350悪魔
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「悪魔だと?! マスカレードは今悪魔と言ったのか!」
シュバルツはダルタニアスに向かって叫んだ。
「間違いなくそう言ったな。悪魔などと......とても信じられん」
「悪魔......セントソラリスにある古文書によれば世界を破滅に導くものであると......奴が本当に悪魔ならばこのままでは世界が滅んでしまう事になりかねません」
「しかしあの異形の姿を見よ。切られても再生する体に、存在しないスキルなどと......あれは本当に......」
「セリーヌ女王よ、セントソラリスにはそのような古文書が?」
「ええ、大教会に厳重に保管されている神々の伝説が記された書物にそのような記載が残されております。だからこそ、神々の意思により天使達がこの地に舞い降りたのでは?」
「天使達か......」
そこへアネスガルドのキャサリン女王たち、そしてアッガス達も合流した。
「キャサリン女王、よくぞご無事で」
「両国の優秀な姫君達のお陰です。またセリーヌ女王には今回の件に関してはどうお話ししてよいのか......」
「それは後程ゆっくりとお話致しましょう。今の話を正とすればアネスガルドが原因と言うより、アネスガルドが一番の被害者であるとも言えるのです」
「確かにそうともとれる。あいつはアネスガルド人どころか、人ですらないのだ......」
その話を横で聞いていたアンジェとボニータはすぐに両国王へと嘆願する。
「私たちはマスカレードを助けに!」
人ならざる者を目の前にして一騎打ちなど関係ないであろう。誰もがそう思う。しかしシュバルツの答えは意外にもそれを許すものではなかった。
「ならぬ。断じてならぬ」
「何故? 何故ですか!?」
「あれが本当に悪魔、いやあの異形と切られても死なぬ体......マスカレードの推測通り悪魔なのであろう。この世にある力で太刀打ちできぬのだ。助けに入った所で逆にマスカレードの足を引っ張りかねん。非情と言われようと今はまだ駄目だ。せめて奴の弱点でも明らかにならない限り......」
「そんな! それではマスカレードを捨て駒にと考えているのですか! 酷い、酷すぎます!」
「酷いと言われればそうかも知れぬ。だがワシは信じておるのだ、マスカレードをな。信じろ。信じるのだ。英雄の力を。奴が立ち上がり続ける限り......その度に未来を希望の光で照らし続けておるのだ」
「お父さま......」
シュバルツと王女たちの様子を傍で見ていたダルタニアスはサティへと声をかけた。
「サティよ。我もシュバルツと同じ気持ちだ。奴は......マスカレードは必ず勝つと信じておる。そうであろう? そうであろうが?」
「......もちろんです。ええ、もちろんです陛下......」
そう言ってサティは両の手を握りしめ満身創痍のマスカレードを見つめた。そして視線の先にノーワンを捉えると彼女の内から闘気が漏れ出す。マスカレードに万が一の事が起こった時、彼女は王令に背いてでも二人の戦いに介入するだろう。
それはサティだけでなくアッガスやセイラム、全ての戦士達が同じ気持であった。
そして皆の視線は再び戦いの舞台へと注がれる。
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「悪魔......ですか。クゥゥッフッフッフ。そう、その通りですよ! 我こそは偉大なる悪魔王に仕える者。神々が創造したこの下らぬ箱庭を破壊するのが使命という訳だ」
「この世は確かに神々が作った箱庭かも知れない。しかしそれを遊び半分で壊す事に何の意味があるというのか?」
「クフフ、それが神の意思だとしたらどうする? たとえ神がこの世界の理を統べていたとしても、因果の法則から抜け出す事は出来ないとされている。だからこそ私が来たのだ。私が顕れたその時から世界は終わりへとその針を刻み始めたのだ。そう、神の意志によってな。だが何故だ。何故神はその因果を弄ばないのだ」
「何を言っている?」
「それは神々があえて触れないからだ。アイツらは腐りきったこの世を壊す事ができるのにそれをしないのだ。汚れ仕事をしたくないだけだ。神だとその名を告げておきながら因果の法則から抜け出せないと本当に思っているのか?」
ノーワンは大声で叫ぶ。
「嘘に決まっているだろうが! 因果という上手い言葉を使い私達に伝えているのだ。この世界を壊してくれと! この世界を真白に戻してくれと! だから来たのだ。神の代弁者として、そして代行者としてこの世界を壊しにな」
「神が言っているだと? 馬鹿馬鹿しい。生きとし生けるもの全てに平等に与えられた命を育むと言う行為。本能にまで植え付けられたその生きる力。虚ろう人の世において全ては、あらゆる生物は必死でその日を生きている。たとえそれが自らの命を絶つ事もあってもだ。それは他ならぬ神々が世界に与えた理だろう?」
「この汚い世界で必死で生きてどうなる? 神々に見捨てられたお前たちに眩いばかりの未来が待っていると信じているのか? そう信じたいのか? お前ほどの力を持つものなら分かるだろう? この世界が腐っていることなど! 救いようのない犯罪者共で溢れた世の中に何を期待するのだ?」
「神々がこの世の何に絶望したのかは知らぬ。だが俺達は神の絶望に対してそれを乗り越える術を持つ。術が無ければ抗うまでだ......それを人は......神の試練と呼ぶのだ」
「神の試練だと? 悪魔が現れたんだ、その試練は決して超えられぬ壁という訳だ。今ならまだ間に合う。どうだ? 一緒にこの世界を......」
「阿呆が」
「なに?」
「何回も言ってるだろう、俺に言惑は効かないと。前にも言わなかったか? お前はその力に頼りすぎなんだよ」
「なに? その言葉......どこかで......」
「ついでに言ってやるが、お前が神の代弁者やら代行者だとは毛ほども思ってはいない。神々が神の代わりにこの世界を滅ぼすように悪魔に頼んでいるだと? もはや阿保以外の言葉が見つからん」
「貴様......死に損ないの分際で言わせておけば......」
「俺が知りたかったのはお前が悪魔かどうかだ。お前が知るはずもないが......殻を破るのには条件がある事が分かってな。お前みたいな阿保専用だ」
「殻だと?」
「試練は受け止める。しかし聊か人外相手となると方法がないだろう? そこで神々は試練を乗り越える方法を与えてくれたという事だ。それがどういうことか分かるか? いや分かっているんだろう?」
「......」
「お前たち悪魔はお前たち自身の意思でこの世界に介入したという事だ。本来神々ですらこの世界には神託でしか干渉していない。それをお前たち悪魔は実際に顕在しその手を破壊に染めたのだ。ならば神々がそれを排除するために世界に手を貸す不思議があってもおかしくはないだろう?」
「ボロクソにやられておいて悪魔である私を倒せるとでも言いたげだな? ふん、もう良い。そろそろお前は死ぬ時だな」
「お前ほどではないにせよスキルのお陰で頑丈にできているのでね。そう簡単に殺されてやるわけにもいかないのさ。さあ、今こそ大いなる神々の意思を受け、この世界に干渉したお前を断罪する。正真正銘、神の代行者としてな」
そうしてノーワンは触手を大きく捻るとヒロシへ向かって攻撃姿勢に入る。触手の先端は鋭くヒロシを八方から貫くような陣形を取っている。
「死死死死あるのみだ。死ね死ね死ね死ねぇ!!」
まさにノーワンの触手が一斉に放たれようとしたその時......ヒロシは右手を空へと掲げると静かにその言葉を紡いだ。
「マスカレードナイト......アルテランツァ」
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