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明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

「くそ、くそ、くそ! 獣人はその能力のみで他を凌駕し圧倒する。その前にはどのような修練を積んでも、ただの一撃で全てが水泡に帰すと言うのか。お前らが憎い。お前らさえ居なければ! お前らさえ存在しなければ!」


「何を言っている? 魔術師はその能力を伸ばす事が出来れば一生安泰だろうが。それは獣人の国でも変わらぬ。治癒魔法、攻撃魔法、多様な魔法で全てが思い通りだ。それを身体能力のみに特化した獣人を羨むとは珍しい奴だ」


「お前には死んでもわからんだろうな。魔法の力を利用され、吸い尽くされ、挙句ゴミのように捨てられていく我らの思いなど!」


「あん? 何を言っている? アネスガルドはその魔力により軍部に力を入れ、それこそ大陸をその力で蹂躙しようとしているではないか!」


「黙れ黙れ黙れ! そんなものに誰も興味などないのだ! 誰が好んで人を傷つけようか? お前たちのせいでアネスガルドは!」


「なんだと?! 言っている事が無茶苦茶だ。事実お前はセントソラリスをその手にかけようとしているではないか! お前は現に今、この時にも自らその手を血に染めているではないか!」


「ノーワン様が導いてくれるのだ! 悪政を引いた王は死んだ! 平和の為なら、その為なら、民の命の為なら、この俺は喜んでこの手を血に染めよう!」


「お前......」


 アッガスは腰の大剣に手をかけようとして......やめた。アッガスは通常メイスを武器として使用している。冒険者と言う側面を持つ彼は剣を使うより力任せにぶん殴る方が手っ取り早い為である。


 しかしアッガスのロイヤルジャックとしての武器、その本来の武器は腰に携える大剣である。ボニータと同じく状況によって獣人はその手に武器を持ち戦う。ではその時はいつなのか?


「どうした? その腰の剣は飾りか? そろそろ終わりにさせてもらおう」


 メラバナスは両手を広げて天を仰ぐ。その間にも彼の周りからは絶えず魔法が繰り出されアッガスへ攻め込ます隙を与えない。


 メラバナスは多重複合魔法を操る事ができる。その両手に魔法を宿し発現させる事は魔術師にとってさほど難しい事ではない。しかし異なる魔法を同時にいくつも発現させ、その威力を増幅し、かつ魔法の特性を合わせてその破壊力を増す事など至難の業と言って良い。


 どれほどの術式が必要なのか、どれほどの知識が必要なのか、それを具現化するにはどれほどの技術が必要になるのか。その身体にどれほどの魔素を蓄えておかなくてはならないのか。時には攻撃を仕掛け、凌ぎ、動き、話しながらもその魔法は常に発動されている。


「凄まじい能力だ。これは......しかし......クソッ」


 アッガスの周りには多角形の魔法陣が浮かび上がってくる。何層にも張り巡らされて巨大化する魔法陣。そこから生み出される魔法の威力は想像に難くない。


 アッガスは腰の剣を抜き魔法発動前にメラバナスへと攻撃を仕掛けるのかと思いきや、剣の柄に手を添えたまま引き抜こうとはしない。獣人化した肉体には大きな傷を入れることはできないとはいえ、そのダメージは確実にその身体へと与えられいく。


 しかし......それでもアッガスは動こうとしなかった。


「早く腰の剣を抜け! どうした? その大剣は飾りか?! 早く抜け!」


「出来ぬ!」


「!? 貴様舐めているのか? この魔法を受けても無傷でいられると思っているのか?」


「思ってはおらぬ。しかし俺が剣を引き抜いて戦う以上、お前を......殺してしまうかもしれぬ」


「はあ? これは殺し合いだろうが! 何を甘えた事を抜かしてやがる!」


「ああそうだ。先程までお前を殺す事に何の迷いもなかった。だが......今のお前の話が本当だとすると、お前は、お前はただノーワンに利用されているだけではないのか」


「貴様ぁ、ノーワン様を愚弄するか!」


 激化する魔法攻撃に最早受けきる事は悪手と見たアッガスは回避行動に徹する。しかしアッガスの剣は抜かれる事は無い。大剣の柄に手を添えているだけだ。


「これもノーワンの言惑の仕業なのか? これほどまで強力な魔法と技を持ちながらもノーワンの言惑には抗えないというのか......?」


「何をブツブツ言っておるのだ。ふん、獣人が逃げ惑う姿を我が同胞にも見せてやりたかったが仕方がない。このノーワン様から下賜されたロッドで止めを刺してやろう」


 あのドルスカーナの守護者、ロイヤルジャックのアッガスが傷を負い防戦を強いられているという事実。その重大さ、その意味の大きさはアッガス自身も自覚している。


 周りの兵も悲壮感を漂わせているではないか。そこに居るのは全身から血を流して立つアッガス。大陸最強の一角と言われた男が手も足も出ずに殺されようとしている。


 太腿と全身からの出血はまだ続いている。獣人化はいつまでもその形態を維持できるわけではない。もし形態が解けてしまえばこの魔法から逃れる術はないのだ。


 兵士達は手を出す事も出来ず、ただ信じて戦いを見ている事しかできない。


 メラバナスはロッドを振るうとアッガスを指し叫んだ。


「捻り潰せ......破滅に導く者よ! 全てを蹂躙しろ! 出でよゴーレム(意思無き破壊者)!」


 幾重にも張られた魔法陣、その中から出てきたのはアザベル経典でしか見る事の出来ない死の七日間を語る伝説の破壊者。その力は戦乱の時代に圧倒的な攻撃力で、ゴーレムの軍団は7日間で一国を完膚までに破壊したという。


 固有魔法か召喚魔法か? 土魔法の一種なのか? そこにいる全員が目の前に具現化されたゴーレムに......メラバナスの魔法に驚愕を隠せなかった。


 一騎当千の暴力の権化、目の前に現れたのは紛う事なくその一体であったのだから。




お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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