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お待たせしました。

「クロ、怖いか?」


「いえ...はい。怖いです」


「恐怖を感じない奴は危うい。恐怖を感じて震えるのも危うい。恐怖は怒りで消え、力を呼び覚ます。

だが、怒りに我を忘れるとそれもまた危うい」


 クロは黙って聞いている。


「だが、今目の前にいるのはお前の家族を殺した許されざる敵だ。恐れることは無い。俺を信じろ。今だけは怒りでその体を燃やし敵を倒せ」


「...はい!」


「じゃぁ、私も行くわ。セバスさん、この子達よろしくね」


「サティ様もご武運を。こちらは心配ございません。クロードをよろしく頼みます。ただこちらにも多少回して頂いても大丈夫ですよ?クロードの仇を目の前にして黙っているのは、、、、私も少々滾っておりますゆえ」


「ええ、その時はお願いするわ」


「サティお姉さま...私も...」


「ルナ、貴方はそこで留守番よ。セバスも言ってた通りこれは男爵家で片付けなくてはならない問題なの。私は彼に頼まれてお手伝いするだけ。それに貴方達では少々荷が重い相手よ。そこで見て戦い方を学びなさい」


「...わかりました。」


 そしてサティお姉さまはあの男に追いつき、横を一緒に歩き始めた。時折サティ様の笑顔が見える。しっぽを揺らしながらまるで散歩でもしているような雰囲気だ。あれはサティお姉様の横に立てる程の男性なのだろうか? 私には分からない。


「セバスチャン様ですね? すみません、男爵家の家令長とも知らずご無礼を」


 横からコビーが話しかけた。簡単だがセバスチャンさんから説明を受けている。


「失礼ですが、彼...ヒロシ様と言う方は見たことがありません。冒険者という事ですが、実績は? 無いのですか? スライム程度...って危ないじゃないですか? あちらのクロードさんですか? 獣人の方のほうが強そうだ。それにあの妙に長い槍のような武器。あれで戦えるのでしょうか?」


「私の事はセバスと呼んで頂いて結構ですよ。コビーさん、あなたはまだこれから伸びていく冒険者です。これは貴方にとって貴重な経験になるはずです。あなたはサティ様の実力はご存知ですか?」


「それはもちろん」


「そうでしょう、彼女はここアルガスでもトップクラスの冒険者です。獣人化すればその強さは想像がつかない程です。どれ程お強いのか...恐らく私では到底敵わないでしょう」


「『私では敵わない』か...セバスさんも相当な実力者とお見受けします」


「多少心得があることは認めましょう。話を戻しますが、その彼女が獣人化して両手剣を持っても触ることすら叶わない人がいるなんて信じられますか?」


「はは、ご冗談を。そんな人いるわけないでしょう。狐獣人は総合戦闘力において虎、熊、狼に匹敵すると言われている。サティさんは間違いなくその獣人界でもトップクラスにいる人でしょう。彼女が獣人化した場合、近接戦闘においては最強レベルと言えるのではないでしょうか。そんな彼女が触れもしない相手がいるなどと...もしや彼がそうであると言うのですか? まさか...そんな」


「あぁ、3人があんなに距離を置いて!」


「コビー、あれまずいんじゃないのか?」


 ダンとルナが心配している。確かにあんなに離れたらお互いカバーのしようがない。危険だ。


 とその瞬間、


「ギャァ!」


 悲鳴が上がった。


 2人の獣人はまだ戦闘体勢に入っていない。なんだ、あのヒロシと言う男がなにかしたのか?


「私も彼の戦闘を見るのは初めてですが、何と言うことでしょう。アレが彼の間合いとでも言うのですか?あり得ませんね」


 確かにあり得ない。人がまとめて5人ほど切り倒されたぞ。どうなっている? サティ様は切られた人が倒れ込むのと同時に剣を抜き突っ込んでいく。その流れるような剣さばきは見惚れてしまいそうだ。


 狼獣人の男は両手のクローと卓越した体術で次々と敵を屠っていく。


「クロードも頑張りましたね。以前の彼ではここまで戦えなかったでしょう」


 2人の動きは目を見張るものがある。しかし真ん中のヒロシと言う男...彼の動きは...目で追えない!一振りで何人倒しているんだ?


