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336ロイヤルジャック

よろしくお願いします。

「おい、そこの灰色の男。当たりもしない魔法をいつまで撃ってやがる」


「ああ? 獣人にその衣装......ロイヤルジャックか? 何故ここにいる?」


「そりゃお前をぶっ殺すためだろう? 他に何が?」


「まさか、お前らがドラゴンを呼び寄せたのか?」


「残念ながらそれは違う。運よく助けられたとしか言えんな。いや、空の掟をお前達が破ってくれたこそか」


「空の掟だと? そんなものがあると言うのか?」


「さあな。だが実際にお前の、いやノーワンの計画は失敗したんじゃないのか?」


「黙れ! ノーワン様の計画は失敗していない。俺一人でも十分だ。貴様を殺してセントソラリスをノーワン様に捧げるのだ。簡単な事だ」


「分かってないな」


「なに?」


「その簡単な事が一番難しいって事をな。まあいい、さあ始めようか。俺はドルスカーナ、ロイヤルジャックのアッガスだ。いざ、尋常に勝負といこうか」


「カッ、お前の皮を剥いで壁に飾ってやるわ! 喰らえ! ウインドロンド(風刃の舞踏)!」


 男が魔術を唱え右手を掲げると頭上に小さな空気の渦が次々と発現してゆく。そして右手を左右へと振りながら前方へと振り下ろすと渦は多方向よりアッガスに弾き出される。


 アッガスは二本のメイスを背中から引き抜くと前方で十字に組んで男へと突進する。熊獣人ほどでないにせよ、虎獣人の皮膚は元より厚く硬い。男の魔術のレベルを無視したかのような突進に男は叫ぶ。


「はっ、魔法など効きはしないとでも言いたそうだな! だが元来の身体能力の強さに己惚れるなよ」


 魔法が次々とアッガスへと攻撃を加えてゆく。確かに魔法自体はアッガスの皮膚を傷つける事は出来ないかのように見えた......が。


 魔法は確実にアッガスにダメージを加えていく。魔法の中に時折煌めく何かが混じっているように見える。出血は少ないとは言えやがて血は風魔法に交じり鮮血が辺りを染め上げてゆく。


「魔法の中に刃物か何かを仕込んでいるのか!? ふん、小癪な技を使うではないか」


 アッガスは傷つく体など気にもせずそのまま男へと突進する。魔術師は基本的に中距離から遠距離をその攻撃範囲として移動する。明らかに近接戦闘を得意とするアッガスへ近距離でやりあう馬鹿はいない。


 だが、男はアッガスの突進に対して距離を取らない。そのまま残る左手に握るロッドを大きく振るうと次の魔法を繰り出す。


ヤイデンスランド(這い蹲る者)


 その瞬間アッガスの体に凄まじい負荷が掛かる。重力魔法か? アッガスの動きはあまりの重さに勢いを殺され、ついにその足を止め、膝をついててしまう。


「グオオオオオ!」


 周りの者は目に見えている状況が信じられない。特にドルスカーナの兵士にしてはアッガスが膝をつくなど見た事もないと言って良い。


「魔術師は近接が苦手だとでも思ったか? クソバカ野郎が、お前のような奴は単純で助かるぜ」


 男はそのまま右手を更に回転させる。


「喰らえ、トイコスペトリオット(壁を貫く者)


 血を纏った風魔法が右手へと収束されると渦を巻いて一本のランスのような形状へと形を変える。言わば先程の魔法を一本へと収束したような形だろうか。個々でもアッガスの体へ傷をつける威力。それが一つへと集約された時の攻撃力は......


 魔法を見たアッガスは反射的にメイスを構え体を捩りその直撃を逸らす。しかし高負荷を受けた体はアッガスの思い通りに動かない。メイスを削りながらその魔法は若干方向を変えるも左手をかすめ、その下、左太腿を貫通し地面へと縫い付けた。


「グアアアア!」


「ギャハハハハ、舐めすぎだ! 魔術士を舐めるな! 切り刻め! ウインドロンド(風刃の舞踏)!」


 アッガスはメイスで攻撃を防ごうとするが高負荷をかけられた体では上手くそれを防ぐ事が出来ない。本来の防御力で致命傷は受けないとはいえその攻撃力は本物。アッガスの体を容赦なく切り刻んでいく。


 その赤く染まった風の渦は徐々に熱を帯び始める。赤く、赤く染まってゆくソレは今度は炎を纏う一本のランスへと形を変える。


「止めだ! イグニートヴェロス(炎の槍)!」


「グオオオオオオオオン!」


 吠えるアッガス。それと同時に背負っていた小型の盾を取る。盾は構えると同時にギミックが作動し上下左右へと展開すると細長い六角形へと変形した。


 炎の槍は構えた盾へと直撃、正面から受ければ盾が破壊されると感じたアッガスは反射的に盾を逸らす事でその威力を殺す。足元で爆散した魔法。その凄まじい破壊力の後、瓦礫と煙の中から現れたのは獣人化したアッガスであった。


「どこかしら舐めてかかった事は謝罪するべきだな。まさか獣人化する事になるとは......大した男だ。名を聞いても良いか?」


「ふん、メラバナスだ。死にゆくお前に名前などに意味があるとは思えんがなっ!」


 名乗りながらもメラバナスは攻撃の手を緩めない。左右から魔法を連発しアッガスへと浴びせかける。しかし獣人化したアッガスを捉えることはできない。いや、幾つかは捉えてはいるのだろう。盾で防いでいてもその全てを防ぎきる事はできていないようだ。


 しかし獣人化したアッガスの肉体はその身体レベルを数段階アップさせる恐るべき能力。獣人だけがもつ特殊能力はまさに近接戦闘において明らかに他種族と一線を期していると言っていいだろう。その魔法攻撃は大きなダメージを与える事が出来ないでいた。


 奥の手、必殺技、その言い方は数あれど勝負の最中に自らの技や切り札の使い所を間違えば奥の手など出す間もなく敗北するであろう。大事なのは機先を制し、場を読み、必要な行動を必要な時に行えることではないだろうか?


 アッガスの獣人化は間違いなく奥の手である。しかしこのタイミングで獣人化することによりメラバナスへと傾いた勝負の天秤は、アッガスの獣人化によりまた元の状態へと戻りつつあったのだった。


 そして勝負は中盤戦へと突入する。




今話でおそらく今年最後の投稿となります。

本年中は拙作にお付き合い頂き本当にありがとうございます。

来年も引き続きよろしくお願いします。

良いお年を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様も良いお年を。(*- -)(*_ _)ペコリ
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