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よろしくお願いします。
ファティマ達ファントムがノーワンの周りへと集まりだしている頃。
「しかし驚きましたわ。気球と言う乗り物は書物の世界の話だとばかり。このような乗り物で空を飛べるなど自分が体験しなければとても信じられませんわ」
「私は見た事も聞いた事もなかったな」
「飛ぶと言うより、浮くと言った方が良いかもだよ。本来は火を使ってサイズももっと大きくなるんだけど、そこは魔法やら技術やらドルツブルグの機密事項だよ」
「普通なら飛ぶ......いや浮く事もないと?」
「今のこの大きさだと火を使ったとしても浮かないと思うよ。単純に空を行くなら飛行船の方が便利だし、森の民は飛行船を必要としないからこれで十分なんだよ」
「サーミッシュ、いやドルツブルグの暮らしに興味が出て参りましたわ」
「残念だけどそれは秘密だよ。争いを好まずひっそりと暮らすのがサーミッシュだからね」
「そう聞いてはおりますが......本当残念だわ」
「そんな非戦闘民族に道案内をお願いするのは悪いと思ってるわ」
「ボニータさんが気にする事はないよ。それに僕は冒険者でもあるからね」
「なら良いのだけど......」
眼下に広がる森林を見下ろしながら気球はゆっくりと上昇を続ける。
「ここで降りよう」
「そうね」
「あ、あそこに括りつけておけますわ」
ボニータとラースは気球から素早く降りると手早くロープを括りつけてゆく。
「なかなか手際が良いですわね」
「アンタは早く降りなさいよ」
「そ、そうね。失礼」
「これから暫くは僕にピッタリ着いて来て下さい。隠密のスキルを発動しますので、離れなければスキルの恩恵を受ける事が出来ます」
「分かったわ」
「了解しましてよ」
「アンタしっかりついて来なさいよ」
「もちろんですわ!」
「あまり急ぎすぎてもバレては意味がありません。急がず焦らず、それでいて迅速に。では参りましょう」
そうして三人は静かに城内へと侵入していったのだった。
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一方、アネスガルド王都ハイランドの空上では。
「眼下にアネスガルド王都ハイランドが見えて参りました」
「うむ」
船員の一人が報告に入ってきた。それに合わせて両国王とユリアン内務卿は窓から様子を伺う。
「先の話の通り決闘をしているようだが......既に乱戦となっていないか? それに街の様子がおかしい。あちこちで煙が上がっているぞ? どうなっておるのだ?」
ユリアンは懐から小型の望遠鏡を取り出して街の様子を見た。
「どうやら魔獣が暴れているようですね」
「魔獣だと? どうして魔獣が...... ん? その手に持っているものはなんだ?」
「え? ああこれは小型の望遠鏡ですよ。船にも取り付けてあると思いますがそれの小型のものとなります」
「なんと、そのように小さいもので遠くのものが見えると申すか?」
「もちろん。どうぞお試し下さい」
シュバルツはユリアンから望遠鏡を受け取ると覗き込む。
「ううむ、すごい。ここまでよく見えるとは。しかし本当に魔獣が......ダルタニアスよ。どう見る? いや済まぬ、望遠鏡が無いと分かり辛いか」
「気にするな。獣人は目が良いのだ、この距離なら問題はない。魔獣が暴れておる事は見えておる。魔獣の方はアネスガルドの騎士団が対応しておるのか? 戦闘どころではないという事か? どこから湧いて出たのだこの魔獣どもは?」
「まさかセントソラリスが......? いや、流石にこの短時間で魔獣をけしかける事など出来ぬだろうしそのような事はせぬだろう。偶然に襲ってきたのか、それとも......まさかバルボアの時のように故意に?」
「私もその可能性が高いと思いますね。そう、故意に魔獣を街中に放った可能性です。ただ、ノーワンと言う男が自ら街中に魔獣を放ったのか、戦力としてみていた魔獣が暴走したのかは分かりませんが。前者だとしたらもうあの男は狂っているとしか......」
「ん? 今下で戦っているのは誰だ? あの姿......魔族か? 見た所セントソラリス側の戦士に見えるが、セントソラリスの騎士団には魔族がいるのか?」
「あの魔族は......恐らくは聖騎士の団長、聖騎士アリアナでしょう。彼女もまた神の試練を受けし者と長老から聞いております」
「魔族ではないのか? それに神の試練だと? どういう事だそれは?」
「申し訳ありませんが、それは長老のみ知り得る事で私には答える事が出来ません。しかし......私はそれも全て明らかになるのではないかと考えています」
「ふむ、長老のみ知り得る情報か。あと魔獣と戦っている者達と城付近にいる者達とは戦闘衣装が違うな......灰色の者が城の周りに多い......あれは両方ともアネスガルドの兵か?」
「いえ、アネスガルドの騎士団は衣装からすると恐らく街にいる者達でしょう。城周りにいるあれはまた別の部隊。恐らくはノーワン直属に組織された者ではないかと思います」
「あいつは内務卿ではなかったのか? どうして個人で部隊を持っておるのだ。益々訳が分からん」
「んん!? 何だあれは。魔法か? かなり激しくなってきたぞ! あの場所にはセントソラリス女王もいるのではないのか?」
「ええ、王城前は混戦模様ですが、お構いなしに放ってますね。女王は、ええと、はい。兵士に囲まれて後退しております。両国の内務卿も一緒です。ご無事のようです!」
そう言いながらもユリアンは望遠鏡を覗きながらピントを合わせているのか忙しなく手を動かしている。
「そうか。まずは一安心というわけか」
「はい、良かったです。あっ! 今一際大きな魔法が放たれました! 何と言う大きな魔法なのか......地面がめくれ上がってます。パラディンが立ち塞がって威力を殺してはいますが......あ! ああっ!」
「む、どうしたのだ!」
「いま魔族の横をすり抜けた魔法がヒロシ様の方へと向かって......あ! 巻き込まれた!!」
「なんだと?!」
魔法は商人、ヒロシの方へと向かっていき彼らを飲み込んでしまったかのようにみえた。魔法は辺りを蹴散らし瓦礫は宙を舞い、文字通り強力な竜巻でも通過して行くような光景であった。
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