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ご無沙汰しておりました。
よろしくお願いします。
「クロード......」
ヒロシは言惑が切れて倒れかけたクロードを支える。無抵抗で殴られ続けたクロードの状態は一目見ただけで分かるほど酷い。口からは微かにヒューヒューと空気が漏れているが、おそらく内臓をやられているのだろう、口からは大量の吐血が続いており危険な状態であることは明白であった。
「シンディ、直ぐに下がって治療を」
「はい!」
その時かすかに意識が戻ったのかクロードが口を開いた。
「......すみません......私では足止めすらできませんでした......」
「何も言うな。お前はよくやった。俺がもう少し早くついていれば......済まない。シンディ頼む、後はサーミッシュについてゆけ」
そしてヒロシはシンディの後ろへと目線を向ける。そこには数名のサーミッシュがすでに待機していた。
「はっ、こちらに」
「直ぐにこの二人を連れて戦列を離れろ。いいな、絶対に死なすな。ノール長老の指示を仰げ」
「はっ!」
皆が後ろへと離れていくのを見届けた後、ヒロシはノーワンへと向きなおる。ヒロシが警戒を解かなかったからか、ノーワンが先ほどのように魔法を放つことはなかった。そしてヒロシと目が合ったノーワンは口を開く。
「無駄だ仮面の男よ。あの男は助からぬ。それはお前が一番良く分かっているだろう?」
「安い挑発だ」
「フハハ。そう信じているのか? そうしないと戦えないか? お前は間に合わなかったのだ! 笑える話ではないか。英雄様よ」
「姿が変わってもお喋りが好きなようだな。さあ始めようか。確かに時間は惜しいのでな」
マスカレードの気は更に大きさを増してゆく。しかしそのオーラを前にノーワンは委縮する事もなければ動揺する訳でもない。寧ろそれを受けてなお跳ね返すほどの圧力をもって歩を進めてくる。
「大したオーラですよ、マスカレード......しかしいくら強大な気を纏っていてもこの私を前に意味がありますかな? まあ確かに時間は惜しいですね。ご要望にお応えしてすぐに終らせてあげましょう。ククク......」
そしてノーワンはマスカレードを見据えて叫ぶ。
「止まれ!」
静かに歩み寄るノーワンを前に動こうとしないマスカレード......薄い笑いを浮かべながらそしてゆっくりとノーワンが剣を持ち歩いてくる。
「クゥッフッフッフ。動けませんか? 英雄様も所詮はこの程度のモノだという事ですよ。全く興覚めですが早く済んで良かったではないですか。終わりだ。死ねぇ!」
動きを止めたヒロシの首へと刃が振り下ろされた。
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「あれは......まさか......シュバルツ王、ダルタニアス王、あれは、あの男は!」
セントソラリス女王は先ほど合流を果たした両王に対して声を上げるが、その横で同じくこの光景を目にしているナディア第一王女がその問いに答える。
「国を救いし英雄......お母さま、あれは、あれはカミーラが神託で授かった人物に違いありません! ダルタニアス王、シュバルツ王、そうではないのですか!」
シュバルツ王は二人を真直ぐに見据えて答える。
「そうだ。漆黒の髪、漆黒の戦闘衣装、身の丈以上の槍を持ち、その顔には鬼の半面。見間違うはずもない......」
その言葉を引き継ぐようにダルタニアス王が言う。
「神々が神託を下してまでセントソラリスの命運を託した男。まさか本当にこのタイミングで現れるとはな......」
「では! では本当にあのお方は!」
「そう......英雄マスカレードだ!」
「!!」
「な、なんと。ただの英雄譚ではなかったのか......本当に実在したのか......」
セリーヌ女王とナディア王女は目の前に立つ男に釘付けになる。その場に現れただけで大気が弾ける程の威圧。離れていても体中に感じる圧倒的な存在感。あれが、あれがマスカレードなのか。そして同じくその時、王達の傍らにノール長老が近寄ってきていた。
「大国を統べし偉大なる王達よ。もうすぐそこにアネスガルドのキャサリン王妃も来ておりますな」
「おお! それではアンジェリーナ達は成し遂げたのだな! よくやった。よくやったぞ、なあダルタニアスよ!」
「そうだな。ボニータも、そしてお前の孫娘もな」
「そうですな。ボニータ殿は三大鬼のNo,2を、サティ殿はNo,1を撃破、その首に巻かれた従属の首輪を見事取り払った様子」
「そうか、そうか。よくやってくれたものよ」
「国境沿いでは暴虐の王がノーワンの部隊、ファントムのNo,1を撃破。加えて死の七日間を招いたとされるゴーレムをも単独で撃破したようですな」
そこまで聞いたシュバルツが半ば呆れたような声を上げる。
