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よろしくお願いします。

 ラスはそう言いながらその大きな弓のような武器を構えると思いきり引く。すると引かれた弦に呼応するように手元にはいくつもの矢が具現化されてゆく。


「な、なんだその武器は? まさか弓なのか?」


 ラスは何も発せずただ矢を持つ手を放つと、それは猛烈な勢いと共に前方へと弾き出される。一度に何本の矢を放っているのか? ラスは続けざまに弓を弾き、次々とタンダスへと向けて放つ。


「うおおおお! アイスシールド(氷壁)!」


 タンダスは直ぐに前方に氷壁を張り矢を防ごうとするが、矢は留まる事を知らず氷壁に激突してもまだ降りやまない。その威力、アイスシールドの氷壁が明らかに削られている。


「どうなってやがる。どこから矢をだしているんだ? クソッ、ヘルファイア(地獄の火炎)!」


 タンダスは横へ飛び込むと直ぐに魔法を詠唱、火炎弾でラスを攻撃する。直撃するかと思われた大量の火炎弾、タンダスは容赦なく次々と魔法を繰り出す。


「オラァ! 焼き尽くせ!」


 火炎弾はラスにむかって八方から捻りを加えながら襲いかかる。タンダスはノーワンからその魔力量と攻撃力を買われファントムで魔術師としての地位を約束された。その魔法に力は見て分かる通り強力の一言。傷を負ったとは言え、ボニータとアルバイヤですら脅威に感じた程の威力である。


 しかし......


「喰らい尽くせ......サラマンダー(火の精)


 ゆらりとラスの姿が揺らいだように見た時、火炎弾はその揺らぎに吸収されるように消えてしまう。タンダスは目の前で起こった現象が理解できない。


「な、なんだそれは? クソガァ! アイスバレット(氷弾)!」


「全く遅すぎてつまらない魔法だ。ウンディーネ(水の精)


 続いて放つ氷弾も揺らぎと共に消えてしまう。何故だ、何故当たらない? なぜ消えてしまうのだ?


「貴様の魔法など四大精霊の元にはただのお遊び程度でしかない。せめてもう少し強力な魔法でもない限りはな。貴様如きがこの体に傷をつける事など叶わぬ夢と知れ」


 そしてラスは再び弓矢を引きながら言う。


「そこで蠢く屍人も同じだ。矢で射るのは心が痛むが、安らぎの時が訪れるまでそこで止まってもらおうか......」


 ラスが矢を放つ。高い天井へと向かって矢は飛んでいく。そこでラスは矢を放ったその手を突き上げ、人差し指を立ててクルリと回すと手を広げて力強く振り下ろす。


「散れ......シルフ(風の精)


 すると矢はまるで意志を持つかのように四方へと散開する。確かな指向性を持った怒涛の弓は的確に屍人の足を貫きその場へと繋ぎとめる。


 しかし屍人は痛みを感じぬ体。転んでも今度は這いずりながらラスの方へと向かってくる。


「何と哀れな事か。もう少し我慢をしてくれ。この外道は直ぐにこの世から消えてなくなる......ノーム(地の精)


 ラスが右手を払うような仕草をしたかと思うと、床面が軽く波打ったかと思うとその形を変え屍人を地面へと縫い付けていく。屍人は動こうとするがその枷を外す事が出来ない。いや、外す知能が無いと言えばよいのか。


 屍人達は不気味な声を上げながらその場で蠢いている。その姿をみてラスは少し顔を顰めた。しかしそれは嫌悪ではない。そう、言うなれば悲しみだろうか? 


 死しても尚、意志とは無関係にその身を弄ばれるその姿に、ラスはどうしようもない感情にその身を引き裂かれる思いであった。


 ラスはタンダスへ向き直り言った。その眼にはいつもの惚けた様子は見えない。明らかなる怒り、明らかなる決意が溢れていた。


「生を全うし土に還りし者達を弄ぶとは。この世の理から外れたものを使役するなど......貴様には死すら生ぬるいと感じる」


「なんだ、なんだお前は。精霊だと? 精霊など......お前やはり、いやお前たちは!」


「その口はもう閉じろ」


 そしてラスは何事か呟きながらゆっくりと両手を上へと伸ばしてゆく。それに合わせて空中には無数の魔法陣のようなものが浮かび上がり、タンダスを中心に囲むように大きく展開されてゆく。


「ああああ、お前は、やはりお前は、天し......」


「天の裁きをその身に受けよ......レーゲンデルリヒト(光の雨)


「やめろおおおおおおおおぉぉぐううぎゃあああぁぁぁ!」


 振り下ろしたその手を合図に魔法陣から一斉に光を纏った矢のようなモノが飛び出しタンダスを射る。射る。射る。射る。射る。終わりなきその圧倒的物量。タンダスが光の中へと消えて行くような錯覚。その矢はタンダスを消し飛ばしても降りやまない。


 その破壊力はとうとう床面を貫通する。その圧倒的な破壊力、しかし矢群が流れる際に作り出すその光の帯はただ美しく、その奔流に飲まれたタンダスと残骸は階下へと消えて行く。


 それと同時にタンダスの術で動いていた屍人はその動きを止める。そしてどこからか召喚された屍人達はゆっくりとその姿を消していったのだった。


「す、すごい。まさかこれほどだとはな。タンダスの攻撃がかすりもしないとは」


「驚きましたわね。凄まじい破壊力ですわ」


 アンジェはハーミッツデザイアを解きラスを迎え入れようとするが、その視線の先でラスはしばらく宙に目を向けて何事か呟いている。精霊と話しているのか、サーミッシュへ通信を行っているのか? 彼女が話しかけようとした時、ラスはこちらへ向くとニッコリと微笑み歩いてきた。


「ボニータ、どうやら彼女の微笑みにも破壊力がありますわ」


「ヤバいわね、言った通りでしょう?」


「そうね、ここは引き続き共同戦線を......」


「その同盟には僕も入っているんだろう? 仲間外れはなしだよ?」


 ラスは首飾りを付けなおし、再び元の冒険者の姿へと戻った。


「そう言えばそうだったですわね......でもあなたは末席ですわよ!」


「うーん。まあ今のところはそれでもいいよ」


「油断するなアンジェ。今の言葉には含みというか余裕があるぞ?」


「ですわね。我が王とか言ってましたから......ドルツブルグの余裕ですわ、きっと」


 そこで三人のやり取りを見ていたキャサリン王妃がラースへと声をかけた。



お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。


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