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「彼の方に、我々の王に存在を認めてもらえる絶好の好機。彼の方に仇名す者を我らが生かしておく理由はございません。ドルツブルグの精鋭たちが王家の周りの森からいつでも参戦できる体制です」
ユリアンはそこで一旦言葉を切り少し考える仕草をすると再び話し始めた。
「参戦に関してはドルツブルグの軍務卿であるサリエルが指揮を執っているので問題ないでしょう。彼は今回の件に関して鼻息を荒くしておりますので」
「ん? お主はそこまではないと言う訳か?」
「わたくしは......まあそれほどでも? 王の存在に畏怖の念はあれど鼻息を荒くするとまでは」
「とてもそういうようには見えぬがな。十分態度に出ているように思えるが......まあよい、あと王と言ったな? しかも仇名す者は生かしておく事が出来ぬなどと......それがサーミッシュの発する言葉とは到底信じられん。よもやお主、我々をその証人にさせるつもりではあるまいな?」
「うむ。セントソラリスの部隊を国境付近に待機させておいて、お主らの精鋭部隊は王城周りの森にいるとは。セントソラリスの防衛を考えると分かる気もするが、一方ではお主らがその功績を彼の方という者に見せる口実にも思えるがな?」
「さて? 仮にそうだとしてもセントソラリスとアネスガルド、そして両国の姫君までを巻き込んでいるのです。両陛下にはそれを見届ける責務があるかと存じますが?」
「お主も父親同様食えん奴だ。それで彼の方とは誰だ? 王とは誰だ? ヒロシであろう?」
「それだけはご勘弁願いたい。まだ決まっても居らぬ王の名を口に出す事など出来ません。出過ぎた真似をして王の不興を買うなど絶対にあってはならぬ事なのです」
「セリフまでも父親と同じか。イライラしてきた。事が済んだらすべて聞かせてくれるのであろうな?」
「それが我が王の望みであるならば。しかし長老の話ではラスに状況により封印の解放を許可している様子。そうなれば自然と貴方達が知りたい疑問もいくつか明らかになるかも知れませんね」
「封印? それが王女が無事であると言う根拠か?」
「確かに。天空の剣はAクラスではあるものの個人でロイヤルジャックと肩を並べられる程かと言われれば疑問ではある」
「封印を解くだけでは真の力は解放されません。しかし長老は行動に移す前に彼の方より祝福を受けております。森の民は存分にその力を発揮してくれることでしょう」
「祝福?」
「ええ。ただ彼の方には祝福を授けた意識はないかも知れませんが。長老が受けたその祝福はエルリア様の加護を通じて我々森の民に等しく与えられるでしょう」
「ヒロシらしいわい。あとラス? ラースではないのか?」
「ふふ、ラースは息子、ラスは娘と言った所でしょうか?」
「訳が分からぬ。ワシもイライラしてきた」
「しかしユリアン卿よ。お主はもうヒロシと言う名前を出しても否定をしなくなっておるの?」
「私は否定も肯定もしておりません。ただそれも直ぐに明らかになるでしょう。それよりまずは明らかになっている事の収拾を図るのが先決ではありませんか?」
「ダルタニアスよ、余も言いたい事はあるがここはユリアン卿のいう事が正しいであろうよ。早急に行動に移すべきだな」
「うむ、そうだな。しかしこれから行くとなると......」
「リンクルアデルの飛行船で移動すれば良かろう?」
「飛行船か......どうも空を飛ぶと言うのはな」
「そんな事を言っておる場合か。リンクルアデルからはマリーの護衛を省いた騎士団を全員連れて行く。ドルスカーナは?」
「こっちも同じだな。ユリアン卿はどうするのだ?」
「よろしければご一緒させてもらっても宜しいでしょうか? ドルツブルグ側は長老とサリエル軍務卿が動いておりますので問題ありませんでしょう」
「そうか、それでは直ぐに行動を開始するとしよう」
「森を抜ける事が出来れば良いのですが......」
「簡単に曲げれる掟ではあるまい? 気にしなくても良いわ」
「恐れ入ります。しかしアネスガルドに到着しても着陸できるかどうかは分かりません」
「このような言い方は好きではないが......ヒロシの護衛がセントソラリスの援護に回っているとはいえ、我々が国を挙げて戦闘に参加するわけにもいかぬ」
「もっともなご意見かと」
「更に我々が乗る飛行船を混乱の中へ着陸させるわけにはいかぬ。状況を見て着陸態勢に入る事になる」
「ごもっともです」
「戦闘後の治安維持協力と違い、緊急着陸をする可能性がある場合、それは両国が正式に戦闘に参加すると言う意思表示となる。取りようによっては三国がアネスガルドを滅亡に追いやったと世界は見るかも知れぬ。それは絶対に避けなければならぬ。ユリアン卿よ、分かるな?」
「承知しております」
「しかしアネスガルドのノーワンと言う男......本当にただの内務卿なのか? 権力者であってもその能力で国を掌握するなど聞いた事がない。あまりに広範囲に作用しすぎている」
「うむ、何やら秘密がありそうな気はするが......その辺りはこの目で見て確かめるとしよう。ノーワンと言う男の力が強大であればヒロシにも助けが必要であろう」
「そうよな。とにかく事態を収束に向かわすため治安維持には協力する。証人にもなろう。しかし我々が戦闘に参加するのはまた別の話だ。そういう意味ではサーミッシュ、いやドルツブルグに期待する部分もあるが」
「はい。彼の方をはじめ関係者は我々森の民が必ず守り抜きましょう」
そうして両国の王も飛行船にて飛び立つのであった。
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