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「降りてこないわね? これは......空の掟かしら? 地上は森の民がいるからって事?」
「そうかもしれぬな。ヒロシの言っていたエルモまで到達できないというのはこの事だったのか。だが......」
「そうね......だが、なによ?」
「アイツが言っていた到達出来ないと言っていた理由は恐らくもう一つある」
「なによ」
「それは俺達をこの場所に配置させた事だ。そりゃアネスガルドの王都ハイランドに近いという理由もあるだろう」
「そうね」
「だがその真意は俺達が此処にいる事を敵に認知させるためだ。つまり国境付近で直ぐにアネスガルドに攻撃を開始させワザとドラゴンを呼び込んだのだ」
「それって......まさか」
「そうだ......勘でもなんでもない。アイツは空の覇者がいる事、そして神罰の発動条件を知っていたという事だ。一体アイツはなんなんだ!? お前よくアイツの嫁なんてやってられるな?」
「まあ、それは......ヒロくんだからよ!」
「なんだその理由は。俺はこれで納得して良いのか? よく分からんが......まあいいだろう。おそらく国境付近にセントソラリスの騎士団だけでなく獣人とリンクルアデルの冒険者を多分にこの地に配置したのは、こういう事態が起こった時に連携を取りやすいからだろうな」
「なるほどね」
「更にだ。何故呼ばれてもいない森の民がこの場所に来たのか、それも今となっては分かる。実は聞こえてたのだがな、お前の事を妃と呼んでいただろう? つまりだ。彼らは戦闘にきたのではない。万が一の際にお前を守る為に来たのだ」
「そうかしら? でもそうだとしても特別扱いは困るわね」
「だからこそヒロシはお前の良く知る者達でこの場を固めたのだろう。お前は誰も見捨てないだろう? お前の命令なら森の民は必ず行動に移すだろうからな。ヒロシはお前の性格を良く分かってるよ。愛されてんな?」
「ままま、まあヒロくんならそこまで考えて当然だわ。アッガスも中々お利口じゃない」
「ふん。お前を妃と呼ぶのだ。陛下の話も信憑性を帯びて来たというわけだ」
「もう陛下も知ってるのね? でもヒロくんは何も決めてないわよ?」
「ドルツブルグの長老がそんな話を匂わせたらしい。勝手に話を進める訳にもいかず、長老も脇を固めるのに必死なのかもしれぬな。しかしアイツらしいとは思う。どこまで流し続ける事が出来るか見ものだ。ガッハッハ」
「アンタもよく分かってるわね?」
「少ない友の一人だからな。だがアイツがどうするつもりか知らぬが、勝ち逃げは許さん。もう一度手合わせしない間は納得しないぜ」
「はぁ、虎獣人はホントそう言う所こだわるわね」
「まあそう言うな。気に入っていればこそのワガママだ」
「襲っちゃダメよ?」
「当然だろうバカもの、ん? 船から兵士が出てきたぞ? 生きてる奴がいるのか」
「無理やり着地した船もあるからじゃない?」
「よし、じゃあ殲滅するか。お前らいよいよ戦闘だ! 行くぞ!!」
「「「おおおお!」」」
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アネスガルド、王都ハイランドに建つ王城へ忍び込んだ三人。彼女たちは慎重に歩を進めるのだが。
「誰もいないじゃない、どうなってんの?」
王城はガランとしており、衛兵はもちろん従者すらいない。それは異様と表現するに十分に値する状態であった。
「もはや確定だろう......いまや王を守る者はいないという事だ。ノーワンが何をしたのか知らぬが、奴の力は我々が思うよりずっと強力なのかも知れんな」
「これでは隠密をかけて慎重にいく必要がないね。どちらかと言えば先を急いだほうが良さそうだ。気配探知だけは継続して行うから、片っ端から城内を巡って王族を探そう」
「そうね」
「それが良いだろうな」
そう言うと三人は誰もいない廊下を走りだした。走る事暫く、ラースはある部屋に人の気配を感知する。
「あの部屋がそれっぽいよ」
「そうなの?」
「うん。間違いなくあるね、人の気配が」
「それはつまり、当たりじゃないのかしら?」
「まあね。でも問題は部屋に入るには扉から入るしかないって事だよ、当然だけどね。どこかの一室に軟禁されている方が良かったんだけどね」
「でも、無理やりでも押し入るしかないわね。ここは私が突っ込むからラースは援護を。アンジェは隙を見て王妃様まで走って説明を」
「それで大丈夫ですわ」
「階下では戦闘が始まっているようだね。その気配も感じるよ。おそらく手筈通りサーミッシュが来たのだと思う。しばらく持ちこたる事ができたら応援が来てくれるよ」
部屋に近づいていく中、ラースは違う気配を感じた。
「あれ? ......どうやら相手は待ってくれているみたいだね」
「どういう事?」
「知ってか知らずか、いやそういう命令かな? こちらに気付いているように思えるんだけど動きが全くない。でもここまで来たら入るしかないかもだよ」
「上等だわ。敵が何人だろうと全てぶちのめしてやるわよ」
「そうね」
「いや、アンタは怪我させるわけにいかないから離れてなさいよ?」
「え、ええ。ありがとう。えーと、応援は任せといて」
「ふふ、頼りにしてるわ」
「じゃあ、入るよ?」
そして三人は扉をゆっくりと開けた。
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