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よろしくお願いします。
「クロ、シンディ、直ぐに陛下のところへ戻れ! 全員で守るように伝えるんだ」
「!? 承知致しました。ヒロシ様は? ここにいる屍人は?」
「おそらく、いや間違いなく屍人はノーワンの仕業だ。術者を倒せば屍人は自然にその術から解放されるだろう。今必要なのはノーワンを倒すことだ」
「アネスガルドの兵は?」
「先程見えたあの光からすると恐らくアリアナが言惑を解く事には成功したと思う。それと同時にアネスガルドの兵が混乱し始めているようだからな。彼らを正しく導くように伝えてくれ」
「分かりました、それでヒロシ様は?」
「俺は王城近くのエルフに同じことを伝えてから戻る。エルフは俺の言う事なら聞いてくれるだろうから直接行って話すようにしないと」
「了解しました。ヒロシ様が戻るまで死守します」
「頼んだぞ、出来る限り早く戻る。あと、仮面をつけておけ。最後にもう一つ、戻ったらサリエルさんにサティ達もこちらへ呼ぶように伝えてくれ。彼なら国境付近の部隊と連絡をつけれるはずだ」
「承知しました、それでは後ほど」
「ああ」
俺は二人に向かってそう言うと王城下にいるエルフの元へと急いだ。
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時を同じくしてセントソラリス国境付近にて。
「飛行船が見えてきたな。今更だがあれが王都にまで到達しないとは本当か? ヒロシの考えとは言え、悪く言えばアイツの勘と言っても良いレベルなんだがな」
「ヒロくんが言うんだから間違いないわ!」
「お前、それはただ単に......」
「なによアッガス?」
「いや、何でもない。む? あれはどういう事だ? サティ、何か思い当たる事があるか?」
アッガスが聞いたのは、おかしな事に数隻の飛行船はそのほとんどが旋回して舵をアネスガルドの方へと向けた事だった。明らかに帰還しているように見える。
「いえ......おかしいわね? でも全部ではないわ。一部はまだ向かってきているようね」
アリアナがノーワンを攻撃したことにより言惑の能力が消えた事をアッガス達が知る由はない。言惑が切れた者は困惑しつつも船をアネスガルドへと引き返す行動をとったのだ。
なら残った船に乗るのはどういう者達か? それは言わずもがな、言惑ではなく己の意志をもってノーワンに妄信している者達であろう。
「兎に角だ、アネスガルドへと引き上げてくれるなら有り難い事だ。あとここが済んだら直ぐにハイランド城に向かいたい所だがそれは大丈夫なのか?」
それまで二人のやり取りを聞いていたガイアスがへ森の中から一団が現れたのを見つけた。
「ん? あれはセントソラリスではないな。アネスガルド......でもないか? アッガスさんにサティさん、あれは......森の民か?」
「む? そうだな。応援に来てくれたのか」
一団は皆の前まで進んでくると言った。
「我らは森の民サーミッシュ。我らが王の命によりセントソラリス防衛に助力させて頂く」
彼らは自らの変化を解いておらずエルフではなくサーミッシュとしてこの場へとやってきたようだ。
「貴方達、あのサーミッシュよね?」
「そういうあなたは......サティ様? これは失礼致しました。はい、サーミッシュでございます。長老よりここでの術の解放は認められておりませんので私たち本来の姿に関しては何卒......」
サーミッシュの一団はサティを前にして臣下の礼を取る。
「分かったわ。困らせるような事はしないわよ。あと普通に接して話してくれないかしら?」
「まさか。お妃様に対して礼を忘れ普通に話すなどありえません」
「お妃様? ああ、そういう事になるのね......分かったわ。私も何も言わないから貴方達もこの件に関しては言ってはダメよ? 私もヒロくんからまだ答えを聞いた訳ではないから」
「心得ました。それではその様に......」
「サティそれにサーミッシュよ、お前ら何をコソコソ話しておるのだ? まあ、とにかく援軍は多いだけ助かるな。俺たちもセントソラリスに助太刀している所だ。詳細はセントソラリス騎士団と話をしてくれないか」
「あなたはロイヤルジャックのアッガスさんですね? 承知しました。だが飛行船からの攻撃は恐らくほとんどないでしょう。白兵戦の方に注力しておくべきだと」
「あの空の一団を見てそう言うか。何か根拠があるのか?」
「我らが王が言う事に間違いはございません。ただそれだけの事です」
「ふん、王ねぇ。まあ深くは聞かないがな」
そこまでアッガスが言った時、飛行船より矢と油が降り注がれた。
「始めやがったか! 矢はそれほどまで多くない! 動いて森の中へと一旦避難しろ!」
確かに矢の数は多くはない。しかしその先端には火がつけられ降り注がれた油に向かって投擲される。
「アイツら、森を焼く気か! 何を考えてやがる!」
「おのれ、森に火を放つなど......森の怒りに触れる事になるぞ」
「怒りに触れるのは良いが兎に角今は消火作業が先決だ! このまま焼きながら進まれたら王都は火の海になるって事だ! おい、お前ら全力で延焼を食い止めろ!」
「「「おお!」」
各兵士たちは水魔法や土魔法などを用いて即座に消火作業にあたる。まだ国境付近という事で油の量をそれほど多く散布していない事が功を奏したのか、一気に燃え広がるという事が無いのが幸いであった。
しかし皆が手分けして消火作業を進めると言え、空からの攻撃が止む事は無い。物量が少ないとは言え、一方的な攻撃を加えられている中、兵士たちは必死で対応していた。
「チクショウ、このまま王都エルモまで進むつもりか? どうすんだよアッガスさん!」
その言葉を受けてもアッガスには返すだけの考えがない。相手は空の上、手を伸ばして届く距離ではないのだ。アッガス達は空を飛ぶ飛行船をただ見上げるしかないのだ。
「ヒロシ......お前を信じているが、今の俺たちはあまりにも無力だ」
アッガスが空を見上げながら呟く......まだ誰も空に起こる異変に気付く者はいない。だがその異変は既に始まっていた。
どこからか何かの音がしているような......地鳴りのような......いやこれは?
「「「グオオオオオオオォォォン」」」
遠くから聞こえてくるそれは、怒気を含んだ咆哮のように聞こえた。
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