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セバスチャンは大丈夫なのでしょうか。
護衛を始めて4日目となる。
俺たちは特に大きな問題もなく歩を進めていた。時折出てくるのはゴブリンやランドウルフ位で俺たちでも苦もなく対応できた。皆緊張感をもって対応している。
護衛の依頼を受けるのは今回が初めてではないが、領を跨ぐ依頼は初めてだ。普段はアルガス領内での護衛ばかりだ。隣町と言っても森を抜けたりする必要があるため、商人だけではリスクが高く冒険者を護衛に雇うことが多い。
なので領から出たことのない俺たちが何故受けることが出来たのか不思だったが男爵家により選ばれたので素直に光栄に思っていた。男爵家特有なのか、それとも領を跨ぐ際の知恵なのかは知らないが、食事の際にはセバスチャンは馬車を道から少し離れたところへといつも移動させていた。
俺たちはその反対側で食事をする形だ。馬車にはセバスチャンとローズさんどちらかが残るようにして片方は俺たちの食事の用意をしてくれる。馬車を隠し、こちらで大きな火を起こすことにより注意を引き付ける役割もあるそうだ。
なのでくれぐれも休憩中は馬車に近づかないように、これも厳命された。それでいいと言うなら従うさ。依頼主の言う事だからな。
そして5日目。ようやく半分だ。でもあと半分だと思うと幾分気分も楽になる。おっと、気を引き締めないとな。と思っていると、ロビンが何やらセバスチャンと話している。
ここから道をそれた方がウエストアデルに行くには近道と教えているらしい。ちょっと待て、そっちはどう見ても道じゃない。どっちかって言うと獣道じゃないか。
俺はロビンに言った。
「おい、ロビン。何を言ってるんだ? このまま道なりに進むのが一番確実だろう?」
「コビーは黙ってろ。この辺りから山の中を突っ切った方がウエストアデルには早く到着するんだ」
「訳の分からないことを。どうしてお前がそんなことを知っている?そう何度も来たことないだろう? 道をそれることは依頼主を危険に晒すことになる。断じて賛成はできない!」
ダンとルナも同意している。しかし、ロビンは止まらない。
「もう5日も野宿してるんだ。早く着くに越したことはないだろう? 早く街について宿屋でゆっくりしたいだろうがよ? 俺は早く進みたいんだよ!」
「もう我慢できん! 依頼主を危険に晒すような言動は流石に許せん! ロビン、もしお前がどうしても行きたいと言うなら勝手にしろ! 一人で先に街に向かえばいい。ここまで仲間であった情けでここで別れても報酬はきちんと山分けしてやる。だが忘れるな、お前とはこれっきりだ」
ダンとルナも何も言わない。沈黙で肯定を示しているようなものだ。その時のロビンの顔は、泣きそうで、辛そうで何だか俺の胸を締め付けるものだった。だからこそ2人も肯定はすれども何も言えなかったのだろう。その時信じられない言葉がセバスチャンから発せられた。
「是非、その案に乗らせてもらいましょう」
「いえ、セバスチャンさん、これはどう見ても危険ですよ。時間が掛かるかもしれないが、ちゃんと道を沿ってウエストアデルへ向かった方が良い」
「何故? こちらの方が2日も早く着くのでしょう? これまで大した危険もなかった。これからも大丈夫でしょう。ロビンさんも大丈夫だと言っているじゃないですか? そうでしょう、ロビンさん?」
「あ、ああ。間違いなくこちらの方が早いぜ」
「おい、ロビン! いい加減にしろ!」
「いい加減にするのはあなたの方じゃありませんか、コビーさん?」
「え?」
「あなた方は護衛と言う任務で男爵家が雇ったわけです。そもそも多少の危険があろうともあなた方なら回避できると見込んでの事です。早く着くならそれに越したことはない。今更体を張ることはしたくないと、そういう事ですか? 依頼料を吊り上げようとしているのですか?」
「い、いや、そう言う訳ではない。俺たちはあくまで依頼主の安全を考えて......」
「だからその依頼主の安全を守るのはあなたたちの仕事でしょう! 例えそれがどのような状況になろうともです。違いますか? 安全マージンを取ることが悪いとは言いません。でもそこは臨機応変に考えられませんか?」
「どう思う、ダン、ルナ?」
「俺はロビンが無茶をしている気がしてならない」
「私もよ」
「セバスチャンさん......申し訳ないがもう一度納得し合えるまで話ができませんか?」
「それを待っていたら余計に時間の無駄ですよ。我々は先に行きますので来る気があれば後からついてきなさい。それではロビンさん、道案内をお願いします」
「ああ、任せな」
そして彼らは山の中を入って行った。
「ちっ、ダン、ルナしょうがない、後を追うぞ!」
俺たちは後を追いかけた。そして鬱蒼とした森の中を進むこと1時間、俺たちは少し開けた場所に出た。
「ここで少し休憩にしましょうか?」
俺がそう提案した時とほぼ同時だった。ロビンが叫んだ。
「しゅ、襲撃だああ!」
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