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よろしくお願いします。
スーハイミは長老への報告を終えるとサティへと話しかける。
「もうそこを抜けると直ぐです。どうしますか? ヒロシ様は現在別行動中で王城にいるそうです。このまま広場......国王やノーワンがいる場所へ行くことも可能ですが?」
「そうね......まずはヒロくんに会う事にするわ。私を呼んでいるのでしょう?」
「はい、そうですね。分かりました。では王城の方に出るように致しましょう」
そうして彼らは王城でヒロシと再会する事となる。
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「あ! いた! ヒロくん来たわよ!」
「おお、サティ。ん? サーミッシュは分かるがそちらの方は確か......」
「カミーラ王女よ」
「やっぱりか。連れてきたんだな。まあサティとサーミッシュが居れば何とかなるか......な? で、そっちはどうだった?」
「どうだったじゃないわよ! ドラゴンが来襲したのよ。初めて見たわ」
「やっぱりドラゴンが来たんだな。森へ......地上への攻撃はしなかっただろう?」
「ええ、地上にはしなかったわね。って言うか、知ってたんなら言いなさいよ! ビックリしたのよ!」
「ス、スマン。それがドラゴンだと確信してたわけじゃなかったんだ。空にも森と同じような掟が存在するとは予想していたけど」
「もう!」
「で、向こうはもう大丈夫なのか?」
「最後にちょっとデキそうな奴が出てきたけど、アッガスに任せてきたわ。ヒロくんは何してたのよ? クロちゃんとシンディは?」」
「ちょっと気になる事があってね。アイツらには先に行ってもらった。こっちは王城に侵入している三人の援護とか、屍人についてだとかその辺の事をサーミッシュに伝えてたんだ」
「屍人って?」
「ああ、死者を呼び寄せたり、死んだ人間を操る術のようだな。そういうのがいるんだ。ノーワンが操っているのかも知れないんだが......あれ? さっきまで居たんだけどな? 数が減っているのか? いなくなってるような気がする」
そう言いながら移動を開始した二人は、走りながらも互いの状況を話し合う。
「アネスガルドの兵士に掛かっていた言惑の効果は恐らく切れていると思われる。既にサーミッシュも事情を話して回ってるし、両軍は共闘を始めている。屍人は何故か居なくなっている気がするが、魔獣は別だ」
「ふうん。それでサーミッシュには言いたい事は伝えたのね?」
「ああ。伝えられたからこれから戻る所だ。急ごう」
「で、私を呼んだのは?」
「ああ、ノーワンについて思うところがあるという事と、三大鬼のうち一人は出てきたんだが残りの二人がどこにいるか分からないんだ。あの感じだとノーワンの下についていると考えた方が自然だ。本人の意思によるものか言惑によるものかは別にしてだけど」
「言惑は切れてるんでしょう? 本人の意志でないとすれば......とにかくそいつを何とかすればいいのね?」
「何と言うか、サティにお願いする事になるかも知れないな......と。悪いんだけど」
「いいのよ。で、ノーワンについて思うところって?」
「ああ、それはだな......」
それを言葉に出そうとした時だった。前方よりセントソラリスの兵がこちらへと飛ばされてくるのが見えた。
「ん? セントソラリスとアネスガルドの兵だなあれは。どうしたんだ? いや、あの後ろの大きい男がやったのか?」
「あれは......鬼族ね」
「もしかして三大鬼の一人か? おい、大丈夫か?」
「あ、貴方はリンクルアデルの商人......と、ええ! カ、カミーラ王女ではないですか! ここは危険です。直ぐに避難を!」
それを聞いたサティは兵士に言う。
「そうね。ヒロくんは避難した方が良いわね」
「おい、何を言ってるんだ?」
「避難という事にしないとダメでしょ? ここは私に任せて先に、陛下達やノーワンがいる場所へ行ってちょうだい」
「しかし......」
「こういう時の為に私を呼んだのでしょう? 心配しないで? 直ぐに終わるわ」
「そうか......分かった。頼んだぞ。そっちはサーミッシュの、ええと」
「スーハイミでございます」
「ああ。済まないがスーハイミさんはカミーラ王女を守ってやってくれないか。全力で......だ」
「私に敬称など不要でございます。貴方様のお願いを断る道理はございません。安心してお任せ下さい」
「助かるよ、ありがとう。カミーラ王女はスーハイミの側を離れてはダメですよ」
「分かりました。ヒロシさん......いえ、お気をつけて」
カミーラ王女は何かを言おうとしてその先を話すのをやめた。彼女はその身に神託を受けた時から神の言う人物をずっと考えていた。英雄とは誰なのか。本当に助けに来てくれるのか。
そんな面影を全く感じさせないこの男。しかし彼が来て事態は大きく動き出した。まさか母である女王陛下が操られていたなど今でも信じられない。
カミーラは神託の全てをその身に受ける事が出来ない自らの無力を呪った。私が未熟者でなければもっと多くの情報を神々から授かる事が出来たのではないか? そうであればもっと早く事態は好転していたのではないか? その事ばかりを考えていた。
彼はただの商人でありながらセントソラリスの危機を、アネスガルドの陰謀を暴き、更にはアネスガルドに蠢く陰謀すらその慧眼で見抜く。しかもあのサーミッシュが彼の意見を真摯に受け止めている。何故だ?
