最初から知ってただろ?」
「おう、ナイスタイミ、ゴホン、その通りだな」
「......」
ダンは語りの最中に横やりを入れられてややご不満な様子だ。でも仕方ない、長いんだよ語りだすと。
「それより、そろそろ聞かせてくれよ?何でお前はヒロシさんの事をアニキって呼ぶようになったんだ?」
「あぁ、その事か。そうだな、良かったら聞いてくれるか?」
「「ああ」」
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俺はロビン、『暁の砂嵐』っていうそこそこ芽が出てきた冒険者パーティーの一人だ。
最近依頼も上手くこなせるようになってきてレベルもランクも順調に上がってきている。今日は酒場を後にして帰るだけだが、そこへ人相の悪い兄ちゃんが話しかけてきた。絡まれても返り討ちにするくらいの腕はある。別に話を聞くくらいどうってことない。
しかしそれが間違いのはじまりだった。
俺は男の後について行って小さな賭場へと足を踏み入れた。中では数人の男たちがルーレットを囲んで盛り上がっている。凄い熱気だ。止まると思う番号に金を賭け、応じた倍率によって金が貰えるってやつだが俺はやったことがない。勧められるままにポケットの中のコインを何度か賭けてみた。
面白い。
冒険の日々とはまた違った緊張感がある。勝てば際どい恰好をした別嬪さんがキャーキャー言ってくれる。チップなど渡すとキスまでしてくれる。負ければ当然だが悔しい。取り返したい。そこで賭けて取り戻した時の快感ときたら表現のしようがない。周りの女性も俺にゾッコンのようでそのまま連れて帰ったこともある。服や食事もご馳走した。何を思ったのかそうした金も手に入れる為、俺の掛け金は日を追うごとに高額になっていった。
ヤバイ、金がない。もう賭ける金がない。畜生、次こそは絶対当たるんだ。今までの経験と俺の勘がそう言っている。クソッ、何で金がないんだ!
「お兄さん、お金が無かったら少し都合しましょうか?」
それは悪魔のささやきだった。
俺はそうして借金地獄へと落ちていく事になる。女どもは金に群がる亡者だった。落ちた俺になんざ興味もない。そして膨れ上がった借金を用件に男は俺をボスと呼ばれる人物のところへ案内した。
「金は必ず返す、もうしばらく待ってもらいたい」
「返す返すと言いながらもう3カ月以上になります、困りましたねぇ」
「返すっつってんだろうがよ!」
「おやおや、暴力沙汰は勘弁して下さい。それに悪いのはそちらでしょう? 良いんですよ? 警備の人や、ギルド、お宅のパーティーの皆さんに話してお金を頂いても」
「そ、それは、困る。あいつらは関係ないだろうが」
そう言うやり取りを繰り返した後、もう自分ではどうにもならない程の借金を抱えた俺は、ある提案を受ける事になる。ギルドで募集している男爵家の護衛を引き受けろと言う内容だった。
俺は詳細を聞いた。奴らは男爵家と取引をしているが取引の内容は公にできるものではないらしい。裏の部分の事などで俺が知る必要ないと。通常取引は領地境の山中で行われるらしいが、護衛の冒険者を探すのに苦労しているとの事。この取引を関係者以外の人間に知られるのは当然避けたいところだ。借金をチャラにしてもらえる代わりに護衛を引き受ける。奴らにとってうってつけの人間って訳だ、俺は。
連れのメンバーに対しては上手くごまかす必要があるが、それに関してはこいつらに考えがあるから心配するなとの事だった。俺は山中に男爵家の馬車を誘導していくだけ。ただし、男爵家の人間とは依頼内容の確認はしてはいけないとの事。情報漏洩の可能性を消すには仕方のない事だと言われた。
そしてある日、ギルドに護衛依頼が出ているのでその依頼を直ぐに受けるように言われた。依頼を受けた後は積み荷の中身と護衛料をこいつらに教える。それで取引の内容が分かるようになっているらしい。
俺はその話に乗ることにした。
ギルドに行くと指示された通り依頼書があった。依頼書を取り受付けに行く前、俺は少し考えた。本当にこのまま引き受けていいのかと。
男爵家と奴らの繋がりがどの程度かは知らない。メンバーに対する対応も彼らに考えがあるとか?どんな考えだ? 賭場では会ってないが、メンバーも何かしら俺のように弱みを握られているのか? 何よりもまず、これは犯罪行為なんじゃないのか?
俺はこの手で冒険者として生きていく事を決めた。それがいまや犯罪の片棒を担ぐような真似をしている。良いのかこれで。このままじゃ俺はどうしようもないクズになる。全てを失ってしまうだろう。
それで生きていると言えるのか? メンバーからも愛想を尽かされるだろう。それならいっその事、売れるものは全て売り払いメンバーから金を借りて借金をチャラにした方がよっぽどマシだ。メンバーからは罵詈雑言を浴びせられるだろう。でも、犯罪に手を染めるよりよっぽどマシなんじゃないのか?
一見護衛の仕事ではある。だがもし重大犯罪に加担となれば魂歴に刻まれるだろう。一旦魂歴に犯罪が刻まれたらもう冒険者としては生きていけない。死んだも同然だ。
ならどうする? 男爵家には言えない。ならギルドに相談するのはどうだ? ギルド長のケビンさんなら助けてくれるかもしれない。男爵家とギルドとは密接な関係と聞いているが仕方ない。俺にはこれ以外の方法が思いつかないのだ。もしギルドから男爵家もしくは奴らに話が漏れたら俺はどうにかされてしまうだろう。でも、皆を裏切って犯罪者として生きていくよりかはマシだ。
俺はそう思い、受付に行って依頼願いをだした。依頼願いは『この依頼を受けるかもしれませんので押さえさせて下さい』というものだ。即決できる場合はそのまま依頼表を出して登録すればいい。今回は俺がメンバーに話を通してからの回答とするので少し時間を貰うわけだ。通常2日以内に回答しないと無効になる。
受付けのコロナさんは俺を見て『疲れているように見えますが大丈夫ですか?』と声を掛けてくれた。俺は今ひどい顔をしているのだろう。これが最後の仕事になるかもしれない。そしてコロナさんから依頼書を受取り彼女が控えの用紙を置いているその下に一枚の紙切れを挟み込んだ。
『この依頼を利用して犯罪が行われる可能性があります』
と書いて。
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