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あと1話、更新します。


「家族の恨みだぁ?」


「あぁ、そうだ。俺の家族はお前に殺された...」


「はっ、殺してきた奴の顔なんざ、いちいち覚えていやしねえよ! ん、いや、待てよ? もしかしてお前あの時の、食堂を作りたいとか言ってた狼獣人一家の生き残りか? 生き残りがいたのか! ヒャハハハ、あれだろう? 店を出すとか言ってたあの! アレは良い稼ぎだったぜぇ。安心しろお! お前の家族を売った冒険者は俺が特別に殺しておいてやった! ギャハハハハ!」


「貴様...」


「お前を殺して俺は逃げる。これは約束だぁ。そしてお前らに復讐してやる! 絶対になぁ!!」


 その言葉が合図となり、クロードは真っ直ぐ男に突っ込み、右肩口から袈裟掛けに腕を振り下ろす。避けるジャギル。クロードはそのまま体を捻り回転しながら側頭部目がけて蹴りを放つ。


 トリッキーな動きで不意をつかれたジャギルだが、50近くあるレベルは伊達ではなく、左腕で蹴りをガード。そのまま右手に握った剣でクロードを横なぎに切ろうとする。


 クロードはバックステップでこれを回避。その後ヒットアンドアウェイを繰り返し徐々にジャギルに傷を与え体力を奪ってゆく。ジャギルが持つ武器はパラン刀と呼ばれる鉈を大きくしたような武器だ。


 レベル値が50を超えてくるとその力とスピードは常人のそれとは全く異なる。その圧力はかなりのものであるが、クロードは冷静に刀の振り終わりを狙い傷を与える。


 しかし、ジャギルの返す刀も早く、防ぐ動作を考えれば致命傷には程遠い傷しか与えられないでいた。しばし打ち合いが続きしびれを切らしたジャギルが動く。


「コノヤロウがちょこまかと! 良いだろう。奥の手を見せてやる! これでお前は終わりだぁ!」


 ジャギルは2,3歩後ずさると叫ぶ。


「グオアアアア!」


 叫び声と共にジャギルの身体が一回り大きくなり全身が赤黒く変色した。


「クアアア、フ、フ、、オラァ!」


「速い!」


 技術(スキル)の効果なのだろうか。ジャギルの動きは先程とは明らかに違う。狼獣人に真っ向から打ち込んで行く。右に左に。クロードはその動きについて行くのがやっとの状態で、すんでの所で躱してはいるが、身体中に裂傷が刻まれて行く。


「まずい、押されていますね」


 セバスチャンの目から見てもジャギルの動きは異常だ。間違いなく『ブースト』系のスキルだろう。活動限界とはその肉体能力によって上限が決まっている。いや、本能的にセーブしていると言った方が良い。


 それを超えた時に人は通常時より大きな力を発揮できるが、普段は出てくることの無い力だ。火事場の馬鹿力と同じだと思えば分かり易いだろう。それを技術(スキル)で無理やり起こし長時間で活動した場合、筋肉や関節に大きな負荷をかけていく事になる。

 

 他のスキルで短所をカバーしていれば別だが、奥の手を使うと言うくらいなので、スキル使用後は反動が来る事が予想される。ジャギルも勝つために、いや逃げるために必死だという事である。


 幾度となく放たれた剣撃はクロードの体を刻んで行く。


「グ、グァッ!」


 そして遂に右下からの剣筋がクロードを捉える。胸元から飛び散る鮮血。その飛び散る血の多さが、傷の深さを物語っている。


 ()()()を踏んで、後ずさるクロード。


「セバスさん、あの人やられる!助けないと!どうして!どうして行かないのですか!」


「ヒロシ様は信じておられます。クロードが勝つことを。私もそれを信じるのみです」


「でも、このままでは...」


 クロードはなんとか体勢を整え半身に構える。息は乱れ、口からはヒューヒューと乾いた呼吸音が零れる。足元もどこか定まっていないように見える...


「クハハハ、もう終わりだぁ。死ねやぁ!」


 そんなクロードの状態を見逃すはずもなく、ジャギルが飛び出してきた。剣を横から払うフェイントを織り交ぜて、クロードの半身の姿勢を少しだが正面に向かす。そのまま正中線鳩尾の辺りめがけて渾身の突きを繰り出す。


 獣人族には動体視力に優れている者が多い。魔法耐性と保有魔力量は少ないがその体力、純粋な力、俊敏さ、それを活用する知覚能力が優れている。その能力を宿す獣人族は近接戦闘において圧倒的優位者と言って良いだろう。


 だがその能力を宿す者達でも全てが強者と言う訳ではない。それは他種族と同じく、『ある力』が勝敗を左右する。それは決して倒れぬ『覚悟』、どんなに傷つこうが倒れぬ『意思』こそがその力の源泉なのである。


 クロードの意識は朦朧としている。僕は果たせないのか...無残に殺された家族の仇討ちを。このクソ野郎に...こんな野郎に僕は...ジャギルの剣が近づいてくる...クソッ...


「クロード!!」


 クロードの耳に誰かが自分を呼ぶ声が響いた。これは誰の声だろう。暖かく力強く...


 いつも厳しく狼の掟を守り俺を厳しくも暖かく育ててくれた父さんだろうか。

 いつも優しく俺を包み込んでくれた母さんだろうか。

 いつも僕を気に掛けてくれて死ぬ直前まで僕を守り死んでいった兄さんだろうか。

 すまない...だけど僕も今そのそばに...


「今こそ復讐を果たせ!!!」


 刹那、消えかけていた瞳の奥に火が揺れる。そうだ、何を諦めている? 僕は断じて負ける訳にはいかない。何のためにこれまで生きてきた? 何のためにこれまでこの牙を研いできた?


 彼は男爵家から追放されるべき僕を守ってくれた。

 彼は自分の力で戦う事の出来ない僕を鍛えてくれた。

 彼は帰るべき家の無い僕を側に置いてくれた。

 そして...何より彼はこの機会を僕に与えてくれた。

 そうだ...この声は...


「ヒロシ様...」


 その火は大きな渦巻く炎となりクロードに『意思』と言う力を与える。『意思』の力は全身を駆け巡り、消えかけた闘志を、力を、決意を呼び覚ます!


 今まさに体を貫こうとしているその鋭い突きをクロは右手の甲でそっと沿わすようにずらす。そのまま右手を剣の腹に滑らせ手首を掴む。そして左肘を巻き込むように上からジャギルの伸び切った腕に一撃を放つ。


 と同時に左肘に装備した暗器が作動。プロテクターからせり出した刃はジャギルの右腕を肘の辺りから一瞬の内に切り落とした。そして、更に屈んだ力を利用して体を捩りながら右足の内側へと鋭いローキックを放つ。同じく暗器を仕込んだプロテクターからは刃がせり出し、ジャギルの膝から下を切り落とす。


「ぎゃあああああああ!!!ぐあおおおおぉぉぉ!!!」


 痛みでのたうちまわるジャギル。


 勝利を確信したのか、フラッと意識が飛びそうになり倒れそうになるクロード。それをヒロシが横からしっかりと支えた。


「よくやった。お前の、お前の勝ちだ!」


「ヒロシ様...」


 そう言うとクロードはガクッと膝を落とし意識を失った。



 しかし、



 間違いなくここに勝負は決したのだった。



喜びもつかの間ランキングから消えました。(;^_^A

厳しいですね。

めげずに楽しんで頂ける文章をお伝えできればなと思います。

引き続きよろしくお願いします。

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