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よろしくお願い致します。
1年間何もしてこなかったわけではない。
ある程度の種類の毒消し薬の開発に成功した。
毒消しは毒とスライムを煮詰めればできるというものではなかった。毒とリーフスライムで試したんだが、毒素の不純物を取り除いてより強力な毒薬を精製してしまった。ガラガラスネークのスペシャル毒薬では人間相手だと個体差にもよるが1時間程度で死に至る。濃度も高いので大気中に散布しても効果は期待できるらしい。
≪鑑定≫
ガラガラスネークの毒薬 中 人間相手なら1時間程度で絶命します。大気散布可能。
『中』があるという事は純度を高めると『高』レベルの毒薬も精製可能という事か。ククク、世の中で一番恐ろしい兵器、『毒』の製造方法を確立してしまった。これを各国に売りつければ莫大な金が......違うそうじゃない。危ない、よろしくない道に足を踏み入れる所だった。この製造方法は秘匿しよう。
俺は悩んだ。毒を作ってどうすんだよ。
そしてある日ギルドに毒袋を買いに行った時だ。俺はコロナちゃんにお願いして工房を見せてもらった。あの緑色のスライム、スカベンジャースライムというらしい、がいつものように震えながら様々な死骸を処理している。
「すみません、あのスカベンジャースライムは何でも食べるんですか?」
「ああ、見ての通りだ。おかげで楽させてもらってるよ」
近くの解体処理のおじさんが答える。
「でも、こういう毒袋とかも死骸の中に入ってますよね? 毒にやられたりしないんですか?」
「そりゃ、しねぇよ」
「おぉ! それはなぜ?」
「そりゃ、スカベンジャースライムだからだよ」
「そうなんですかね?」
「そうなんだよ」
ここは余り突っ込んで物事の理由を突き止めることはしないというか、太陽が東から上ることに疑問を感じない時代だった。そういう世界観を時々忘れてしまうぜ。
まぁ、いい。という事はこのスライムは毒を体内で処理していると考えられないか? 俺は、スカベンジャースライムの核と外殻も併せて購入した。
それで、今。出来ちまったぜ...毒消しポーションがよぉ!!
要するにスカベンジャースライムの外殻には毒素やらなんやらを中和させる作用があるらしい。このスライムを鑑定してみると、
≪鑑定≫
スカベンジャースライムの核 魔道具を作成する際に使用できます。
スカベンジャースライムの外殻 取り込んだ物質成分を分解し自然環境保持を促進します。
つまり、死骸の毒袋がまき散らされると環境に良くないので、スライムが食べて、分解、排出することで自然環境が守られているという事だ。一家に一匹、家庭での生ごみ処理とかにも役立ちそうだな。各種スライムの乱獲は世界の自然環境に重大な影響を及ぼすだろう。
毒とスカベンジャースライムを煮詰めると恐らく血清のようなものができるのだろうか。それを飲むなり噛まれた場所に塗布するなりすると効果を発揮する。
スカベンジャースライムの外殻だけを煮込んで効果が出れば万能毒消しポーションが出来ると思ったが、それだけでは何も変わらなかった。やはり、毒と一緒に煮詰める必要があるらしい。
ただ、そんな魔獣がいるかどうかは知らないが、色んな毒素をまとめて撒き散らす魔獣の毒袋が入手できれば万能とまではいかないが、かなりの個体を網羅できるのではないだろうか。
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店の名前はNamelessとつい先日決まったわけだが、各種薬品を作るのにどうしても今の作業場では手狭だった。俺は街外れの倉庫を一棟借りて、作業員はそこで薬品作りに精を出している。
工場を仕切る人が必要になったが今の所人材がいない。俺とクロ、そしてレイナが3人で回している格好だ。レイナさんはメイドではなく初めから店の店員として雇った女性だった。メイドさん達にも仕事があるし、いつまでもこっちの手伝いをさせておく訳には行かない。