「ゴ、ゴーレムだと......しかもそれを単独で撃破? お主ら獣人はどうなっておるのだ? 少々欲張りすぎではないのか?」
「ガッハッハ。奴らは我等獣人の誇りだ。褒美を取らせねばなるまいて」
大声をあげて笑うダルタニアス、それが落ち着く頃を見計らってノームは続ける。
「全く両国ばかりに手柄を取られては敵いませぬな。だからという訳ではないが、我らが王の命にてここより前の守りは我らに任せてもらおう。各国の騎士団は我らの後ろで王たちを守るがよい」
「ノール長老、ウィンダムは共に戦いましょう」
「噂に名高い剣聖セイラム殿か。申し出は大変ありがたい。しかしセントソラリス騎士団のパラディンも重傷の中、お主達は王家を守る最後の砦となろう。ロイヤルジャックのアッガス殿達も直ぐに到着するであろうが......なにより我らの王の命ゆえに」
「ノール長老......」
「屍人も消えた今、残るは魔獣であろう。安心して雑魚は我々に任されよ。更に言えば我らが王がその力をもってすればここまで被害が及ぶはずなど断じてないとも言えるがのう。心配ご無用とだけ伝えておこう。シュバルツ王もそれで良いですな?」
「其方達の王については後程ゆっくりと話を聞かせてもらうとして......サーミッシュ、いやドルツブルグの悲願のため、今は存分にその力を示すが良いであろうな?」
「流石は賢王、お心遣い感謝する」
そこへサーミッシュとシンディがノールの所へ傷ついたクロードを連れて戻ってくる。その姿とヒロシの伝言を聞いたノールは傍にいたユリアンに指示を出す。
「ユリアン、お前は一旦後ろの森まで退くのだ。大森林の守護の元、すぐに治療に取り掛かれ。良いな? 絶対に死なせてはならぬぞ。絶対にだ!」
「はっ!」
それを見届けた後、ノールは前に歩み出るとサーミッシュと天使部隊、この二つが同族である事を知られぬよう、巧みに指示を出し始めるのであった。
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サティ達が城壁の端上から下の広場を横目に走りながら見下ろしている。異様な雰囲気が辺りを支配している中、第二王女のカミーラが中央に立つ一人の黒い男を見つけて叫んだ。
「ああ! あのお方は!」
「良かった、間に合ったのね......」
「サティ様、あれは? あの方はもしや?」
何故かカミーラがサティを様付けで呼ぶようになってしまっているが気にしてはいけない。当然サティも気にしてはいない。
「ええ、カミーラ。彼こそがあなたが神託で知った人物その男よ」
「それでは......」
「そう、英雄マスカレードよ!」
「ボニータよ、あれがマスカレードか? なんという圧力だ......大気の震えがここまで届いてきそうだ」
「ああ、あれがマスカレード。あれが本気の彼の闘気という訳か」
「なに? 以前に会った事があるのか?」
「一度だけドルスカーナで模擬戦をする機会があったんだ。だがムキになって二段まで変化した結果は......軽くいなされたという感じね」
「に、二段変化してもなお届かぬだと? なんと......」
「あの方は一体......? 何故この国の危機に? それにどこから現れたのでしょうか?」
キャサリン王妃がサティへと問う。
「キャサリン王妃。英雄と呼ばれし正体不明の仮面の男、その正体を暴く事をリンクルアデルとドルスカーナ王家は禁じているわ」
「英雄の正体は知らぬ方が良い......いえ、互いの国益の為にもあえて知るべきではないと言う事かしら?」
「そこに至った経緯は直接陛下達に尋ねた方が良いかと。神託が絡む事ですので」
「神託? そうなのですね、分かりました。 ......おや? あちらに王家の方々がいるようですね。とにかく私達も早く合流しましょう。皆さん急ぎましょう」
「「はっ」」
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そして中央で両者が睨み合う中、広場の周りにはサーミッシュが厳戒態勢を取る。そしてサティ達が、更には反対側からは森を抜けてきたアッガス達が。
周りでは魔獣の咆哮や兵士たちの怒号が飛び交っている。各国の兵士が協力しているのだ。間もなく鎮圧する事は想像に難くない。
しかし今、粉雪が舞うこの広場を包む空気はピンと張りつめ、それこそ切れそうな程に次第に研ぎ澄まされてゆく。互いの気が牽制しあうかのように......決して混ざる事なく、そして離れる事なく。
辺りの喧騒すら消えてしまう程の緊張感が場を支配してゆく。そしてその戦いの火蓋は......ノーワンがその剣を振るったその瞬間に一気に動き出すのだった。
諸事情により中々書き進める時間が取れず、
不定期投稿っぽくなっており本当に申し訳ありません。
引き続きよろしくお願いします。