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キャサリン王妃はアレックス殿下を庇う様にしながらも口を開いた。
「あ、貴方達は?」
「キャサリン王妃ですね? 私、リンクルアデルはシュバルツ王の娘、第一王女アンジェリーナ・フォン・アデルと申します」
「第一王女? リンクルアデルの第一王女ですって? それは一体......?」
「始まりはセントソラリスの王女がドルスカーナへ助けを求めた事ですわ。そこでシュバルツ王を含む私たちが偶然居合わせたのです」
「しかし......それにしても何故アネスガルドまで?」
「セントソラリスを助けに来た私たちはそこでアネスガルドとの関係を聞き、一人の男がアネスガルドに蠢く闇、その陰謀に気が付いたのですわ!」
「まさかそんな事が......」
「そのまさかですわ! 説明は後程ゆっくりと。今は先程叫ばれた言葉、操られていると言うのはどういう事なのでしょうか?」
「三大鬼の内、一人は裏切り、残りの二人は私とアレックスを守るため戦ったのですが、ノーワンを前にするとなぜか戦意を失くし、その首にベルトを巻かれたのです」
「ベルト......従属の首輪!」
「まず間違いないだろうね。ノーワンの言惑の言葉を浴びせられた隙につけられたのかも知れないね」
「従属の首輪? その様なものが......兎に角、彼女は操られているだけなのです」
「だけど、今の状況で手を出す訳にはいかないわ。ボニータがそれを許さないでしょう?」
「だろうね。騎士とは面倒臭いと思う時があるよ」
「そういう問題かしら?」
「ごめん、失言だよ。あと、その子は、いや殿下の名前はアレックスと言うのですか? 確か前王もアレックスだったかと?」
「ええ、アレックス二世、前王の子です。しかし......今はこのように衰弱してしまって......」
「連れて逃げるのは難しいようだね。あのタンダスと言う男を何とかしないと」
そこまで話をしてアンジェはボニータへと大声で伝える。
「ボニータ! アルバイヤの首輪を外して! それを外せは意識は覚醒するわ!」
「グオオオオ、この状況で首輪を外せだと? 全くリンクルアデルの姫様は無茶を言ってくれる」
「ガアアアアア!」
そういう間にもアルバイヤのの力は強くなってくる。ボニータの口からも血が落ち、二人の拮抗はまさに崩れようとしている。ボニータの右手は短刀を持つ手を抑え、左手は動かないようにアルバイヤの頭を押さえている。
アルバイヤがその短刀を一層深く突き刺した。
「グオオオオ!」
ボニータはそこでキャサリン王妃を見て叫んだ。
「首輪は外す! だが生死の保証は出来ん!」
そうしてアルバイヤのうつろな目を見て言った。
「貴様、その眼は操られていたからなのか。騎士として本来の責務を果たせぬ事は死より辛かろう。この私がその呪縛から解き放ってやる......白獅子参の型『牙』」
その時、ボニータの体が二回りほど突然膨れ上がる、辺りを包むのは今までとは全く違う『気』、そしてその顔はまさしく獅子のように変貌していく。
そして......ボニータは口元から牙を光らせ低く唸ると、そのままアルバイヤの首元へと噛みついた。
「ガアアアアアア!」
アルバイヤの首元からは鮮血が吹き上がる。しかし喉笛をかみ切ったかのように思えたボニータの口元から見えたのは......従属の首輪であった。
「これで元に戻らなかったら私の負けだ。血が出すぎて力が入らん」
その状況を見てタンダスが喚き始める。
「は? なんだ? なんだそりゃあ! 殺せ! 殺せよ! 何を格好つけてんだ!? 気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇ! お前を殺そうとした鬼人だろうが! なぜ殺さない!」
ボニータはアルバイヤの手をゆっくりと離し、わき腹から短刀を引き抜く。
「心配するな、この気狂いが。お前はちゃんと殺してやる」
ボニータはゆっくりと立ち上がろうとするがその足元はおぼつかない。第三形態もすでに解除され、元のボニータへの姿へと変わっている。大量の出血と疲労で形態を維持できないのだろう。
「はっ、この死にぞこないが。獣人はいつも死ぬ直前まで五月蠅い。ノーワン様が首輪の実験に使いたがる訳だ」
「何? 貴様、同胞を実験台にしていたと言うのか? ......まさかバルボアの悲劇の元凶は貴様達ではあるまいな?」
「知るかそんな事は。どこで誰がどうなろうと知った事ではない。どこかの国やらでそう言った楽しい事が起きていたとは聞いたがな?
「貴様、楽に死ねると思うな......よ」
と、ボニータが言った所で彼女の足の力が抜ける。すでに限界近くと言って良い。その時、ボニータを支えたのはアルバイヤであった。彼女も満身創痍である。それも当然であろう。獣人の、獣人化した力で幾度となくその殴打を受け、首元に噛みつかれたのだ。普通ならとっくに死んでも良い攻撃である。
「お前......正気に戻ったのか?」
「ああ、貴殿の声は聞こえていた。ボニータと言ったな。其方には感謝の言葉しかないが......今はこの状況をどうするかだな。このクソは私が殺してやりたいが......」
アルバイヤも自身の体の状態は理解できている。このままタンダスと戦っても結果は明らかだという事も。
「ふん、死にぞこない二人が粋がった所で脅威でも何でもないわ。纏めて殺してやる」
「お待ちなさい!」
そこでタンダスの後ろから声がかかる。その声の主は......アンジェであった。
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