42 ~暁の砂嵐1 ~
おはようございます。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
俺はコビー、暁の砂嵐の砂嵐を率いる冒険者パーティーのリーダーだ。
いつもは4人で酒場で食事をしているが、紅一点のルナは別行動だ。女性だからな、男との俺たちに無理に付き合わせる必要もない。
あの狂犬との事件の後から数か月後、俺達は今日4人でNamelessと言うお店に初めて行った。模擬戦をお願いするためだ。店の入り口の横には『男爵家御用達』の看板が掛けられている。ここってすごい店なんじゃないか?あの時聞いた話だとそんなに大きな印象を持たなかったが。どれくらいすごいかと言えば、この看板を掛けられる店はこのアルガスの街に数件しかないって事だ。
客は結構入っていて賑わっている、と言うのが最初の印象だった。カウンターには様々なポーションが並べてある。話を聞くとギルドに卸しているようで、競合しないように価格も合わせているんだとか。ポーションの作成は以前この店の奥でやっていたのだが最近は別の工場で生産をしているらしい。
驚いたのは毒消しポーションがあったことだ。最近ギルドにも置かれてあったのだが、まさかここが開発、発売元だったなんて。毒消し薬は全ての毒に有効と言う訳ではないが、ある程度魔獣などの生態を把握することで、必要なものを前もって集めておくことはできる。冒険中に被害にあった際にその対応の早さが生還する確率をどれほど上げてくれることか。
ちなみに、俺はポイズントードとガラガラスネークの毒消しを買った。特にガラガラスネークは毒に侵されるとその部位が壊死して切断することになったり、最悪は死に至る可能性もある。毎年冒険者の何名かは犠牲になっている恐ろしい魔獣だ。
レジで支払いを済ませながら俺たちは今日来店した理由を話した。店員は向こうで働いているレイナさんと呼ばれる女性を呼んだ。
レイナさんは俺たちのパーティー名を聞くと、話は伺っておりますと奥の部屋に通してくれた。
「それでは社長を呼んで参りますのでしばらくこちらでお待ちください」
応接室と書かれたこの部屋は奇麗な装飾品が置かれておりアルガスの街の絵やゾイド男爵の肖像画などが飾られている。少ししてメイドさんがお茶を持ってきてくれた。そして更に少し間をおいてクロードさんとヒロシ様が入ってきた。
「ごめん、ごめん、待たせたね」
「「「「いえ、こちらこそご面会に応じて頂きありがとうございます」」」」
ヒロシ様はそのまんま商人の格好だった。いや、ちょっと儲けてる風と言えばそうにも見える。ピシっとしたズボンにブーツ、白のシャツにベストを着ている。
クロードさんは執事の服装だ。そうだな、この人はこの家の執事だった。俺はあの深い青の戦闘服姿も好きだ。もう一度見たい。超カッコ良かった。いや、言っておくが薔薇ではないぞ。断じて。
「で、用件は? まぁ多分模擬戦だよね? クロ、今日のこの後の予定はどうなってる? あぁ、じいさんとケビンさんとの定例会議か...そうだな、その会議、今日はギルドで出来るか確認してくれないか? ギルドで模擬戦をした後にそのまま会議に移ろう。いや、そんな顔するなよ、頼むよ、なっ。え? ソニアさんが今日は夕食を作るって? なに? シェリーとロイ?非常に言い難いの? だよな。困ったな、マジか...良し、ではすぐに出よう。では、皆さん、場所をギルドに移してそこで模擬戦という事で良いですか?」
もちろん断る理由もなく、俺達はギルドへと移動した。出てくるときにソニア様が居た。男爵家のご令嬢だ。もちろんキチンと挨拶させて頂いた。ヒロシ様にはシェリーとロイが今日は早く帰ってくるからそのつもりでと言っている。最近忙しくてゆっくりと遊んであげられる事がなく、お子様たちもお冠だそうだ。
こう見ると本当にヒロシ様は普通の商人に見える。飄々として全く戦闘などできそうにない。正直、余裕で勝てそうな気さえしてくるから不思議だ。
ギルドではサティさんが待っており、まずはヒロシ様、サティさん、クロードさんとの模擬戦を行った。サティさんは業務で着ている服のまま。赤の戦闘服ではないが動きやすそうな格好だ。クロードさんは執事服。ヒロシ様に至っては服が汚れちゃうからとか言って、半袖半ズボンだ。あれ、シャツとパンツじゃないのか?
