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言葉を受け取ったラースはその事象に驚きつつも返事を返す。
「お姫様も人が悪いね。そんな隠し技があるとはね」
「最初に言ったでしょう? 皆は私が守ると。ただ守る事は出来ても攻撃する事が出来ませんの。王家の秘密に触れるので気軽には使えませんが......父も許してくれるでしょう、そしてヒロシ様も」
「そうだね......そしてもう一つ、僕にも同じ事が言えるさ。この外道を、皆を弄んで殺したこの外道を。僕は森の番人として裁きを与えよう。長老もヒロシ様も許してくれるだろうからね」
「キヒヒ、攻撃できないなど案山子と一緒ではないか。まあ良い貴様らは後回しだ。番人だか何だか知らぬが、まずはこの冒険者から血祭りにしてやる。その安全な場所で仲間が死ぬところを見ているが良い」
タンダスはラースへと向き直りその手を広げる。
「ノーワン様から分けて頂いた力を存分に思い知るが良い。死者の行進!」
その声と共に床面からいくつもの影が浮かび上がり、それは徐々に屍人へと形を変えていく。
「屍人使いか? 禁忌に触れたか? いやそもそも禁忌を超えた現象じゃないか」
「キヒヒヒヒッ! 行け、殺せ! その貧相な弓でどこまで生きてられるかなぁ!」
ラースは首元のネックレスに手をかけながら言う。
「森を焼き、空を犯し、そして屍人まで操る。更には罪もない人たちを巻き込み国家を混乱に陥れた。もはや同情の余地は欠片もないよ」
「お褒めに預かり光栄だ! 礼を言わせてもらおう! キヒヒヒヒッ」
「その礼は受け取れないな。これだけの暴虐を犯した上に、更に僕は貴様をどうしても許せない理由が一つある」
そう言いながらラースはネックレスを外す。身を包んでいた魔力はその効力を失い、ラースは徐々にそのあるべき姿へと戻っていく。
褐色の肌は透き通るような白い肌へと変わり髪は生え変わったように艶を帯び、顔の形、体系までもがその本来の姿を取り戻してゆく。そしてその大きな変化を決定づけるのは彼、いや彼女の耳だろう。
その耳は先端部が伸びて尖ったような形へと変化している。そう、それはある種族の特徴と一致する。何百年も前から姿を消し、既に滅びていると囁かれていた種族。
そこには一人のエルフが立っていた。
「......やっぱりエルフだったのね」
その呟きを聞いたボニータはアンジェに言った。
「おい、女だ。アイツ女だったのか」
「貴方、刺された割にはまだ元気がありますわね。しかも驚く所は種族ではなく性別なの? 確かに......驚きましたけど」
「なるほど、残りの枠に立候補するわけだ......しかも美人だぜ、ヤバいんじゃないのか、グフッ、ガハッ」
「血を吐きながら言うセリフじゃありませんわね。ちょっとでも心配した私がバカみたいですわ。私の腰にあるポーチに薬品が入っております。早くそれで治療を」
「ああ、だが治療は殿下の方が先だ。私はまだ大丈夫だ。グフッ」
「全く......それなら血を垂らしながら言わないでくれるかしら?」
「いや、間違いなくボニータは重傷だ。仮にも私が短刀で思いきり突いたのだからな。ほぼ根元まで刺さっていただろう? 生きている方が不思議な位だ」
「余計な事を言うなアルバイヤ。仮にそうでも殿下の方が先に決まっているだろうが。そういうお前も重症なんだぞ」
確かにアルバイヤの傷も深い。首元を抑えてはいるが、出血は続いている。無理からぬ事だろう。獣人の攻撃をその体に嫌と言うほど受けているのだから。
「私は今この形を解く事が出来ないのですわ。ええと、キャサリン王妃様、すみませんが私のポーチから薬品を出して治療を始めて頂けませんか?」
「え、ええ。もちろんよ。ええと、これね。これは何? 赤いのと青いのがあるけど?」
「青が傷薬、ポーションですわ。赤いのはブルワーク24って言う薬品ですわ。赤い方はまず殿下へ。青いのはこの二人に使って下さいまし」
王妃はポーチから薬を取り出すと皆へと与え始めた。ポーションを振りかけるとあっという間に出血が収まっていく。
「すごいな、首の出血が止まり傷自体が治っていくのが分かる。何だこの薬は? リンクルアデルにはこのような薬品が普通にあるのか?」
「それはヒロシ様が開発したポーションですわ。今までの高級ポーションが粗悪品に見えますわ」
「誰だそのヒロシと言うのは?」
「リンクルアデルを代表する大商会の社長ですわ。あと......私の婚約者ですわ!」
「おい、さらっと大ウソをつくな。勝手に婚約者になるんじゃない。全く恐ろしい女だ」
「......これからなるから同じ事ですわ!」
「違うのか......そうだろうな。仮にも王女様が商人と婚約など......」
それを横目に王妃は殿下へブルワーク24を飲ます。すると辛そうな顔をしていた殿下の顔は赤みを帯び、その表情は和らいでゆく。状態が良くなっている事は傍目に見ても明らかであった。
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