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よろしくお願いします。
「「「えええええええええ!!!!」」
竜族。その失われた種族が目の前にいるアリアナだと言う事実に驚愕を隠せない。しかし驚きこそすれ真っ向からその真実を否定するものは居ない。何故ならその真実を語ったのは他ならぬ英雄マスカレードであるからだろう。
「だが」
皆の驚嘆の波が静まるのを見てマスカレードは再度口を開く。
「アリアナ、お前の容姿は少し俺の想像していた竜族とは違う。何といえば良いのか......」
「ノーワンは私を見て『幼体』と言うような言葉を使いました」
「幼体か......それが恐らく正しい表現なのだろうな。竜族は恐らく人間族と進化の過程が少し違うのだろう。種の保存が難しい理由も恐らくそこにある。そしてだからこそ神々がお前たちを守護者として選んだのだろう」
「しかし......正直そのような話......理解が追い付きません」
「無理からぬ事だ。お前の記憶の事もある。その事の関しては恐らくサーミッシュの長老であるノールが力になるだろう」
マスカレードが目で合図を送るのを待っていたかのように後ろからノールが歩み寄ってきた。
「一つだけ質問を。貴方様は彼女が竜族という事をいつから分かっておいででしたのでしょうか?」
「悪いな。全ては偶然に過ぎないのだ。それでも言葉に直せと言うのならそうだな......神のお導きと言うやつかも知れんな」
「私に話を繋いでおけと言っていた事と全く関係ないと?」
「空にも守護者がいると考えた時にその可能性を考えた事は考えたが......そうだな、後でまた話そうか」
「出過ぎた真似を......申し訳ございません」
「気にするな」
実は出会った当初にアリアナを鑑定で見ていた事でマスカレードは早期に彼女が竜人である事は知っていたのだが、それはこの場で能力やスキルに関して話すこともないだろうとの判断であった。
「話は戻るがその繋ぎの部分だ。彼女を里へと導いてはくれないか? 長老なら可能だろう?」
「それには森の......いえ、貴方様の仰せのままに。承知致しました」
「悪いが頼む。アリアナ、後でノール長老について行くと良い。竜族ならお前の記憶に関して何か手助けできる知恵も持っているかもしれん」
「ありがとうございます」
マスカレードはアリアナに向かって頷くとセリーヌ女王へと目を向けた。
「どうだろうセリーヌ女王、それで良いだろうか?」
「はい。アマデウス様も仰せのままに」
「何度も言うが俺はそんな大それた者ではない。それよりこれからセントソラリスとアネスガルドは復興に向け手を取り合うのだ。互いの益になるように。遺恨を残さぬように」
そしてマスカレードはアネスガルドのキャサリン王妃を見た。
「キャサリン王妃、アレックス王崩御に関しては間違いなくノーワンが絡んでいるだろう。そしてそこから始まった民族至上主義と軍国主義もな。しかしそれは本来のアネスガルドの考えと大きく乖離している事はリンクルアデルとドルスカーナがその全てを証明してくれるだろう」
マスカレードの問いかけに両国王が口を開く。
「うむ、事の顛末は全て我らが証人となろう。そうよなダルタニアスよ?」
「当然だ」
その言葉を聞いてキャサリン王妃は目に浮かぶ涙を抑えながらマスカレードへと言葉を繋ぐ。
「アマデウス様。この度は何とお礼を申し上げてよいのか。貴方様はまさに救国の英雄でございます。この命を懸けてアネスガルドを復興させて見せます。どうかその時には今一度そのお姿をお見せ頂けませんでしょうか」
「そうだな。その際にはこの俺如きで良いのなら喜んでお祝いに駆け付けよう。しかし礼など要らぬ。俺に礼など不要なのだ」
「しかしそれでは!」
「......そうだな。では厚かましいお願いではあるが......」
そこでマスカレードはセントソラリスのセリーヌ女王にも視線を投げる。
「礼と言うなら両国からホスドラゴンを3頭ほど頂けないか? なに、帰るのに......な?」
「「そのようなものだけでは我々の受けた恩は返せません!!」」
両国は声を大きくして異を唱えるがマスカレードはそれを受け付けない。ほどなくして用意されたホスドラゴンにマスカレードとサイレンスが跨るとセリーヌ女王とキャサリン王妃は彼に縋るように問うた。
無理もない。セントソラリスの備蓄はもう底をつき、アネスガルドも国力は疲弊しきっているのだ。争いの種はなくなったとはいえ、復興の二文字はそう簡単に成せるものではない。
「我々は......我々はこれから......」
「案ずるな。リンクルアデルとドルスカーナの王達が放っておくとは思えぬ。そして一人......おかしな商人がいるのだろう? 奴にでも聞けばよい」
「商人? そうだヒロシ殿は?! ヒロシ殿はどこに?!」
「その商人には私も一度お会いしてお礼をと考えておりました。彼は今何処に?!」
「さあな。だが知恵を貸してくれるやも知れぬ......いや、しかし」
「いや?」
「しかし?」
「ん? なに、気にするな。こちらの話だ」
そしてマスカレードは馬を翻すと言った。
「セントソラリス王都エルモに火を灯せ。アネスガルド王都ハイランドに神殿を築け。さすれば大いなる神々が見守ってくれるだろう」
「エルモに灯を?」
「神殿を?」
「そうだな。例えばセントエルモの灯とハイランド大聖堂とでも名付けるのも良い」
「「有難きお言葉。必ずやアマデウス様の仰せのままに」」
「気にするな。ただの案に過ぎないのだ。好きに名付けるが良いさ」
そして最後にシュバルツ王とダルタニアス王を見てマスカレードは言った。
「賢王に百獣の王よ。両国の迅速な判断と協力に多大なる感謝を......では、さらばだ!」
そしてマスカレードはサイレンスと共に深淵の森へと颯爽と走り去ってゆく。やがて彼らを乗せたホスドラゴンは森の中へ吸い込まれるように消えていったのだった......
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『マスカレード現る!』
その衝撃は大陸を一瞬のうちに覆いつくす。
『アネスガルドの悪魔』
『天使と竜』
様々な題名と共に吟遊詩人は街中でその話を謡い、物語は瞬く間に大陸を駆け巡り様々な場所で語られる事になる。吟遊詩人の周りは常に人だかりで大きな輪ができ、街で配られる号外は瞬く間に無くなり、誰もがその話に耳を傾け、その男の事を何度も心に描いた。
アネスガルド王家をして救国の英雄と言わしめた彼の功績は、国を操ろうとした悪魔を聖なる力を以て迎え撃ったと言う。
マスカレードはアマデウスとなり悪を討ち滅ぼしたのだ。
まるでお伽噺のようなその話。
その嘘のような本当の話は後世に広く伝わるのであった。
救国の英雄譚として。
お読み頂きありがとうございます。
これでセントソラリス編は終了となります。
長々とお付き合い頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。