くそ、舐めやがって! メッタメタのギッタキタにしてやるぜ!!
と、考えていた時期が俺にもありました。
勝負は一瞬だった。何が起こったのか理解できない。気づいたら全員が寝転がっていた。その後、ヒロシ様はクロードさんとサティさんと話をしてクロードさんvs暁の砂嵐で模擬戦を行った。クロードさんはヒロシ様にダメなところを指摘しながらやれと言われていた。
戦闘中にそんなことが出来るのだろうか?流石に舐め過ぎじゃないか? 良いだろう、今度こそメッタメタのギッタキタにしてやるぜ!!
とか思っていた時期が俺にもありました。
結局、コテンパンにやられた訳だ。
でも、筋は悪くないって褒められた。それが嬉しかった。リップサービスかも知れないけど、強者から言われるのは正直励みになる。
模擬戦の後、こちらから質問させてもらった。あのジャギルとの戦闘の際に、確かにこの人とサティさんは魔法を掻き消していた。どうやって消えるのか?と。
「え?ファイアでしょ?私の場合は剣速で払ってるのよ。消しているのはヒロくんの方よ?」
掻き消しているように見えたのは、本当に掻き消していたのだった。サティさん凄すぎです。ただヒロくんとの呼び名にルナが反応しているように見えるのがヤバい。サティさん、ウチの子はへそを曲げると長いのでルナを刺激するのは頼むからやめて下さい。
「あぁ、あれか? うーん、どう言えば良いのかな? 木が燃える時は何が燃える? そう木だろ? 燃えるものがあるから火が付くんだよ。じゃぁ、何で魔法のファイアとか燃えてるんだ? 魔法が燃えてる? いや、魔法ってのはファイアを出す方法だろ? 魔獣には核があるだろ? あれを壊すと魔獣ってどうなる? そう、即、死に至る。ファイアも言ってみれば同じだ」
「つまり?」
「ファイアの中にある核を壊せば魔法の力を維持できないんだよ。結果霧散する」
「は?」
「あれ?おかしなことなのかな、やっぱり。誰もこの話を信じてくれないんだよね」
「魔法の中に核があるんですか?」
「あるよ、ロビン、ファイアを出して手元で維持してくれ。うん、そう、良い感じ。で、ここを衝く。な、消えただろ?」
「いや、『ここ』ってどこですか?あの...全く見えないんですけど。しかもあの戦闘の最中に向かってくるあの雨のような魔法攻撃を全て霧散させたのはこの技だと言うんですか?」
「コビー、聞くだけ無駄よ。それを実践できるのがポンポンいたら魔法使いは全員廃業よ。まずは一歩一歩、弛まぬ努力で強くなること。次のステップへはその時が来たら自然にわかるモノよ。考えたら出来るって言うレベルの話じゃないわ。わかるでしょ?」
「そうか、そうですよね、でも俺はもっと、いやきっと...」
これほどの差があるのか...悔しさのあまり僕は拳を握り締めていた。少し強くなったと思って慢心していた。俺達ではまだこの人たちの横は立てない。
しかしよくこんなに差があるのに時間を使って僕らの相手をしてくれたもんだ。本当なら門前払いを食っててもおかしくはない。俺は強くなる。それで本当にこの人達に認めてもらいたい! 今日、俺は高すぎるかもしれないけど、初めて強くなるうえでの目標を見つけた。
とか考えている横で、
「お姉さまぁ、私もその通りだと思うますぅ。コビーってちょっと熱血で暑苦しいんですぅ」
とルナはサティさんに抱き着いていた。
お前、緊張感無さ過ぎだろ! あと暑苦しくて悪かったな!
今日中にあと1話更新できるようにします。
お読み頂きありがとうございます。