 まるで無人の野を行くが如く。


 形容できないと先ほどは思ったが、その黒装束に長い武器を携える姿はまるで死神のように思えた。


「凄まじい戦闘能力です。まさかこれほどとは。しかもそれでも底を見せていない...」


「あ、危ない!」


 レナが叫ぶ。後衛からヒロシさんに向かって魔法攻撃が飛来する。ファイヤーではない。あれは中級のファイヤーフレアだ。直撃する! と思った瞬間、彼が槍を振るうといくつものフレアはその場で霧散した。


 なぜだ?


 クロと呼ばれている人は魔法を避けるようにして下がる。これも信じられない動きだ。サティさんは避けたり、あの男と同じように幾つかはその場で掻き消えているように見える。どういうことだ? 着弾して消えているわけではない。消滅しているようだ。


 後ろではジャギルが喚いている。


「お前ら、たった3人になんたるザマだ! さっさと殺しちまえ!」


「で、でもボス! コイツらマジで、や、やべぇ。武器も魔法も効かねぇ! ましてやあの真ん中の黒いヤツ。なんだアイツは! あんな奴がいるなんて聞いてねぇ! まるで...し、し、死神だ!」


 一部がパニックになり逃げ出した。一部はこちらに向かって走ってきている。逃げながら、あわよくば俺たちを人質にするつもりだろうか?


「さぁ、皆さん出番ですよ。誰一人逃してはなりません。ただし絶対に無理をしてはいけません。いいですね? あなたたちは3人1組で連携しなさい! 無理ならわたしの方によこしてください。来ましたよ!」


「どけぇ!」


 迫りくる盗賊の前に立ちふさがるセバスチャンさん。


「グア!ぎゃぁ!」


 セバスさんは携えていたサーベルを抜くとその一瞬で相手の首が飛んだ。


 俺達はダンを先頭に一人ずつ相手にしている。これが普通だ。3人で50人以上の人間と渡り合えるなんて...


 俺達が3人ほど倒して振り返るとセバスさんの周りには既に数人が転がっていた。


 ジャギルの前にはあの男が立っていた。周りにはもうほとんど盗賊は残っていない。残った盗賊達は逃げるに逃げれず、かと言って戦えるわけもなく、まるで硬直しているようだ。それも仕方のない事ではないか? 恐らくBランクと言われる男が目の前の男に全く歯が立たないのだから。


「お前らぁ! 俺が誰だかわかってんのか?ぜってぇに許さねぇ! 必ず復讐してや、ぐぎゃ!」


「なにをベラベラ喋ってんだ? もう後はお前くらいなもんだ。どうしたこれで終わりか?」


「コノヤロウ、ぜってぇ許さねぇ」


「多少は強いのかと思えば興ざめもいい所だ。どんなに喚こうがお前は今日ここで死ぬ。さっさと念仏でも唱えるんだな...いや待て、そうだなお前には一つだけ助かる道がある」


「なんだと?」


「コイツと一騎打ちで勝てば逃してやる」


 俺はクロードを指さしてジャギルへ言った。


「はぁ? お前ぇ、それは本当だろうな?」


「あぁ、本当だ。この状況で嘘つく必要なんてないだろ? 嫌なら今死んで終わりだ」


「約束だぞ?」


「あぁ。約束だ。お前のようなクズから約束とかいう言葉が聞けるとは思わなかったよ」


 そして俺は叫んだ。


「クロード!」


 クロはジャギルの前に立った。その眼には怒りの炎が揺らめいている。


「家族の恨み、いまこそ晴らさせてもらう!」






お読み頂きありがとうございます。

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