神託とは全くかけ離れた印象を覚えるこの男。しかし......まるでこの男こそが......
疑問が次から次へと溢れ出てくる。しかしそれをこの場で聞いても何の意味もないのだろう。今はただこの事態の収束を願い、今できる事をするのだ。そう思い、彼女はその先を口にする事を止めたのだった。
ヒロシはカミーラ王女からサティへと目線を移すと彼女の頬を軽く撫でてから再び走り出した。それを見送ったサティは素早く皆へ指示を伝える。
「私はリンクルアデル冒険者のサティ! あの男は私に任せて下がりなさい!」
「サティ? スカーレットのサティか?」
「貴方はセントソラリスの兵ね? 見ての通りカミーラ王女が居るわ。王女を中心に隊列を組んで下がりなさい」
「我らもご助力致します」
「ダメよ。一対一の戦いに手出しは無用、今は全力で魔獣から王女を守りなさい」
「申し訳ない......」
「貴方はアネスガルドよね?」
「は、はい」
「先程ヒロシから詳細は聞きました。上手く共闘してくれているようで助かったわ。王城から私の仲間がアネスガルド王家を救出して出てきます。彼らを保護し、同じく隊列を組んで後ろで待ちなさい」
「王妃様と殿下が!? ご無事なのですか!?」
「恐らく......としか今の段階では言えないわ。だけど必ず出てくるわ。その為に今できる事をやりなさい。それとあの男は三大鬼で間違いないのかしら?」
「はい。ラムジール様です。アネスガルドの三大鬼、その頂点に立つ戦士です。アルバイヤ様と同じく突然様子がおかしくなり......我々と同じく何かの術にかかっておられるのか、ラムジール様が反旗を翻すなど考えられません」
「そうなのね......わかったわ。そして、スーハイミ」
「はっ」
「貴方の隊はヒロくんが言った通りよ。私の邪魔をしないよう雑魚の相手と王女の護衛。できるわね?」
「もちろんでございます」
「頼んだわよ」
そして遂に目の前に現れた男。その巨躯から噴き出るオーラは彼が波の戦士ではない事を物語っている。そして頭に生えている一本の角。彼が鬼族である事は間違いなかった。
「グウウウウウ......グオオオオウ」
「確かにまともな状態ではないようね」
ラムジールはサティを目の前にすると何かを感じ取ったのかその動きを止める。それは同じくサティの体から漏れ出る強者のオーラがそうさせたのか? その時どこか虚ろな眼が一瞬生気を帯びたように見えた。
「グアアウ......俺を......殺してくれ」
そう呟きながら再び目から生気が消えたかと思うとラムジールは背中に背負っていた得物を引き出す。それは何の変哲もないただの金属。とてつもない重さである事は一目でわかる。
アックスでもメイスでもない。ただ違う点と言えば無骨なその棒からはいくつかの棘が出ている。その武器の名を一言で表すと......金棒という表現が一番分かりやすいだろうか。
「グオオオオウ!」
そのひと振りで大きな衝撃音と共に地面が陥没する。並みの兵士であればその時点で即死する。原形を留めている事など不可能だろう。
素早くその場を飛び退いたサティ。しかし驚くべき事にサティは既に獣人化していた。いやさせられたと言った方が正しいだろうか?
紅面一尾。そうしなければその金棒からは逃げきれない。ただ力任せに振るった一撃。しかしそれは恐るべき速さと威力を持った攻撃だったのだ。
「......確かに言惑ではないようね。貴方の言う通り......悪いけど殺さずにその首輪を取る事は出来ないかもしれないわ」
静かにそして悲しげに......サティはラムジールの首に巻かれた首輪を見て言った。
お読み頂きありがとうございます。
非常事態宣言の煽りで少し忙しくなっております。
投稿が続かず申し訳ありません。
皆さまも体調管理には十分にご留意ください。