4これより本編
異世界に来ました。
ゆっくりと目を開けるとどこかの部屋の中だった。
何故ここにいるのだろうか、頭がボーっとして記憶が定まらない。
そうだ確か俺は飛行機に乗っていたはずだ。
そこで飛行機の翼から火が出て......
ベッドに寝ていた俺は聞こえてくる声のする方へと頭を傾けた。わずかに開いたドアからは廊下が見えている。基本石造りみたいな家だが内側は木を使用しているように思える。
するとドアの向こうから小さな女の子が顔をのぞかせた。
「(#’#$’()”#$!!」
なんだ、なんて言ったんだ?
「’#&##)”’、(E##I$"?」
「&#’($()#)」
さっぱり分からん、英語ではない。
見た目からするとヨーロッパか? いや違うな?どこの国の人だろうか? そう言えば飛行機の子供もそうだった。赤毛って結構いるんだな。赤毛のアンはどこの国の人だったか......
”能力《商売繁盛》により技能《言語能力》を発動します。”
”《言語能力》はパッシブスキルとして常時発動状態となります。”
頭の中に変な声が聞こえてくる。なんだ、誰だ?
同時に鈍痛が頭に響く。くそっ、頭が痛い。
目が合ったので俺は起き上がり声をかけようとしたが、その前に女の子はドアを開けたまま走り出してしまった。
「おかーさん! 黒い髪の人、目が覚めたみたいだよー!」
ようやく頭痛が収まってきた。軽く溜息を吐いてベッドに腰かけた俺はベッド脇に置かれた鏡を見て驚いた。これ......俺か? 容姿がどう見ても10代だ。それよりもまず、この状況はなんだ? 何故俺は生きているのか?
確か飛行機に乗っていて墜落し...痛っ! 頭に鈍痛がはしる。全く状況が飲み込めない。俺は誰だ? 俺は俺なのか? ここはどこだ? 俺は俯きながら頭に手をやり記憶を整理するように努める。
横目にサイドテーブルの上に本があるのを見つけた。何気なく表紙を見てみるが全く見たことのない文字だ。【創造神アザベル経典】と書いてある。聖書のようなものか? このような神様の名前は聞いたことないな。本当にどこなんだここは。
いや、待て。
どうして俺はこの文字が読めるんだ?
俺はいったいどうなっているんだ? そう言えば、さっき走って行った赤毛の子、母親を呼びに行ってたな。冷静に考えたら何故彼女の話す言葉が分かってるんだ? 最初は全く理解できなかったぞ。
俺はえもしない恐怖が込み上げてきたのを必死でごまかそうと頭を掻きむしった。
『冷静になれ、冷静になれ、落ち着け、落ち着け』
「あら、目が覚めたのね?」
開けっ放しの扉の向こうに一人の女性が立っていた。彼女の後ろから顔だけ出してこちらを見つめる赤毛の女の子。そしてその後ろからやたらとガタイのいい老人。その手には大きな棍棒が握られている。なぜだ?
「こんにちは、目が覚めて良かったわ」
「あ、はい。ありがとうございます。あの、俺はいったい......えーと、なぜここに?」
「あなた、この家のそばで倒れてたのよ。それをこの、シェリーが見つけてね。あ、シェリーはこの子。ちょっと隠れてないであいさつしなさい」
「こ、こんにちは」
「あぁ、こんにちはシェリーちゃん」
母親と思われる人の後ろから顔だけ出して挨拶したこの子はまたサッと隠れてしまった。
「もう、しょうがない子ね。ごめんなさいね、この子照れちゃって」
「照れてないもん」
後ろから母親のお尻辺りにポスポスとパンチをしているようだ。
「いえ、えーとそれで後ろの方は?」
後ろのじいさんが気になる。棍棒握りしめて俺をガン見している。
「この人は私の祖父のゾイドって言うの。あ、私はソニアよ。ちょっとおじいちゃん、あんまり睨んだらダメでしょう。ごめんなさいね」
「あ、いえ......」
と言いながらゾイドと目が合うと彼は俺を観察するように話しかけた。
「小僧、どこから来た?」
「ええと日本なんですが、どうしてここにいるのかは分からないというか、なんというか......ここがどこなのかも分かってないというか......」
「ここはセリジア大陸の南、リンクルアデルという国のアルガスという街だ。ニホンと言う国の名は聞いたことがないが、ここが何処かも分からんとはどう言う事だ?」
「いや僕も状況が飲み込めて無くてですね......確か飛行機に乗っていたはずなんですけど、その飛行機が墜落してから記憶がどうも無くて」
「飛行機とはなんだ?」
「え?」
「飛行機とはなんだと聞いている」
「飛行機って人を乗せて空を飛ぶ乗り物ですけど......」
分かったぞ。ここはどこかの辺境の町で、飛行機なんか見たことも無い人たちなんだな。
でも現代にそんな場所あるのか?
「人を乗せて空を飛ぶ乗り物だと? 王家の飛行船の事を言っているのか? リンクルアデルの人間ではないのか? もしやアネスガルドの人間ではあるまいな?」
じいさんは少し目つきを鋭くするとその足を俺の方へと一歩進めた。
「いや、ちょっと待って下さい。オレにはセリジアもリンクルアデルはもちろん先ほどのえーと、アーネスト何とかもよく分からないんですけど」
「アネスガルドだ。違うのか?」
「違うも何も本当に知らないんですよ。かと言って記憶が無いわけでもなくてですね......あのすみません、地図があれば見せて頂けませんか?」
「要領を得ない小僧だな。ふん、まぁいいだろう。ちょっと待ってろ」
「あ、お父さんちょっと待って。シェリー、お兄さんに地図を持ってきてあげて?」
「うん、わかった」
そう言うと女の子、シェリーはパタパタと音を立てて廊下に出ていった。まぁ、怪しさ満点の俺をおいてこの迫力満点のじいさんが出ていくのはまずいと思ったか。ソニアさん、ニコニコしてるだけじゃないな。
少ししてシェリーちゃんが戻ってきた。
「お母さん、持ってきたよ」
「じゃ、お兄さんに渡してあげて?」
「これだよ」
地図は丸められて紐で括られている。これはあれかな、羊皮紙ってやつに見える。紙じゃないのかよ。それよりシェリーちゃんも緊張が解けてきたかな? 先ほどより照れがないぞ。とかなんとか考えながら紐を解いて羊皮紙をベッドの上に拡げる。
そして地図を拡げた俺はそのまま固まった。
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