レイナさんは近くの商店に勤めてたらしいけど、そこで実力を発揮できずにいたようだ。何を言っても彼女の言う事は通らない。女の癖に、生意気だ、さっさと結婚しろ、話を聞くに値しない、等々。
その店にソニアさんとサティが買い物に行った時の事だ。ソニアさんは元々彼女の事は知っていて商品について何か聞くときは彼女と決めていた。そんな時、店の中で怒られる彼女を見て、その内容に耳を傾けるとどうも不条理であったと。ソニアとサティは戻ってきてから俺にそう話してくれた。
新しい人間を増やしていこうと考えていた俺は、2人にこっそり彼女と会えないか聞いた。もし彼女が今の商店で働く気がないのであればウチに来てくれないかと。
ただ、うちの会社はちょっと特殊で、作業内容を外に漏らさないよう誓約書を書く必要があることも事前に伝えておくように頼んだ。もちろん働きに応じた評価もすると。
彼女はソニアさんの話に直ぐに乗った。男爵家令嬢からの引き抜きだ、よく考えたらよっぽど怪しくない限り断る理由がない。店側とも円満に退職できたようだ。これもまあそうだろうな。
次の就職先が男爵家の息が掛かっていると言うのに妨害などしたら大変なことになる。うちの店は良くも悪くも男爵家と言う強者に守られている部分がある。これはちゃんと事実として理解しておかないといけない。
度が過ぎるとそれを鼻にかけていると思われるかも知れないし、犯罪行為などをしたら男爵家の顔に泥を塗ることになる。それは絶対にしてはいけない。しないけどね。
レイナは非常によく働く女性だった。何故、前の商会では上手くいかなかったのか?女性蔑視、男尊主義、妬み、ひがみ、まぁ思いつくものその全てがあったんだろうな。
彼女は売り場の陳列とか、作業内容の改善とかそれはもう色々と意見を出してくれた。そしてそれを実践した。うちの会社の基本マニュアルとして使用できるんじゃないかな? こちらがそれはおかしいという事に関してもきちんと理解を示してくれる。
そしてそれから更に半年をかけ従業員の数を増やしていった。メイドさんは一部正式に社員になった人を除き、忙しい時にヘルプに来てくれる程度になったよ。従業員はまだ必要だが、それは少し考えがある。少しずつでも増やしていこう。
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俺は今男爵家に来ている。隣にはじいさん、反対側にはギルド長のケビンとサティが座っている。
「待つにはちょっと長かったけど仕方ないかな? とっくにいなくなったと思ってたからちょっと心配し始めてたんだよね」
「そうじゃの。しかし結局は全部お前の言うとおりになったのヒロシよ?」
「まぁ、条件が揃わないとな、とは思ってたけどようやくだ」
「ケビンよ、で決行の日はいつだ?」
「来週だ。今まではトカゲのしっぽ切りばかりだったが、今回でようやく本体に近づけると思ってる。今回は大規模な動きになるからな」
「それでヒロシよ、本当に大丈夫か?」
「あぁ、前に言ったとおりだ。基本は俺とサティ、クロードで大丈夫だ。サティに至っては、この1年でその実力はかなり進歩している。流石に攻撃を躱すだけと言うのは無理だ」
「サティ相手に触れないレベルってのが俺には信じられんのだがな。お前さんのレベルが知りたいよ」
「こっちに来てから体調が良いと言うか、前よりももっと動けるようになってる気がするんだ。あと、スキルの恩恵もあるのだとは思うよ?」
「分かった。そっちはまた追々聞かせてもらうよ。じゃぁ、俺たちは離れておくからな」
「了解、まぁ任せてくれ。今回はちょっと俺も気合が入ってんだよな。あとクロにも話しておくからな?」
「タイミングは任せる」
「あと最後に一つだけ。Dead or Alive、生死は問わない、だよな?」
「あぁ、そうだ」
「了解した」
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そしてその夜。
クロは俺の話を黙って聞いていた。
その両手の拳を思い切り握りしめて。
引き続き投稿します。
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