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よろしくお願いします。
クロードは俺の顔をマジマジと眺めて言った。なんだその顔は。
「ヒロシ様、ダンジョンに潜って何を?」
「俺はこれでも冒険者だ! ダンジョンに潜って魔獣と戦う!」
「戦ってどうするんです?」
「ダンジョンに巣食う魔物共を蹴散らし、その体内に存在すると言われる毒袋を入手するのだ!」
「それで?」
「毒のメカニズムを解明し、毒消し薬を開発して世に旋風を巻き起こすのだ!」
「どの様な魔獣を狙っているのですか?」
「まずは一番冒険者に被害が出ている、ポイズントードだ! 作戦名はプランB!!」
「ギルドに行けば手に入るのでは?」
「え?」
なんだと? いや、でもそれもそうか。何故ギルドで聞くことを思いつかなかったんだ? この数ヶ月間、材料さえあればと悩んでいたというのに。なんか、悩んでいたのがバカみたいだ。大見栄きってたのが恥ずかしくなってきたぞ。と言う思いを見透かしたかのようにサティが口を開く。
「ポイズントードはギルドに普通にあるわよ?」
「そうなの?」
「存在すると言われる毒袋! なんてカッコつけてるけど、とっくに存在してるし」
「ぐっ」
「大体プランBってなによ? Aはどこに行ったのよ?」
「ぐぬぅ」
「そんな事ばかり考えてたの? 仕事しなさいよ」
「ししし、してましたー。してるんですー。なんだよ、お前こそ仕事しろよ! ソニアさんの護衛とか言ってさ、朝から晩まで一緒に買い物とかばっか行ってさ、露店で串焼き買ったりして......いや...その...グボァ!」
こいつ殴り掛かってきやがった。痛ってぇ! 何でいきなりグーなんだよ。せめてビンタから来いよ。
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「すみませんでした」
「分かれば良いのよ」
ソニアさんはシェリーとロイに『お兄ちゃんとお姉ちゃん何やってんの?』と聞かれ、『じゃれてるのよ、戦いごっこよ。』と答えていた。違う、俺はマジグーで殴られ続けたんだぞ。狂犬のジャギルより痛かったわ! クロ、お前止めるのが遅せぇんだよ!
「そんなことより、あなたには他に決めることがあるでしょ」
「なんだよ?」
「この店の名前はなんて言うのよ?」
「え?」
「この店の名前よ。もう数ヶ月経つけど、いまだに看板には何も書いてないわよ? 考えてんの?」
「か、考えてるよ」
「考えてないんでしょ?」
「考えてるよ!」
「どうかしら? 怪しいわね?」
「考えてるっつってんだろうが! うっせぇぞ! お前は俺のかーちゃんか? 小娘がいきがっ......いや......その...グハァ!」
こいつは何ですぐに鉄拳制裁に走るんだよ! クロ、見てないで早く止めろ!
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「すみませんでした」
「分かれば良いのよ」
冗談でもなんでもなく、俺は考えさせられた。よく考えたら今はギルドへの販売だけで言ってみれば卸業者みたいなことしかしていない。
店頭販売をしているとは言え、いい加減だったと言わざるを得ない。そらそうだ。看板もない店に入ってくる人はいないだろう。
決めなくてはならないことは山ほどある。俺はビジネスを始めるにあたって必要な事を何一つしていなかった。じいさんのサポートがなければすぐに潰れていたという事実に今更ながら気づいた。
店の賃貸料や改装費はもちろん、従業員の給料は?光熱費は?輸送費は?食費もある。そんなかかる費用の事など後回しにしてきた。
ギルドへの繋ぎも自分の力で得たものじゃない。利用できるものはするってのは悪い事ではないかと思うが、そればかりではダメだ。
俺は何がしたい?この店で何がしたい? この店をどうしたい?ビジョンもない、プランもない、戦略もない。良くこれで前世は経営者だったと言えるな。
利益はじいさんの好意に甘えて出ているように見えてただけだ。
世界中のサラリーマンが目指す頂。雇われ社長とは言え、一度はその頂に立った俺が一体何たるザマだ。
ここまでツイてただけだ。もしじいさんに拾われてなかったらとっくに死んでた。そうだ、死んでいても全くおかしくない状況だった。スキルを貰えなかったら言葉すら理解できないでいた。
「はぁ」
「どうしたんです?」
「いや、自分の能天気さに改めて気づいたよ。ちょっと気合いを入れないとな」
俺はサティを見た。
「なによ?」
「お前のおかげでもっと頑張らないとなって改めて考えたよ。ありがとうな」
「べべべ、別に良いのよ。良いったら良いのよ」
サティは顔が真っ赤だった。
明日から週末まで出張となります。
出来るだけ投稿できるよう頑張ります。