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ヒロシが皆に向かってその足を踏み出すと、その両脇に天使達が跪く。戦闘衣装に身を包んだエルフたちは何も話さず、ただ膝をつき首を垂れてマスカレードに道を示す。それは王達が待つその場所まで一直線に続いている。
マスカレードの前に跪いているのはエルフだけで、変化を解いていないサーミッシュ達はノール長老や王家達と共に前方で待っている形だ。ノール長老は直ぐにでも馳せ参じたいのだろうが、サーミッシュとエルフを同一種族だと思わせないために敢えてサーミッシュと共に待機しているのだと思われる。
そこへ一人のエルフがヒロシへと近づいてくる。サリエルである。
「ヒロシ様、お見事でございました。しかし貴方様がアマデウスであったとは......いえ、我らが王なればこれも至極当然の事なのでしょう」
「ちょくちょくお前達って王って言葉を使うよね? ノール長老から話は聞いてるけど後から詳しく説明してもらうからな。まあ、神装を纏った時に衣装が変わったのには驚いたけどね。でも正直危なかったよ。神装武具がなければどうなっていたか、いや、正直勝てなかっただろう」
そこでヒロシは一息ついてからサリエルへと尋ねる。
「それよりクロは大丈夫か?」
「もちろんでございます。正直危険な状態で、森での治療をと思っていた時にサティ様が丁度お着きにならました。その際リンクルアデルのアンジェリーナ王女が持つポーションを使う事が出来たのです。その効果は凄まじくもう治癒は終わっております。ご覧下さい、既にあちらでお待ちですよ?」
ヒロシが再度前方へと目をやるとその道にクロとシンディが立っていた。
「アンジェに渡してたのは市場にも出していない最高級品だからな。それにしても良かった、本当に......本当に良かった」
ヒロシはゆっくりと二人の所へと進む。臣下の礼を取っていた二人はヒロシが前に立つとゆっくりと立ち上がりヒロシへと話しかける。
「ホント正直死ぬ寸前でしたよ。超ヤバかったですね」
「はは、お前が平常運転で嬉しい限りだよ」
「ヒロシ様、ありがとうございます。もう少し遅かったら私達はダメだったかもしれません」
「シンディ、そう言うな。本当によくやってくれた。謝るのは俺の方だ。もう少し早く着けていればと悔やんでいるよ。さあ、胸を張れ。お前達が時間を稼いでくれなかったら全てが手遅れになっていたかも知れないんだ」
「ヒロシ様......」
「本当は頭でも撫でてやりたい所なんだがな。これでも空気を読んで場を弁えてるつもりなんだ。詳しい話はあとでゆっくりしよう。あ、あと、便宜上お前はホワイト、クロはブルーって呼ぶからそのつもりでな」
「なっ、青いチューリップではないのですか? ブルーなんてどこぞの戦隊シリー......」
「黙れ! あれは却下だと言っただろう。それにブルーと言う名の何が悪い! 特撮を舐めるんじゃ......いや、俺は一体何を言っているんだ。頭が痛くなる前に早く挨拶を済まそう。さあ行こうか」
「「はっ」」
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ゆっくりとこちらへ歩いてくるサイレンスとマスカレード。歓声が沸き起こる中、彼らは王たちの前へと到着する。サイレンスは一歩後ろへ下がるとマスカレードの傍で跪き控える。話を始めたのはマスカレードであった。
「久しいなシュバルツ王、それにダルタニアス王」
「よくぞノーワンを止めてくれた。お主にはまた助けられたな」
「マスカレードよ、我はやってくれると信じておったぞ」
その言葉を聞いてマスカレードは人差し指を立てると軽く振りながら言う。
「やめてくれ......正直今回は厳しい戦いだった。神々が力を貸してくれなければ奴に有効なダメージを与える事さえ叶わなかったのだから。手柄と言うなら国の垣根を払い一致団結し協力した陛下達こそが相応しい。そうだろう?」
「相変わらず殊勝なことだ」
「全くのう」
「まあそう言う事だ......できればセントソラリスとアネスガルド両陛下にも挨拶をさせて欲しいのだが?」
そこでマスカレードは同じく隣に立つセリーヌ女王とキャサリン女王へと目を向ける。
「マスカレード、いやアマデウス様。セントソラリス女王、セリーヌです。国を代表してお礼を」
「アマデウス様、私はアネスガルドのキャサリンです。王が不在ゆえ私が代わりにお礼申し上げます」
「この俺ごときに礼など不要だ。礼をと言うなら俺の後ろにいるサイレンス、そして全ての戦士たちに。ああ済まない、言葉遣いが慣れていないのでな。口の利き方については許して欲しい。あと俺のことはマスカレードで良い」
「そのような事は何の問題もありません。それよりあなたは礼など必要ないと? そのようなこと......」
「不要だ。俺はそのような人間ではない。そして俺はアマデウスなどでもない。たまたまその力をその場にいた俺が受けたまでの事。そう、ただそれだけの事だ」
「そんな......しかしそれでは」
そこでシュバルツ王とダルタニアス王がセリーヌ女王に声をかける。
「英雄殿は少々頑固でな。礼はこちらから勝手にする方が良いであろうよ」
「違いない。リンクルアデルでもまだその礼は返せておらぬがの」
「そうなのですか......分かりました。この恩は必ず」
「そんな事は気にするな。それより......ここにアリアナは居るか?」
その声を聞いたアリアナが肩をビクッと震わせたのがセリーヌ女王には分かった。彼女の今の姿は人にはとても見えないのだ。もし悪魔と言われでもしたらノーワンと同じく断罪されるかもしれない。
しかし彼女は思う、そのような事は絶対にないと。この方がそのような事をするはずがないと。むしろ神の力を以て彼女を救ってくれるのではないか?
様々な思いが駆け巡る彼女は直ぐにアリアナを呼ぶ事が出来なかったのだった。
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