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338 暴虐の王

よろしくお願いします。

「まさか......ゴーレム(意思無き破壊者)なのか? 死の七日間を再現するつもりか? ゴーレムを呼び出すには王宮魔術師が時間をかけて、それこそ束になって初めて実現可能な魔法のはずだ。それを一人で可能にする魔力量......お前は......まさか賢者レベルだとでも言うのか?」


 アッガスは魔法陣から出てくるゴーレムを正面から見据える。しかしそれでもその手を、剣を、アッガスは抜かない。ロイヤルジャックは王家を守る者。その大義の前には多少の犠牲は厭わない覚悟はあったはずだ。


 元来、アッガスは戦闘の中で相手を気遣うような男ではない。その力を示し、ぶつかり合い、生死をかけた戦いに情など不要。そう思い事実実践してきたのだ。だからこそその強さは際立ち、羨望の眼差しを受け、前線を任され、国から、ダルタニアス王から二つ名を与えられる程になったのだ。


 しかし......


 その時であった。アッガスの後ろから誰かが叫ぶ声が聞こえる。何を言っている? 上手く聞こえない。風が、ゴーレムの咆哮が邪魔をしている。なんだ? 誰だ?


「アッガスさん! あれだ! あれをぶっ壊せ! あれだ!」


 壊せだと? ゴーレムをか? 無茶言いやがる......がそれしか手がないのは分かっている。この声は......ガイアスか? アッガスは後ろで叫ぶガイアスに少し意識を向ける。 ガイアスはこちらに向かって何かを叫んでいる。


「アッガスさん、メラバナスのロッドだ! ロッドを壊すんだ! 忘れたか! セリーヌ女王陛下の首飾りを! ああっ! 危ねぇ!」


 首飾り? そう思った瞬間、横から猛烈な打撃を受けアッガスは吹っ飛ばされる。ゴーレムがその拳を振り切ったのだ。


「ガハァ! ゴハゴホ!」


 あまりに強烈。獣人化したアッガスを簡単に吹き飛ばし吐血させるほどのその威力。骨が何か所か折れたかも知れない。獣人化した身体能力ですら凌駕するその圧倒的な膂力。アッガスは飛ばされ転がりながら木に激突する。


「グロロロロゥム!」


 ゴーレムは飛ばされたアッガスを追撃すべくその足を向ける。およそその巨体からは想像のつかない速さでアッガスへ近づくと力任せに殴りつけ蹴り飛ばす。全てを破壊したとされるその恐ろしいまでの力。アッガスは何とか盾を構えるがその盾ごと、その体はその度にピンポン玉のように弾かれる。


「ゴフウウウウッ!」


 血を吐き、ボロボロになり、転げまわりながらもアッガスは思い出していた。首飾り......そうだ、セリーヌ女王はあの首飾りのせいで正気を失っていたのだった。ヒロシは魔道具だと言っていたな......あのロッドが首飾りの役割を果たしているというのか?


 正直わからん。だが......それならやりようはあるか? それが外れていたら......いやその時はその時だ。覚悟を決めるのだ。


「ハッハッハッハ! いい光景だ! 死ね! そのまま全身を砕かれて死ぬが良い!」


「......メラバナスよ。お前は強い。実戦においてここまで追い込まれた事は記憶にないほどにな。だがドルスカーナの守護者である俺がここを任された以上、敗ける訳にはいかないのだ......悪いがケリを付けさせてもらうぞ」


「ハッ、その満身創痍の体で何ができる? 何ができるというのだ!」


「何ができるか......か。それは今からその目に焼き付けるが良い。とっておきを見せてやる」


 アッガスはゆっくりと腰から大剣を引き抜く。その大剣、普通の戦士には重すぎてまともに振る事さえ叶わない。その厚さ、長さ、両手剣と言っても差し支えない大剣をアッガスは片手で簡単に引き抜いた。


 そして静かに大剣を構えるとメラバナスを見据えて言った。


「暴虐の彼方にその生を掴め......モードタイラント(暴虐の王)


 その瞬間、アッガスを起点に爆風が四方へ巻き起こる。体を守っていた鎧が次々とパージされているのか? そう、されているのだ。身体を守るべき鎧を外しているのだ。大きく肥大し隆起した筋肉。背丈は大きく伸び、顔つきはアッガスの面影を残していない程に獰猛に変化し体毛は獣人化した時よりも長くなっている。


 黄色と黒が織りなすコントラスト。全身を包むオーラ、そして流れ出る気迫。口から漏れ出る唸り声。しかしどうだ? 明らかに様相が変わったそのシルエット。暴虐の王と言う名前からは想像がつかない程に気高く美しい。


暴虐の王(タイラント)......だと? そうかアッガス......貴様がロイヤルジャックのタイラントだったのか」


 ゴーレムは大きく右手を振りかぶるとソレをアッガスめがけて振り落とす。高い打点から渾身の力を込めて振り下ろされる拳。


 ドガアアアアアアン!


 その膂力から繰り出される圧倒的な破壊力を前にアッガスは......!


「待たせたなメラバナス、しかとその目に焼き付けよ」


 その拳を左腕でガードしたアッガスは言った。微動だにせず。ただ来た拳を受け止めただけ。何らダメージを受けていないようにすら思える。アッガスはそのまま左手でゴーレムの右手を弾きあげると右手の剣を地面に刺し、その拳を固く握りしめるとゴーレムの腹をめがけて放った。


 ドゴオオオオオン!


 その一撃、爆裂したかと思えるほどの衝撃音と共にゴーレムは後方へと吹き飛ばされる。


「済まぬが手加減をするつもりはない。名前の通り『意思無き者』である事を願うばかりだ」


 アッガスは剣を再び手にするとゴーレムへ肉薄する。凄まじいスピード、その俊敏さは野生という言葉だけで済ます訳にはいかないだろう。その巨躯からは想像もできない程に速く、(しな)やかでまるで空気の上を滑るような動き。


 起き上がるゴーレムにその隙を与えない。大剣を振るうアッガスはゴーレムの体をバターでも切るかのように分断する。ゴーレムの反撃しかし......ダメージを与える事ができない。それが届かない。もうアッガスには届かないのだ。


 



お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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