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~セントソラリスとアネスガルドの国境付近~
「油を降らせたときには焦ったが、何とかなりそうだな」
「そうね」
「しかしアッガスさん、上ではまだドラゴンが飛んでますよ。あれ大丈夫ですかね?」
「正直何とも言えん。見た限り降りてきたり攻撃をするようには思えんが......」
飛行船から出てきたアネスガルドの兵士達との戦闘も大方片付きそうな雰囲気を見せており、皆が次の行動を考えている。そこへサーミッシュが歩み寄り話しかける。
「サティ様、今サリエル軍務卿より連絡が入り、戦闘が落ち着き次第王城へ戻って欲しいと。ヒロシ様からの依頼だそうです」
「ヒロくんが? でもここから直ぐにいける距離ではないでしょう?」
「サティ様に森の道を通って頂く事に何の問題もございません。それを使えば王城へは直ぐでございます」
「そうなの? どちらにせよ直ぐに行った方がいいわね。ごめんなさい、そう言えばあなたの名前を聞いてなかったわね」
「私はドルツブルグのスーハイミと申します。サリエル軍務卿より森の番人としての部隊の一つを任されております」
「スーハイミね。それでヒロくんに何か問題でもあったのかしら?」
「いえ、そこまでは。話の内容では問題が起こる可能性を示唆していたようでしたが」
「なるほど、分かったわ」
そしてサティがその話をアッガスにしようと思い、声を掛けようとしたその時であった。
「うわああああっ!」
一隻の飛行船の近くで戦っていたセントソラリスの兵士達が叫び声と共に吹き飛ばされてきた。
「なんだ? どうした! おい、コイツは......」
ガイアスは飛行船の方へと直ぐに駆け付けセントソラリスの兵たちへと声をかける。が、そこに見えたのは灰色のローブに身を包んだ魔術師のような男だった。
「クソが! ドラゴンだと? ドラゴンが存在するなどと! クソがぁ!」
「なんだ? コイツだけ戦闘衣装が違うぞ? あ! アッガスさん、こいつ魔術師だ!」
「ん? ああこの衣装はあれだ、ノーワンが連れていた連中だな。会議の時に見た」
男は両手を翳し手当たり次第に魔法を解き放つ。
「クソックソックソッ、ノーワン様の計画が台無しだ! このクソがぁ!」
サティとスーハイミはアッガスの所まで移動してきたが、その様子を見てアッガスへ伝えるのをやめる。しかしアッガスはサティの方を向くとニヤリと笑いながら言った。
「王城へ行かなくてはならないのだろう? 亭主が呼んでるんだ、直ぐに行け」
「でも」
「ドラゴンのお陰で船は全て墜ちた。どう対処するか良い考えがなかったのだ。結果オーライとは言え、残るはあの男一人くらいだろう。皆で力を合わせて何とかするさ」
「まあそうね......でも、殊勝な事を言ってるけどホントは違うんでしょ? ハッキリ言えば?」
「正直ドラゴンに全部持っていかれて消化不良だ。アイツは俺がもらう」
「そんな事だろうと思ったわ」
「だから早く行け、すぐに行け。邪魔をするな」
「別にしないわよ」
「いや、お前は横取りする気だ」
「人聞き悪いわね!」
「ガッハッハ。でもヒロシが呼んでるのなら早く行きたいのは本当だろう?」
「まぁ、そうだけど」
「では、行け。あと向こうで控えている第二王女も連れて行ってやれ」
「ホントはエルモで待っているはずなのに、ここまでついてきてるのよ? アネスガルドまで連れて行っても良いのかしら?」
「問題ないだろう。向こうには他の部隊もいる。それにエルモにはロッテンもいるし、大教会の司祭もいるのだ。国の節目をその目に写すのも王族として必要な事だ」
「確かにそうね。アッガスはここが済んだらどうするのよ?」
「万が一、アネスガルドが抜けてくるような事があればここで食い止める必要があるが......まあ、状況を見ながら王都に向かう事になるだろうな」
「分かったわ」
そこまで話すとサティはスーハイミの方へ向き直り言った。
「じゃあ、直ぐに行くわよ。あと、セントソラリス第二王女カミーラもつれていくわ」
「はい。え? しかし、森を抜けるのはサティ様だけ......」
「なによ?」
「いえ、あの......」
「なに?」
「いえ......参りましょう。できれば後ほどヒロシ様か長老にご説明を......」
「それくらい問題無いわよ。じゃあ行くわよ」
「はっ」
サティは後ろでセントソラリスの兵に守られているカミーラへ声をかける。
「カミーラ、私たちはこれからアネスガルドへ応援に行くわ。あなたも付いてくる?」
いつも通りなぜかサティは敬称をつけないのだが、それは気にしてはいけない。
「サティさん......はい。私も、私も連れて行ってください!」
逆にカミーラはサティに対してさん付けなのだがこれも気にしてはいけない。周りの兵士たちも王女がそれで何も言わないので特に注意したりする事はない。
サティは森に入る前に一度だけ振り返りアッガスへと言った。
「じゃあ悪いけど......でもないかしら?」
「むしろ邪魔されない分ありがたいぜ。早く行け、それでヒロシに会うんだ」
「了解、じゃ後でね」
「ああ」
そう言うとサティ達は森へと入っていった。アッガスはそれを見送りながらガイアスへと言う。
「ガイアス、他の兵と共に周りを抑えろ。こいつは俺の獲物だ。手を出すんじゃねぇぞ?」
「だけどアイツ魔法を連発しているから相性的には俺の方が......分かった分かった。手は出さねぇ。心置きなくやってくれ」
「ガッハッハ、それで良い」
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