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「我らはこの戦闘はあくまで立会い。元々双方でそう話がされておるはずだ。それを......見る限りもはや決闘の枠を超えておるぞ」
「うむ、ダルタニアスよ。ワシもそう思う。しかしヒロシなら何とか逃げておると信じておる。そうであろう? しかしヒロシの事もあるが、最早戦闘への参加を考えている場合ではなく治安維持を考えなくてはなるまい。流石に魔獣が街を襲っているのは見過ごせまい?」
「確かにな。あの魔法一発でどうにかなる奴ではあるまい。むしろあれを利用して姿を隠したと考えるのが自然とすら思える。お主の言う通り早急に治安維持に協力すべきだろうよ。ん? どうしたユリアン卿よ?」
ユリアンは望遠鏡を握り締めてプルプルと震えている。
「おのれ......」
「なに? 何と言ったのだ?」
「おのれ、おのれおのれぇぇえ! よくもヒロシ様に魔法攻撃など! 許せぬ。断じて許せぬ!」
「ちょ、落ち着かれよ、ユリアン卿。確かに魔法を喰らったように見えるがヒロシならきっと大丈夫だ」
「これが落ち着いてなど居られようか! 低俗なゴミクズ風情が我らが王に攻撃を加えるなどと! あのクソ共がぁ! 根絶やしにしてくれるわ!」
「おいおい、ユリアン卿落ち着かれよ。大丈夫だ、大丈夫だ」
「直ぐに着陸を! いやサリエルは一体何をやっておるのだ? あの役立たずが! もし、もし万が一、いや億が一、王の身にかすり傷の一つでもついて居ようものなら軍法会議にかけて死刑にしてやる!」
「無茶苦茶言っておるな......物騒な事を言うでない。会った事はないがそのサリエル軍務卿が可哀そうになってきたぞ。それよりお主、さっきからヒロシを王だと全力で認めておるが良いのか?」
「全くだ。何が『私はそれほどでもありません』だ。妄信していると言って良いレベルではないか。見ていて恐ろしくなるわ」
「アネスガルドのゴミクソ共がぁ......極大魔法で草の根一本残さず焼き付くし......」
望遠鏡を握り締めながらひとしきり文句を言ってユリアン卿も少し冷静になったのか、そこで彼女はハッと我に返ったようだ。
「はっ!? ふうふう、大丈夫です、少し落ち着きました」
ユリアンは両陛下に振りかえるとニッコリと微笑んだ。
「う、うむ。なら、良いのだが......」
「そ、そうか、それなら良かった......」
「しかしどうするシュバルツよ? もはやアネスガルドは混乱を極めておる。我らの部隊を投入して街中の魔獣は何とかするべきであろうよ。今回の件、民に罪はないはずだ」
「そうよな。それが最善であろう、いつでも民は巻き込まれるだけよ。もはや先方の出方云々ではない。治安維持の為に早急に行動を開始した方が良いだろう」
「うむ。それと同時にノーワンの謀略をアネスガルドの兵と民に伝えた方が良いだろう。真なる敵は内にありとな」
「あの灰色の集団がノーワン一派だろう? まずはアレと魔獣の討伐が最優先事項だ。ユリアン卿もそれで良いな?」
「後は無事に着陸できるかどうかだが......む、ユリアン卿何をやっておるのだ?」
ユリアンは何事か唱えながら宙に手で何かを描くようにすると魔法陣が浮かび上がってきた。
「む? なんだそれは?」
「ええ、これは森の民が使う通信技法です。着陸態勢を整えるためにサリエルと連絡をした方が良いでしょう。直ぐに繋がると思うのですが......あ、サリエル? 良かった通じたわね。今から飛行船を着陸させたいのだけれど」
「こちらサリエル。よし、お前も頭上の飛行船に乗っているのだな。こちらは今から突入を開始するつもりだった所だ。着陸に関しては大丈夫だろう、こちらは特に大きな問題はない。」
「も、問題がない......ですって?! あなた今目の前でヒロシ様が巻き込まれていたのを見てたでしょう!? 王の身を危険に晒しておいて、それを何が問題ないよ! 問題よ、大問題だわ! あなたも問題よ! ぐぐぐ軍法会議に」
「ちょ、落ち着けユリアン。彼の方は大丈夫だ。いや、お前こそ何を口走っておるのだ? そこには両陛下もいるのではないのか?」
「いるわよ! だから何よ! はっ!」
「それこそ問題だと思うのだが......まあ良い。我らはこれより戦闘に参加する。長老の話ではノーワンを何とかすれば言惑のスキルは解けるであろうとの事だ。ユリアン達は着陸したらセントソラリスと合流すると良いだろう。後は両陛下の姫君に加勢する。両陛下についてはご安心して頂いて結構ですよ」
「サリエル軍務卿でしたな。ご助力感謝する」
「すまないがよろしく頼む。我々も直ぐに治安維持に動く」
「了解しました。ユリアンがご迷惑をお掛けして申し訳ありませんがよろしく頼みます」
「心得た。こちらもセントソラリス王家含め問題なく対処しよう。存分に力を振るわれると良い」
「了解しました、それでは後程。あ、あとヒロ......ゴホン、あの商人たちですが、別行動をとるようで既に場を離れております」
「そちらも了解した。ヒロシなら無事だと信じておった。それでは後程お会いできる事を楽しみにしておる」
「有難きお言葉。それでは失礼」
「うむ」
そして通信は切れた。
「ユリアン卿、便利な技法もあるものだな。これだけでも十分助けになる。どうした?」
「コホン......あの巻き込まれた商人と我々の王とは特に関係在るとも無いとも言いませんわ」
「......まあ今はそういう事にしておこうか」
「もうワシもそれでよい......」
シュバルツは直ちに着陸態勢を取らせると共に、両陛下は騎士団にセントソラリスへの加勢及びアネスガルド王都ハイランドで暴れる魔獣の鎮静化を指示したのだった。
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